3日目(火)
第5話 部活勧誘期間
自宅から学校、美杜大附属高校まで電車通学。
最寄り駅まで10分歩き、電車に15分乗って、学校まで5分歩く。所要時間30分強。
チャリ通もありかなと思ってるけど雨降るとキツいんだよな。
いつも通りの時間の電車が来てドアが開くと、整列乗車に従って並んでいる人たちが前から乗り込んで行く。
自分の前に並んで流れていく人を見ていると……あれは出雲さんかな。同じ駅だったとは。
最後尾だった自分も乗り込むと、まあ満員電車というほどではないが、それなりの混雑だ。
軽く見回すと、出雲さんの後ろに定年が近そうなサラリーマンっぽいおっさんがいて妙に近い。
出雲さん、気が小さい感じだし、こういうの見てるとイライラするんだよ……
「おはよ」
スルッと人混みを抜けて、出雲さんとの間に割り込んだ。
「ぁ、ぉはよぅ……」
振り向いた出雲さんが明らかにホッとした表情を浮かべているので、危ないところだったようだ。つか、後ろにいるおっさんが臭い……
15分の我慢タイムをクリアして電車を降りる。
「大丈夫?」
「ぅん……、ぁの人、匂ぃ嗅ぃできて……」
どんな性癖なんだよ、あのおっさん……
人の匂い嗅ぐ前に自分の臭いをなんとかしろっての。
「良かった。まあ、電車あの時間なら俺と同じだから、ヤバそうなら声かけて」
「ぁりがとぅ……」
こういう時に姉貴がいたら面倒みてもらえるんだけど、入れ替わりで卒業しちゃったからなあ。
***
「おは」
「貴様、裏切ったな……」
教室で席に着いたところでナットにいきなり言われた。挨拶ぐらい返せ。
「なんでだよ」
「出雲さんと登校してきただろ」
「あれは同じ電車に変態がいたから助けただけ」
「なんでお前はそんな簡単にフラグを立てれる!」
いやいやフラグとかないから。
だいたい、あれを見過ごしたことが仮に姉貴にバレでもしたら……寒気が走る。
「あのな、ナット。俺は女の子が困ってたら助けないと殺られるんだよ。姉貴に」
「それは知ってる。ところでその美人のお姉さんは元気にしてますか?」
「してるんじゃないの? 女子大の女子寮だから俺からは連絡取れないし……」
電話していいのは女性だけ。父親ですら連絡できないというお嬢様女子大の女子寮。
あの粗暴な姉貴が行っていいのかどうか激しく不安だ。面接通ったのが奇跡って言われたしな。
「ホームルーム始めますよー」
チャイムが鳴り、担任の熊野先生が入ってきたので、おしゃべりは終了。
「おはようございますー。今日から部活勧誘週間が始まりますのでー、皆さん何かしら興味のある部活に入ってくださいねー」
面倒なことに、うちの高校、美杜大附属高校は帰宅部が許されない。
なんで、俺としては趣味に合致した部活を選ぼうと思っている。てか、もう決めてるけど。
ホームルームが終わり、先生が出ていくと、ナットが振り返って聞いてくる。
「お前、もう部活どこにするか決めてんの?」
「電脳部の予定」
学校案内には
IROができればベストだけど、まあ他のゲームでも。ゲームがダメでも配信見るとかはできそうだし。
「お前はどうすんの? やっぱり陸上?」
「そのつもりだけど悩んでてなー」
「ガラでもない」
「うっせ。まあ、遊びたいけど走るのも好きだし。試合とか記録には入れ込まない程度でやる予定」
「運動部系はガチでやると大変だしな」
そんなことを話しているうちに、チャイムが鳴って雑談はお開きになった。
………
……
…
「じゃ、俺は陸上部んとこ行ってくるわ」
ナットが手早く荷物をまとめて飛び出していった。
なんだよ、めっちゃ乗り気じゃねーか。
俺も荷物をまとめて教室を出る。
運動部は中庭、文化部は体育館で勧誘するという決まりだそうで、ゆっくりと体育館へ向かうと……
「うへ、めっちゃ混んでる」
体育館はすでに人でいっぱいだ。
まあ、マンモス校で全校生徒何かしら部活してるならそうなるよなあ。
それに文化部の数もかなり多いせいで、部ごとに長机とパイプ椅子2個のブースがコミケみたいなことになっている。
ああ、壁は美術部とか吹奏楽部みたいな大手なんだな。
「さて、電脳部はどこだろ……」
壁に大きく配置図が貼られていたので、それを眺めると……端っこか。
朝のように人混みをスイスイと抜け、目的の電脳部のところに来たんだが……
「おい、誰もいないじゃん」
一応、長机の上に『電脳部』と書いた紙——しかもこれ何かの課題のプリントの裏だろ——が置かれていて、その隣には入部届の用紙があった。
ここまでやる気ない部だったのは意外だったけど、逆に幽霊部員でも怒られないってこと?
んー、部活決める期限は今週いっぱいまであるけど、何度も来るのめんどくさい。とりあえず、記入して部室に行けばいいか……
***
文化部部室棟の廊下。既に入部を決めた一年生や、案内中の二三年生が結構いる。
まあ、あの体育館でだべってるわけにもいかないだろうし。
「ここか」
三階ある部室棟の二階の一番奥が電脳部の部室らしい。あまり大きな部室ではなさそうだけど、
とりあえずノックするかと手を上げたところで、先に扉が勢いよく開いてびっくりする。
目の前に現れたのは……胸でかいな。それに合わない黒髪ストレート姫カットの美人だ。二年生の先輩かな。タイの色からして。
自分より背の高い女性は姉貴がチラついて、ちょっと引き気味になるな……
「あら? ひょっとして入部希望かしら?」
「えっと、どういう部なのか説明を聞きに行ったら誰もいなくて、とりあえず部室に来てみましたっていう……」
そう言われてニッコリ……いやニンマリという顔をされて背筋に悪寒が走る。
これは逃げたほうがいいかもしれな……
「え、いや、ちょっ!」
次の瞬間、俺の腕ががっしりと掴まれ、部室へと引きずりこまれる。
「ようこそ電脳部へ。さあ、我が部自慢の設備をご覧なさい」
そう言われて見回した部室内。
一番最初に目に留まったのは、出雲さんの姿だった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます