第十九章 新居で始まる新生活

第302話○巣鴨社宅へのお引っ越し前日

 ライブが終わった!まさかナインショートの皆さんがサプライズで出演した上、大崎への移籍を発表するとは思わなかったけどね。ライブ中は特に細かい話はせずに次の話題に移ったそうで、さらにライブのあとはすぐ撤収になったから詳しい話は聞けなかったんだけど、何かいろいろと事情があるんだろうなあ。とりあえずサプライズ連発について太田さんに突っ込んだら「いやあ、配信のチケット購入者が想定の倍以上になったんで予算に余裕が出ちゃったのよねー。」っていっていたけど、絶対に前から仕込んでいたよね!?まったく!楽しかったけどさ!


 さて、ライブが終わったのでお引っ越しだ!費用はもちろん各自が負担なんだけど、諸々の手配を全部事務所がやってくれるから気は楽だよね。私はライブ翌日の30日から5月2日までオフをもらってある。5月2日が大学の授業も休みだったから、光季みつきのお墓参りをしたあと、片付けをして新居での生活のペースを作りたくてね。今日はそんなわけでなかなか進んでいなかった引っ越しの準備をすべく、二人で一生懸命段ボール詰めのラストスパートをした。


 全部終わったのが17時少し前。朋夏が「今日はみんな家で食事出来ないよね」と巣鴨駅の近くにある「旬菜酒場みずしな」という和食居酒屋を19時から予約してくれている。朋夏がランチタイムに偶然入ったお店で、食事がかなり美味しいのにけっこう安くて、一人2品とソフトドリンクを1杯頼めば、お酒を飲まなくても問題ないそうだ。20人くらいはいると一杯になるこぢんまりとしたお店で、12人以上なら貸し切りOKだとのこと。話の流れで、引っ越しとは関係のないメンバーも参加することになったおかげで今日は貸し切りになっている。ちなみに磨奈は巣鴨駅と千石駅のちょうど真ん中くらいにある1Kのレディースマンションに住んでいるので、歩いてくるそうだ。あとのメンバーは準備が出来た人からタクシーでお店まで。私たちはいま住んでいるマンションで同じように最後の片付けをしていた朋夏と一緒にタクシーでお店へ向かう。

 お店に入ると横向きに設置された4人掛けテーブルが縦に4つとカウンタに6席という感じのお店だった。棚にはずらりと瓶が並んでいて、冷蔵庫にもたくさんのお酒が入っていた。


未亜「瓶がすごい!」

女将「そちらの棚は全部本格焼酎なんですよ。冷蔵庫には日本酒とクラフトビールが入っています。」


 思わず独り言を言ったらお店の人が説明してくれちゃった!


朋夏「銘柄にもすごいこだわってるんだって。」

未亜「へー!それなら私が成人したときの飲み会はこのお店がいいかも!」

朋夏「あっ、それいいね!みんな同時に解禁の予定だからまた貸し切りにしてもらって盛り上がってもいいかもね!」


 うん、いまから楽しみ!

 みんな少しずつ集まってきて、もうすぐ19時になるかな、というタイミングで最後の二人がやってきた。


華菜恵「おまたせ!」

未亜「最後は華菜恵と慧一くんだったね。」

華菜恵「いやあ、混んでた。」

朋夏「そんな混んでたの?」

慧一「途中までは順調だったんだけど、ラジオの交通情報で中山道なかせんどうが混んでるっていうんで千石三丁目の交差点から大塚駅の方を回ってもらったよ。」

華菜恵「ますっち、すぐ迂回路が提案できるってすごいよね。」

慧一「たまたま知っている道だったからな。」

紗和「事務所から一緒?」

華菜恵「うん、そろそろ仕事が終わりそうなタイミングで、ますっちにTlackDMしたら、ますっちもちょうど終わるタイミングだったから、じゃあ一緒に巣鴨まで行こうってね。」

慧一「タクシーにしようかと思ったら沢辺さんも今日は上がるところだったから送ってもらえたんだよ。」

圭司「それは良かったな。」

慧一「おう、運が良かった。」


 事務所でバイトしているとそんなこともあるよね。みんなが来たので、朋夏の発声で乾杯をしたあと、華菜恵の音頭で、改めて席を適当にシャッフルしたんだけど、席順決定アプリとかあるんだね!?抽選の結果、私は彩春・華菜恵・磨奈と一緒になった。席に座ると磨奈がニコニコしながらおもむろに話し始める。


