水曜日

第237話 準備は大事

 いつもの部活だけど、ベル部長はなかなか来ず。水曜なのでヤタ先生も職員会議中なんだろう。

 先にIRO行ってもいいんだけど、今日のライブはのんびり畑仕事と決めてるので、特に慌てることもなく、昨日のベル部長のライブを見返したりしてる。


「風の元素魔法すごいなあ」


『ですね』


 突風の魔法でストーンゴーレムを吹き飛ばすと、その後ろにいたスケルトンナイトが巻き込まれてバラバラになる。

 極め付けは、


『<雷球>!』


 ピンポン球ぐらいの小さなプラズマが飛んで行き、スケルトンナイトの鎧に着弾した瞬間、バチッという音と共に崩れ落ちる。

 風系の魔法は雷を使えるお約束はIROにもあったらしい。


「そういえば、風の精霊との契約方法ってまだ見つかってないんだっけ?」


『はい。みなさん、いろいろ試してるみたいですが』


 状況的には前に聞いた時とあんまり変わってないらしく、諦めムードが漂ってるんだとか。

 スウィーが使ってたからお願いしてみたけど、結局、あの場所ではダメだったっぽいからなあ。


「俺も応用魔法学<風>を取るか……」


『ショウ君、火の方はどうですか?』


「え? 火? 確かに火の精霊も全然だけど、島で着火以外に何か使う?」


 着火の魔法は便利だけど、それ以外で攻撃魔法で火を使うのって気を使うんだよな。

 特に島は樹々も多いから、山火事とか洒落にならないし。


『あの本に「熱について」とあったので、温めたり冷やしたりできるんじゃないかって』


「ああ!」


 温めるはいいけど、冷やす方の魔法は欲しいなあ。

 水の精霊に冷水を出してもらうことはできるけど、氷までは出せないっぽい。ということは、雪の精霊とかいるのかな?

 わらび餅もそうだったけど、冷やす料理、デザートを作ろうとすると、冷却の魔法? が必須になるわけで……


『ただ、水の方にも氷と書いてあったので、どっちなのかが……』


「なるほど。水を凍らせるために、温度下げる冷却っていう魔法があっても良さそうだよね」


『はい』


 うーん、難しいところ。

 地水火風っていう分類だと、どっちにでもあるかもか。

 それなら、基礎魔法学の方にあって欲しかったところだけど……


「ま、ベル部長に任せよっか」


 ベル部長の日曜のライブでは、15階のフロアボス、リビングアーマー数体とバローワイトってのを倒してる。

 そこで応用魔法学<水>の魔導書を見つけて大はしゃぎしてるところでライブ終了だった。

 ちなみに、その後の戦闘でレオナ様はキャラレベ20に到達し、ワールド初のキャラクターレベル上限到達とかいう褒賞をもらったんだとか。

 ワールドアナウンス流れてたのかな? 俺も10時前にはログアウトしちゃったからな。


「遅くなったわ」


「ちわっす」


『こんにちは』


 4時半過ぎになってベル部長が登場。

 急いで来たのか、少し走った感じ?


「なんかあったんです?」


「え? ああ、修学旅行の打ち合わせよ」


 来週の月曜から4泊5日という日程なので、あれやこれやと持っていく物を分担して……みたいなことを話してたらしい。


「まあ、全員で同じ物持っててもしょうがないっすよね」


 女子だとドライヤーとか必須なんだろうけど、誰か一人持ってれば十分だもんな。


『ショウ君はお義姉さんが修学旅行に行かれたんですよね?』


「あ、うん。そうなんだけど、真白姉はほぼ着替えぐらいしか持って行かなかったかな」


 まあその着替え、服やら下着やら準備して「これでいいか?」ってやったの俺なんだけどさ…… 


***


「さて、ちょっと木材調達しとこうかな」


『あ、女神像ですね』


「うん、それもあるけど、ライブで畑の世話をした後に、一輪車作りでもしようかと思ってて」


 アージェンタさんが来るってことで保留にしてた一輪車。

 蔵にある木材でも足りそうだけど、微妙に足りないとかなると悔しいので先に調達しておこう。余っても無駄にならないし。


『スウィーちゃんたちが集めてくれてた物の鑑定はしないんですか?』


「あー、うん。あれはライブの後にしようかと」


 なんかそこでまた変なものが見つかったらと思うとなんだよなあ。

 翡翠の女神像で神聖魔法が取れる可能性も含めて、今日のライブが終わって落ち着いたらにしよう……


 ………

 ……

 …


「ワフ!」


「〜〜〜!」


「お? ルピ、どうしたの?」


 とりあえず1本を丸太にして蔵に運んだところで、ルピとスウィーがやってきた。

 ご飯の後は好きに遊びに行っていいよ、だったんだけど何かあったか?

 スウィーがついてこいって感じなので、二人を追いかけて……泉の方?


「おお! 立派になってる!」


『すごいです!』


 俺の肩よりも小さいぐらいの若木だったグリーンベリーが、いつの間にか2mを超える高さの成木になって、たくさん実をつけている。

 で、フェアリーたちがそれを丁寧に一つずつ採って集めてくれてるっぽい。


「〜〜〜♪」


 ドヤ顔の女王様だけど、彼女たちが育ててくれたんだし、何か報酬をあげないとだよな。


「砂糖もあるし、グリーンベリーのジャムでも作ろうか」


『いいですね!』


 わらび餅にジャムとかもフェアリーたち好きそうな気がするし、残りの時間でなんとか小瓶一つ分ぐらいは作れそうかな?


***


「ただいま」


『おかえりなさい』


 5時半前にログアウトして戻ってきたんだけど、ベル部長はまだIRO中かな?

 あの後、パプの木の成長具合も改めて確認したんだけど、それなりに大きくなってきてて、でも、もう一伸びある感じ?

 パプの木は普段見えるところにあるから、逆に成長したのに気付きにくいな。


「ショウ君、またお手柄よ」


「え?」


 ベル部長がリアルに戻って来たようで、にっこり笑って続ける。


「コショウの実が見つかったそうよ」


「おお!」


『良かったです!』


 そういえば、ナットや奴のフレンドさんたちが探しに行ってたと思うけど、時間的には別の誰かなのかな?

 そんな顔をしてたのがバレたのか、


「ああ、ポリーさんの彼氏? ナットくんの知り合いが見つけたそうだから、そこは心配しなくていいわよ」


「あ、はい。ってか、あの二人は付き合ってるわけでもないんですけど」


「あら、そうなの?」


 ベル部長がふふんって顔してて……普通は察するよなあ、あの二人。

 それはいいとして、


「一応、ナットからギルド立ち上げるつもりって話を聞いてるんですけど、ベル部長はその話は聞いてます?」


「そのポリーさんから聞いたわよ。うちとしても、ギルドの連合を考えてたし、死霊都市にもそろそろって考えてたからありがたいわ」


 ん? ギルドの連合とワールドクエストって?


『ワールドクエストと関係があるんですか?』


「ええ、ちょっと面倒なことになってるんだけど……」


 ベル部長が苦笑いしつつ話してくれたのは、本当にめんどくさいことだった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る