水曜日

第400話 翡翠の女神の初ライブ!

「おかしくない?」


『はい』


 ミオンにニッコリそう返される。

 まあ、アバター衣装が着崩れたりはしないんだろうけど、気持ち的な問題というか、いまいち落ち着かない。


 今いるのはミオンのスタジオ。

 今日のライブはヤタ先生の提案もあって、俺とミオンがスタジオにいる状態からスタートになった。

 まず最初に『公式の翡翠の女神に任命された件』について軽く雑談してから、俺がIROに行って飯テロして終わりでいいんじゃないかっていう。

 確かにミオンの方に質問が集中するだろうし、その時に俺がIROでボーッと待ってるよりは、隣にいたほうがいいよなと。


「ショウ君の方が緊張してますねー」


 カメラの後ろ、スタジオの端からヤタ先生の呑気な声が。

 そうは言われても、直接映るのって初めてだし……


「ミオンは翡翠の女神の服装じゃなくていいんですか?」


「公式PVの再生数が落ち着くまではー、こちらは控えめの方が喜ばれるかとー」


「ああ、確かに」


 せめて2週間ぐらいは置いたほうがいいのかな。

 特別な時にだけってぐらいでもいいのかも。


「開始まであと10分ですがー、もう1万人ぐらい待機してますねー」


「うわあ……」


 やべえ。心臓がバクバクしてきたんだけど……バーチャルだから気持ち的な意味で。

 ちょっと他のことを、IROのことを考えよう。


「あー、昼は結局、鍛治ばっかりになっちゃったね」


『釘もたくさん作ったと思うんですけど、いつの間にか使い切っちゃってたんですね』


「そうなんだよな。作りすぎたかなって思ってたぐらいだったのに」


 床板の張り替えの続きをやろうとしたら、手持ちの釘がなくなりかけてて、慌てて増産する羽目になった。

 一枚張り替えるのに4本ずつ使ってれば、そりゃあっという間になくなるよなと。屋敷もかなり広いし。


「まあ、自作複製のアーツのおかげで随分楽に増やせたけどね」


『すごかったです!』


 工芸(鍛治)のアーツ、自作複製を使って、大中小の釘を作っては複製し、クールタイム中にまた作ってを繰り返して、かなりの量を用意することができた。

 俺だけじゃなくて、パーンたちも使うだろうしってことで、そのほかのL字金具とか蝶番とかも。


「そういえば、なんでもやれそうなパーンたちも、鍛治は興味ないっぽいんだよな」


『やっぱり火が怖いんでしょうか?』


「それか……、確かに怖いもんな」


 料理とかで火を使う分には平気そうだけど、鉄も溶かすような温度とかって、そもそもVITないときついしなあ。


『そういえばショウ君。シャル君にケット・シーの王国の話を聞いてませんけど……』


「あー、それなんだけど、シャルが気にしてるようなことだったら悪いなあっていうのがあって、いまいち聞くタイミングを逃してるんだよ」


 ケット・シーの王国。PVを見る感じだと『あった』って過去形っぽいんだよな。

 ラムネさんが見つけたっぽいお城、崩れてたし……


『そうですね……。スウィーちゃんに聞いてもらうというのは?』


「なるほど。スウィーに頼んでみるのも手か……」


 ちょっと情けない感じだけど、俺が聞くよりもスウィーからの方がいいか。

 そういえば、スウィーも女王だけど、どこかに国があったりするのかな?

 フェアリーの国っていうと、ティル・ナ・ノーグだっけ? あとで調べよう。


「あと3分ですよー」


「『はい』」


 話してるうちに落ち着いた、かな?

 今日の主役はミオンだし、俺は添え物でいよう……


 ………

 ……

 …


『みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムヘようこそ!

 実況のミオンです。よろしくお願いします!』


【ガーレソ】「<女神降臨!:5,000円>」

【デイトロン】「<公式女神就任おめでとう!:50,000円>」

【ルーランラン】「<PV登場おめ!:3,000円>」

【サイフマン】「<翡翠の女神にお賽銭:10,000円>」

 etcetc...


 うわーうわーうわー……

 予想はしてたけど、投げ銭がすごい勢いで流れていく。

 しかも、今回は額がいつもの倍じゃ済まないんだけど……


『お祝い、たくさん、ありがとうございます!』


「あ、ありがとうございます!」


 呆けてた俺にミオンの声が届いて、慌てて俺もお礼を言う。

 すると、


【フェル】「ショウ君はPV初休暇おめw」

【クサコロ】「ルピちゃん分が足りなかった……」

【ナンツウ】「シャル君出して欲しかったよ〜」

【ユンユラー】「島が出なかったのはPV設定の方?」

 etcetc...


 あー、そっか。

 魔王国アプデのPV出演の許諾関連のせいかと思ってる人がいるのか。


『えっと、ショウ君』


「あ、うん。ミオンが出たPVはまだ、PV出演許諾のアプデ対象前だから関係ないんじゃないかなって。普通に採用されなかっただけだと思います」


 そう話すと「えー」って感じのコメントが。

 で、当然、今後についての設定を聞かれたんだけど、


「PV出演許諾については、都度問合せにしてあります。まあ、その、あんまりネタバレ的なものを流れちゃうのはどうかなって」


【ムシンコ】「ワイもそうしたわ〜」

【ジャズ】「月額値引きが美味しいので全許可一択」

【コックリ】「PVに先取りされるのもヤダもんね〜」

【リンレイ】「都度了解!」

 etcetc...


 納得してくれてるみたいで、ちょっとホッとする。


『私もそれでいいと思います。せっかく、私だけが見れた場面を、勝手に公開されるのは嫌ですから』


「あー、うん、はい」


【スイフト】「ぐはっ!(吐糖)」

【シェケナ】「あま〜い♪」

【ブルーシャ】「いいよいいよ〜(*'▽'*)」

【ウタゲテー】「深刻な壁不足な件」

 etcetc...


 そのあとはミオンに対する軽い質問コーナーって感じで、収録の時の様子とかを。

 これに関しては「オープンにしていいですよ」というお墨付きをもらってたし、むしろ話題にしてくれという感じだったかな。


<そろそろ20分ですー>


『ショウ君。そろそろIROの方に』


「あ、そうだね。じゃ、いってきます」


「はぃ。いってらっしゃぃ」

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