磨奈「みんなに話していいってさっき確認取れたから話しておくんだけど、実は5月2日から大崎でアルバイトすることになったの。」

華菜恵「えっ、まなっちも?!」

磨奈「うん!」

彩春「実は私が大石さんに紹介したんだ!」

未亜「そうだったんだ!」

彩春「もともと剣さんがアニメの主役とかゲームのメインキャラクタとかをバンバン決めはじめている上に紅葉と幸大くんも忙しいでしょ。私もVに復帰して企業案件の引き合いがすごくなってて、その上、華頂さんもすごくなってきたんで、3月頭に大石さんから『来月になるとアシスタントマネージャが来るけど、このままだとそれでも回しきれないから誰かアルバイトしてくれる人はいないか』って相談されたの。」

未亜「それで磨奈を紹介したんだね。」

彩春「うん。だって、磨奈、日商簿記の3級と秘書検定の2級、それとITパスポートの資格持ってるって聴いてたからね。大石さんにそれを話したら、一年生のうちにその辺取っているなら会ってみたいっていわれてね。」

華菜恵「えっ!?まなっちすごいね!?」

磨奈「就職の時に役立つかなあ、と思って、去年頑張って取ったんだけどね。まさかその前にアルバイトで役立つと思わなかったよ。」

未亜「資格って重要だよねー。」

磨奈「ほんと、判りやすいからね。」

華菜恵「ちなみに大崎は研修期間中、本当に研修しかしないよ。」

磨奈「えっ!?ほんとに!?」

華菜恵「うん。そのかわり、ビジネスマナーとかコンプラとか守秘義務とか社内システムとかみっちり詰め込まれる。」

磨奈「そうなんだね。うん、がんばるよ!」

未亜「それなら磨奈も社宅に住めるね。」

磨奈「実は彩春ちゃんとシェアハウスするの。」

華菜恵「ええっ!?そうなんだ!?」

彩春「実は、磨奈は大石さんと3月半ばに面接してたんだけど、5月1日からっていうことで採用が決まってね。」

未亜「えっ、それなのに5月2日からなの?」

磨奈「うん、書類上は5月1日なんだけど、引っ越しの日と重なるから実際の出社は2日ってことにしてもらったんだ。」

未亜「なるほどねー。あっ、話している途中にごめんね。」

彩春「ううん、大丈夫だよ!それで、いまのマンションで実家から引き上げた荷物を置く部屋を借りようと思ったんだけど、荷物用で2LDKもいらないけど、1Kは空いていないからどうしようかな、と思っていたところだったんで、2LDKをシェアハウスしないかって誘ったの。」

磨奈「誘われたときはビックリしたけどね。家賃がいまより安くなるからその話に乗ったんだ。」

未亜「そうか、それで新居では4LDKなんだね。」

彩春「うん、荷物だけだと新しい社宅なら3LDKで十分なんだけど、磨奈とシェアハウス出来るといろいろと手伝ってもらえるからさ。配信って一人でも出来るけど、機材操作とか台本作りとかサムネ作りとかを手伝ってくれる人がいるともっと楽にいろいろなことが出来るからね。」

磨奈「アナ研で、台本作って動画の撮影、編集、サムネ作成、そのあとのアップロードと公開まで、全部やっていたからトークのまとめ方とか、カメラの操作とか、AbedoのPrimal Proを使った編集とか、その辺に慣れているんだよね。」

未亜「なるほどね!ライバーさんにとって台本も動画編集も重要な要素だもんね。」

彩春「それともう一つ、磨奈って元々ドルプロのPだからその辺のディープな話にも付いてこられるのも大きいんだよね。」

未亜「あーなるほどねえ。」

華菜恵「動画編集ができるってまなっちすごいなあ。」

未亜「華菜恵もやってみる?」

華菜恵「みあっちが求めるなら頑張るけど、私はそういうセンスないんだよねえ。」


 まあ、得手不得手はいろいろあるもんね。


磨奈「それにしてもみんなと同じ所に住むことになるなんてねえ。」

華菜恵「そうか、まなっち、この前知ったばかりだもんね。」

磨奈「そうだよー。彩春ちゃんの配信を聴いていた感じでは、へべすちゃんも早緑さんもきっと近くに住んでいるんだろうな、とは思っていたけど、大学のランチ仲間がこんな有名人ばっかりでお隣さんになるなんて予想もしてなかったから。」

彩春「えへへー!ホームパーティもしようね!」

華菜恵「まなっちと温泉入りたい!」

磨奈「そうだね!ホームパーティとか温泉とか、楽しみ!」


 そのあとも磨奈はバイトとはいえ芸能事務所で働くのでアナウンス研究会は退会することにしたとか、みんなの正体を知ったときは実はコスプレの相談ではなく5月からのバイトに関する打ち合わせということで大崎へ呼ばれていたとか、華菜恵は新居へ入居すると同時に軽の共用社用車が割り当てられることになったとか、彩春はこのところ指名の出演依頼が結構入っている上にオーディションの勝率も前より上がって秋アニメあたりからいろいろな作品に出られそうだとか、話は盛り上がって、夜は更けていった。本当にこの仲間は気が置けなくて楽しいよね!

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