第361話 さすが本物?

 セスとマスターシェフさんが本部(?)を出て、向かう先は竜族がいる区画への入り口。

 その手前で何か話し合っているのは、アージェンタさんとゲイラさんかな。近づいてきた二人に気づいて軽く頭を下げるあたり、相変わらず真面目……


『すいません。お話中に』


『いえいえ。先ほど白竜姫様が島から戻られたと報告がありました。情報提供ありがとうございました』


 アズールさんから連絡が行ったのかな? どうやって……、ああ、転送魔法とか使えるだろうし、それでか。


『何かありましたか?』


『まず、交流会ですがあと2時間ほどで終了ということで良いでしょうか?』


 マスターシェフさんから撤収の段取りなんかが説明されるんだけど、事前に打ち合わせてた通りの内容らしい。

 アージェンタさんはもうすぐ撤収するそうで、あとはゲイラさんがみたいな話。なお、バーミリオンさんは頭数に入ってない模様。

 で、


『それともう一つお願いしたいことがあるのだが……』


 セスが申し訳なさそうに切り出したのは、乱入したケット・シーたちの件。

 まだ全体数もざっくりとしか把握できてないが、100人前後のケット・シーがいるそうで……


『なるほど。私としてはお受けしたいのですが、良いでしょうか?』


 とゲイラさん。

 問われたアージェンタさんも頷いてくれるんだけど、


『もちろん構いませんが、彼らは警戒心も強いと聞きます。我々に囲まれてというのも落ち着かなそうではありますが……』


『そこは……教会へ連れて行けば問題ないかと』


 え? そうなの?


『不勉強で申し訳ないのだが、翡翠の女神像の近くなら落ち着くということであろうか?』


『はい。妖精たちは翡翠の女神が自然を愛する心から生まれた者たちです。母なる女神の前で粗相はしないかと』


 あー、うん。アズールさんもそんなこと言ってたね。


『ショウ君とスウィーちゃんがいてくれればねえ……』


『くくっ、そうよのう』


 セスが笑いを噛み殺してて……事実だからいいけどさ。

 で、ゲイラさんたちで保護してくれるなら安心なんだろうけど、


『そのことを猫さんたちにどう説明するんでしょう?』


「そうだよな。っていうか、ケット・シーたちのリーダー? ボス? そういうのっているのか?」


 俺の問いかけに、気持ち頷くセス。

 ベル部長たちがケット・シーに個別に話しかけてたけど、あの中にボスっぽいのはいなかった気がするし。


『では、まず彼らのリーダーに説明しておかねばの』


『そうだね』


『私も行きましょう。ゲイラはここで』


 とアージェンタさん。ゲイラさんを残して、3人で来た道を戻る。

 それを見ているとヤタ先生が、


「そういえばー、手持ちの翡翠の女神像はないんでしょうかー?」


「あ、翡翠の女神像! あれ持ってないか? さっきの話ならあったほうが良いんじゃないか?」


『ふむ。マスターシェフ殿、翡翠の女神像を持っておったりはせんか?』


『あー! って、ごめん。今は持ってないな。店に飾ってあるんだよね……』


 店に飾って……いや、まあ、うん。

 うちのファンらしいし、わかるんだけど……

 で、取りに戻ろうかという話をしているところに、


『でしたら、こちらを……』


 とアージェンタさんがどこからか取り出したのは、当然、翡翠の女神像。なんだけど……それって俺が翡翠の女神にしたやつ!


『おおっ、これは!』


『本物だね!』


 本物って! いや、本物だけど!

 ちらっとミオンを見ると、さすがにちょっと恥ずかしそう。


『お、セスちゃんにシェフさんと銀竜さんか。どうしたんだ?』


『我らが落ちた後の話をの。ケット・シーらは竜族の区画で保護していただけることになったのでな』


『ああ、そりゃありがたい。いや、助かります』


 そう答えるのはナット。

 アージェンタさんに礼をし、意思疎通に頑張るベル部長とポリーを呼ぶ。

 セスから説明を受けた二人が、ノームたちも呼んで進んでいく先には、ふてぶてしい顔つきのケット・シーが難しい顔をして座っている。

 服装も他のケット・シーたちに比べてちょっと豪華? 貴族っぽい服装がよく似合ってて貫禄たっぷりな……


「ボス猫だ」


「凄味がありますねー」


『可愛いです!』


 ミオンの感想に俺もヤタ先生も思わず「え?」ってなってミオンを見たんだけど、本人はニコニコ顔で……いや、それは今はいいや。

 セスたちが近づくと、瞑っていた目をうっすらと開くんだけど、睨むというか興味なしという雰囲気……


『相変わらずのようだのう』


『まあ、猫だしな。ぃでっ!』


 セスの話だとボス猫はずっとあんな感じらしい。

 で、余計なことを言うなとポリーに肘鉄を食らうナット……


『翡翠の女神像をお願いできますか?』


『うむ』


 アージェンタさんに言われ、セスが翡翠の女神像を取り出すと、


『ニャ!』


 くわっと目を開き、急に片膝をついて頭を下げる。

 その様子に皆が驚いていると、今度はすっと立って顔を上げて、


『ウア〜オ〜!』


 と大きく鳴いた。いや、叫んだ? 吠えた?

 これは……


『え? ええっ!?』


 ベル部長たちが驚いてるけど、俺の予想通りボスの元に集まってくるケット・シーたち。

 ぐるっとセスたちを取り囲み、さらにその外側には追いかけてきたプレイヤーたちが輪を作る。


『おいおい……』


『これは……どうしたものかのう?』


「セス。ポリーに翡翠の女神像で聖域張ってもらって」


 セスに聖域を作ってもらうのでもいいんだろうけど、俺と同じ条件に近づけるなら、精霊魔法とノームの守護者を持ってるポリーの方が適任のはず。

 さっそくセスに言われ、少し戸惑いつつも、ポリーが聖域を展開すると、ケット・シーたちから歓声が上がる。いや、ノームたちも喜んでるな。


『今なら意思疎通ができるやもしれん』


『え、ええ、わかったわ』


 ノームたちと歩み寄り、しゃがんで目線を合わせて話しかけるポリーに、ボスがまた片膝をついて頭を下げる。

 ポリーが話し、ノームたちも加わって、顔を上げたボスが答えてる感じだし、なんか今までよりは通じてる?


「今までよりはお話ができてそうですねー」


『ショウ君、気づいてたんですか?』


「いや、はっきりとじゃないけど、翡翠の女神像の聖域の中だとスウィーとの意思疎通が良かった記憶があって……」


 木像を作ろうとしてた時とか、なんか通じてる感じがあったのは、だいたい翡翠の女神像の聖域があった時だったはず。


『さすがショウ様が作られた女神像ですね』


『さすがよの!』


『さすショウだね!』


 アージェンタさん、そこはスルーして!

 そして、セスもマスターシェフさんも賛同しないで!

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