第345話 可愛いの一本釣り

「リュ!」


 洞窟の側壁のわずかな出っ張りに足をかけ、ひょいひょいっと登っていくパーン。

 どういう身体能力というか物理法則なのか……ゲームだけど。

 手には俺が渡したロープの端を持ってくれている。万一、何かあった時のためにと、出た先に岩とか樹とかあれば、そこに括り付けてもらう予定。


「リュ〜?」


 登りきったところで周りを見渡しているパーン。

 モンスターとかいたらまずいなと思ってたけど、どうやら大丈夫そう?


「〜〜〜?」


「いいけど、風に飛ばされないようにね」


 スウィーも上を見たがったので、注意した上でオッケーを出した。

 すーっと上昇し、天井から顔だけ出し……きょろきょろとあたりを見回すと、


「〜〜〜♪」


「リュ」


 どうやらロープを括り付けられそうなものを見つけたらしく、パーンがスウィーの指差した方向へと消える。


「キュ〜……」


「大丈夫だよ」


 心配そうに見上げているトゥルーの頭を撫でる。ふわふわ。

 パーンたちウリシュクは高いところは平気っぽいし、ロープはしっかりと持ってくれてるので大丈夫。


「リュ!」


「お、さんきゅ」


 スウィーが指定した何かに回してきたロープを持って帰ってきたパーンがそれを渡してくれる。

 グッと両方を引っ張ってピンと張り、体重をかけても問題なさそうなのを確認。


『気をつけてくださいね?』


「うん。よっと!」


 こういう時、重力魔法で体重を軽くできると楽なんだろうなあと思いつつ、自分自身を引っ張り上げる。上半身まで出せればあとは楽勝。


「なるほど。あの岩にロープを通したんだ」


 ロープはアーマーベアぐらいの大きさの岩を2回りしていて万全っぽい。というか、それ以外に目立ったものがなくて、ほぼまったいら。

 ……これ、人工的に作られた場所かな?

 北側は港と灯台が、南側はオリーブの森とその先に崖。東側はもちろん海が見え、西側は島の中央の火山が綺麗に見える絶景の場所。


「ワフ!」


「キュ〜?」


「ごめんごめん。ちょっと待って。先にトゥルーからね」


 ロープを渡すと、それをぎゅっと手……ヒレで握るトゥルー。

 謎だけどそれがしっかりしてるのは何度も経験してるので大丈夫のはず。


「行くよ。せーのっ!」


「キュ〜♪」


 軽っ!

 思ってた以上に軽くて心配になるけど、無事引き上げ成功。

 で、次はルピなんだけど……どうしよう?


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 スウィーがロープをまた下へと垂らして……

 え? ルピが手……前足で握るの? と思ったら、それをカプッと咥えた。


『え……』


「なるほど、ルピなら平気だよな」


 とはいえ、長いことぶら下げてもなので、すっと負荷がかからないように定速でロープを引き上げる。


「ワフ!」


「えらいぞ〜」


『ルピちゃん、すごいです!』


 自分より大きなグレイディアに噛み付いて引き倒すぐらいだもんな。

 当然なんだろうけど、ロープを咥えて引き上げてもらうという方法を思いつく賢さはしっかりと褒めてあげないと。


「さてと……」


 二人が来たがったから引っ張り上げたけど、特に何もないんだよな。

 まあ、景色が綺麗だからいいんだけど。


「リュ〜」


 パーンがこっちこっちと手招きするのは、ロープを回した大きな岩。……裏側に何かあったり?


「ん、特に何も……あ、いや、そういうことか」


『ショウ君?』


「いや、ここの段差を降りて、向こうの岩にさらに行けるっぽい」


 で、さらにその岩から次の岩へとっていう……道になってるわけじゃないし、どこかで行き止まりになってるよな? なんだか気になるし、行っておくべきか……


『屋根は後回しにしますか?』


「ああ、そうだった! ごめん、ここはまた別の日に来よう。とりあえず雨が吹き込まないようにしないと」


「ワフ」「リュ〜」「キュ〜」


 了解の返事を返してくれるルピ、パーン、トゥルー。

 スウィーだけが顎に手を当てて何か考えてる風で……それがまた気になる。


「スウィー、お芋もらって帰らないとだよ」


「〜〜〜!」


 途端に「それがあった!」みたいな顔になって、フードへと帰ってくるスウィー。

 屋根もそうだけど、開通した向こう側も一応確認しとかないとだよな。


 ………

 ……

 …


「ただいまっと」


 スウィーのおかげ、神樹を通ってあっさり盆地に戻ってこれた。


 洞窟の仮の屋根は空いている部分の支保に石壁を渡した簡単なものを。そこそこの厚みを持たせたし、台風とかが来なければ大丈夫のはず。

 一応、風が強い日は気をつけるようにトゥルーたちに伝えておいたけど。


 そして、土砂崩れだった場所の向こう側は10mほど先が出口で、やっぱりカムラスの樹がある場所から見えてたところ。

 雑草が生い茂ってたけど、セルキーたちが綺麗にするということでおまかせで。

 これでトゥルーたちもいつでもカムラスを食べられるようになったし、何より行き来が楽になったのが嬉しい。


「じゃ、また明日ね」


「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 11時を回ってるということで、ダッシュで山小屋へと戻る。


「ワフ」


「「バウ」」


 レダとロイは蔵へと。

 2人もずっと蔵住まいなのなんとかしてあげたいなあ……


『あ、ショウ君。お手紙が……』


「うわ。ごめん、もう少しいい?」


『はい。大丈夫ですよ』


 月曜から夜更かしは避けたいところだけど、手紙が来てるなら読んでおかないと落ち着かない。

 魔導転送箱を開けると、そこには手紙だけが入ってて、ちょっとホッとする。

 アージェンタさん、送ってくるものが結構やばいし……


『ショウ様


 昨日はアズールがお世話になりました。

 本土の方にて新たな古代遺跡が発見されましたが、こちらで情報収集したところ、魔王国の南西にある島だとのことです。

 竜族が保有している転移魔法陣から行ける場所では無いようで、その詳細については不明のままです。

 ショウ様のおられる島とは関係が無いかと思われますが、転移魔法陣のこともありますのでご注意ください。


 また、アズールより小型魔導艇について伺っております。

 こちらはいつでもお届けできますので、ご都合の良い日時をお伝えいただければと思います』


 えええええ……

 そんなすぐに必要ってわけでもないんだけどなあ……


「うーん、どうしよう?」


『あまり深く考えずに、トゥルー君たちと遊ぶために使うのはどうですか?』


「ああ、なるほど。ちょっと沖まで出て釣りとかもできるか……」


 あ、でも、沖まで出るとモンスター出るんだっけ? 湾内なら大丈夫?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る