ダークトピア残骸の刻印

飛瀬川吉三郎

第0業約一ヶ月前


---7月20日---


『7月48日事件』はどんな実話を暴露する週刊雑誌でも載せられない事件だろう。


7月18日の30日後、8月18日、何かが起こる。


鬼柄猛おにがらたけしはそんな予感を7月20日に感じていた、最近の不良業界は妙にきな臭いという事を感じていた。


「ちっ、だるいな」


彼の愛用の煙草はキャスター、甘いバニラの香りと甘さが特徴の本来女性向けだが、彼は男性にも関わらず喫煙している。


甘党だからだ。


新宿歌舞伎町のビルの屋上で喫煙を続ける、彼はこのビルの二階で探偵をしている女性から情報整理された情報を待っている。


彼女の副業は情報屋をしている、現実の探偵というのは事件の謎を解くのではない、浮気調査、尾行、人探し、それによって培った情報を裏社会の人間に横流しするのだ。


ガチャリと、屋上の扉が開いた。


「遅かったな」


そこにいたのは彼女だけでは無かった。


「………鬼柄猛だな」


探偵兼情報屋の女性は顔に痣や傷がありながら猿轡をされて彼等に人質にされていた。


彼等は黒いフードをしていて、その黒いフードの背中には髑髏の羽のある羽が描かれている事だろう、彼等は『ブラック・ジーザス』と呼ばれる黒色のカラーギャングだ。


「で、何が目的だ?」


「………何って?」


とぼけるな、我等ブラック・ジーザス暗黒救世主ダークメサイア様を何故嗅ぎ回る?」


「質問を質問で返そう、お前らこそ何が目的だ?」


知っていて答えに確証を持ちたいだけの奴等と自分がしたい質問、優先されるのは自分。


「………権利を主張しているだけだ」


「権利?」


政治団体みたいな事を言い出した。


「世界は我々を拒絶して否定している、そして、教祖が再来すると信じてる」


「教祖は今どこにいるんだよォッ!」


「俺達の邪心こころの中だッァッ!」


ネガティブに見えてポジティブな一言が放たれた。


「心ォ?」


「我々の悪意は普遍的なモノだ、人間ならば誰だって持つ、狂気と断じてはいけない」


「………一理あるな」


「そして、我々の思想が世界を満たす『未来永劫の暗黒楽園ダークエデン』を作り出すッゥ!」


「世紀末って事か?」


「いいや………簡単な話だ、ずっと不良のままでいたい、ただ、それだけだ……」


お子さまぶりたいだけの小理屈と言うことか、それだけのために仰々しかった。


「もういいぞ、舜麗しゅんれい


「ゴバッ」


黒服の男達で呻き声がする、両手を束縛するまでもないとたかをくくった結果がそれだ、手足が自由ならば関節の自由はいくらでもあるということだ。


黒服の男達の中で咲く絢爛豪華な拳の花、掌低しゅうていは地下格闘技でさえタブー視される威力を持つがまさにそれだ、腹に一撃でも顔に一撃でも大差ない。


心臓に強烈なのが当たれば心停止もありえる、だが彼女はそこまでしないだろう。


「この猿轡、使い回しカ?臭かったネ」


と、猿轡を外しながら彼女は言う。


「そレニ今は八尾舜やおしゅんと名乗っテる、本名で呼ばないで下サイ」


「そりゃ、悪かったな」


八尾探偵事務所の女探偵は名乗り直す。


彼女はヤオと呼ばれる、舜が姚墟で生まれたため、舜の子孫が姚姓になる、舜は中国古代王朝の王様であり、四凶と呼ばれる魔物を封じた退魔師でも知られるのの当て字として八尾やおを名乗っている。


そういう話は別に今はどうでも良いのかもしれない、彼等が追っているのは四凶の饕餮とうてつではなく蠅の王ベルゼブブだからだ。


「これから暫く携帯電話でやりとりかな」


「そーナルね」


「釣って見たが狂信的なだけだったな」


「ヤはり幹部連が問題カ?」


「いや、髑髏部隊カラベラや女性のみの親衛隊しんえいたい羅刹国らせつこくもあるだろ」


「………ジャあ、髑髏部隊カラベラを一番先に洗い直すか?樋堂ひどうルイス、今崎いまさきホセ、脛津すねつアンヘル、私が特に調べていたのは今崎いまさきホセ、どここにはいない」


「いいや、ここにいるぜ」


倒れたはずの黒服の男達から一人。


噂をすれば影ということか。


ゾンビのように立ち上がる男性。


パーカーを目深く被った長身巨漢の男性、彼の怪腕によってそのパーカーのフードを取り払った顔にはタトゥーがある。


トライバルタトゥーで☣️というバイオハザードを意味する危険を示唆するマークだ。


「この俺様が………今崎いまさきホセだ」


「なんで一度負けたフリを?」


実際問題噛ませ犬扱いにされていた。


「そりゃあ俺様は日本の刑法を学んだんだ、正当防衛ならッ!何をしても許される!」


彼は稚拙な理論武装をしだした。


「そーでも無いヨ!」


そーでも無かったらしい。


「ウルセェッ!俺様の父親は警視総監だ!その警視総監様が海外出張で風俗嬢を孕ませて出来た子供!それがこの俺様だ!」


「なんだってェッ!?」


ろくでもない事を言い出す今崎ホセに驚きを隠せない八尾舜、もはやギャグだが彼や俺達からとしてはとてつもやく真剣である。


彼女の驚愕もごもっともだ。


彼から放たれるパンチをさばく彼女。


屋上は狭いが排気口ダクトとかは少ない。


なので、足運びはかなり出来てしまう。


だが、彼女は強いが彼よりか弱いだろう。


それを悟った鬼柄猛は今崎ホセに向かって走り出す。


ジャンプしてストリート仕込みの落下しながらのボクシングのストレートパンチ、これをスラムダンクパンチと呼ぶこともある。


「多くの日本人の拳には殺気がこもっていない甘ちゃんばかり!だがお前は違うな!」


そんなパンチを食らっても立ち上がる今崎ホセ。


「それはどうも……俺は絶対に許さない奴がいる、貴様らのリーダーなんだよォッ!」


鬼柄猛はそうして怨嗟えんさを絶叫した。


「ならば敵対相手を潰すの当然至極ゥッ!」


「気を付ケテ!そノ男は決闘の殺しを揉ミ消す力がある、ダカら加減すル気がないのヨッ!」


「最初から気づかせてやった!冥土の土産に教えてやろう!ここがお前の墓場になるからな!俺達のリーダーは


「ありがとな………だが死ぬのはお前だ」


デンプシーロールから放たれるパンチは数倍威力が上がる、ゆったりと、それでいて獰猛に腰が左右に動く、その反動を利用したパンチ、それにボコボコにされる今崎ホセ。


「ガバラァッ!」


「………はぁいっ、終わり終わり、これ以上やると君もしょっぴいちゃうよぉ」


屋上に四人目の配役ネームドが現

《あらわ》れた。


がっしりとした肉体、髪型は短髪で白髪、真っ白だ、それでいて薄汚れたコートにもところどころ白い何かの痕跡が残っている。


そんな有り様だが顔は美形でとてもおじさんとは思えない若作りな顔つきをしている。


新宿警察少年課、不良少年にとって奈落インフェルノと呼ばれる白崎弓月しろさきゆづきという警部である。


「やっぱ上の悪玉ゴミが絡んでたのか、これはめんどくせぇことになったな」


今崎ホセの手首に手錠を回す、彼の後ろにも警察官は複数いてブラック・ジーザスのメンバーに手錠を回す、大量逮捕となる。


「俺はいいのか?」


「お前のは正当防衛って事にしてやる」


と、白崎弓月は鬼柄猛に言う。


「まぁそうだなぁ………いつも通り口止め料はある程度必要だがな」


彼が奈落インフェルノと呼ばれる由縁ゆえん、それは児童性搾取をするからだ。


八尾舜は鼻血を押さえようとしていた。

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