第297話○巣鴨社宅がすごい!
1階へ移動して、先ほどとは別の所にある自動ドアを使って、エレベーターホールから出る。少し進んだところにある部屋の読み取り機に沢辺さんがICカードを当てると解錠されたようだ。中に入ると……レッスンスタジオ!?
「中はこんな感じです。実はこの社宅には、ダンス用レッスンルーム、歌唱用レッスンルーム、ミーティングルーム、食堂、あと配信スタジオがあります。」
「えっ!?入居者用にそんな設備を用意しているんですか?」
「柊さん、半分正解です。」
「半分ですか?」
「はい。この設備を使うのはこの社宅の入居者だけではないんです。」
沢辺さんの説明してくれたところによるとここのほかに住菱家の墓所と小学校を挟んだ南側の旧住菱重工社宅跡地にも社宅を建てたのだとか。さらにこの巣鴨社宅の北側には元々約40年前に建てられた駒込寮が存在していて、60人のタレントさんが住んでいるとのこと。また、路地を挟んで斜め向かいにあった大正時代に建てられた古い賃貸アパートが約10年前の東日本大震災の影響で居住できなくなり、売りに出たのを購入して、いままさに建替が進んでいる状況で、そこにも60人くらいが住むことになるんだって。そういえばここに来るとき、何か建ててるなあと思ったんだよね。あそこかあ。
そんな経緯もあって、この近辺に大崎エージェンシーの社宅や寮が集中することになったので、かねてから問題になっていたレッスンルームの混雑解消を図るべく、一番まとまった土地となっている巣鴨社宅にこうした設備を用意した、ということらしい。
「この辺に弊社のタレントや社員が300人以上住むことになりますからね。それにこの社宅も含めて1Kは負担金を低めに設定して、新人さんに多く住んでもらう予定なので、寮の近辺でトレーニングまでこなせたら交通費も浮きますから。」
「確かにそうですね。私も仮所属の頃は事務所へ通うための交通費がけっこう大変だっんですよね……。いまはいまで、レッスンルームが押さえられないことが増えていたので、助かります。」
「早緑さんにそういっていただけると計画に参画したものとしては嬉しいですね。ここは大崎にとって新宿・渋谷に並ぶ拠点の一つになるので、そこの事務所は社宅の管理事務のほかに大崎エージェンシー巣鴨営業所になります。あと、大崎スタジオ&アカデミーの営業所も出来て、講師の先生とかも常駐予定です。」
「すごいですね!?」
「あとは配信スタジオも大きな特徴ですね。」
「自室でも配信できますよね?」
「もちろん、岡里さんのおっしゃるとおり、自室でも配信可能です。ただ、新人タレントさんが名前を売るツールとして、いまやライブ配信は必須なのに必要な機材はまだまだ高いですからね。それと芸名なのにうっかり本名を画面共有してしまうとかバーチャルライバーなのにリアルネームの出ている通知が入るとか事故の危険性もあるので、できるだけ事務所で制御をしたいというのもあるんです。」
「あー、そこまでしてくれると新人さんにとってはありがたいですよね……。」
「新人タレントがきちんと伸びていってもらうことは重要ですからね。あ、新人といえば、さっき説明した北側の駒込寮ですが、築40年を超える4階建てなんですけど、6畳のワンルームで今となっては狭い上に老朽化が激しいんです。そこで、寮のワンルームに住んでいる新人タレント60人は巣鴨社宅B棟に引っ越してもらって、6階建てに建て直すことになっています。そうするとこの辺に住むタレントさんがさらに増える見込みですね。」
「B棟ということはA棟もあるんですか?」
「あっ、そこを説明していなかったですね。朱鷺野先生のご質問ですが、いま皆さんに見ていただいたこちらの社宅がA棟です。B棟は北西側にあります。小学校を挟んだ南側にあるのがC棟ですね。」
「なるほど、そういうことなんですね。」
「そういえば、社宅と寮って何か違うんですか?」
「あくまで大崎の場合は、ですが、社宅は地下に駐車場があって社員も居住できる施設です。寮は地下に駐車場がなくタレントさんしか住めない施設になります。儘田先生、こんなところでいかがでしょう?」
「よく判りました!」
「えっと、そうするといま住んでいるマンションは寮ですか?あれ?でも私、住んでいますね?」
「沼館さん、いい質問ですね。皆さんがいま住んでいるのは『借り上げ住宅』と称していて、この辺の基準とは別立てですね。社宅と寮はあくまで自社所有物件のみで使っています。借り上げ住宅は一部の例外はあるものの原則として今後は廃止の方向です。」
「えっ、借り上げ住宅は廃止なんですね!?」
沢辺さんによるとマスケイさんの一件に代表されるようなストーカー問題が、表沙汰になっていないものも含めていろいろあることからまとまった土地が出ると交渉して購入したり、少し改造しただけでほぼ居抜きのまま使っている社宅の建替を進めて、セキュリティ的に難のある借り上げマンションを廃止する方向なんだって。
「いま皆さんの住んでいるところもおそらくそのうち廃止になると思います。まあ、この辺は新人研修でやると思うので、沼館さんが大崎に就職されるようでしたら先に憶えておくとあとで楽になると思います。」
「判りました!憶えておきます!」
華菜恵、大崎に就職したいって言っていたもんね!
「そういえばその辺の設備って予約はカバボクシですか?」
「はい。大崎に所属している全てのタレントさんとこの近辺に住んでいる全ての社員および家族が利用できる施設なので、5月1日のオープン以降、本社の会議室やトレーニングルームと同じように予約可能となります。柊さんは早速予約される感じですか?」
「ぜひ使いたいです!みんなで自主レッスンも出来るし、楽しみです!」
「そうだ!みんなでダンスレッスンとか出来るね!」
私も思わず反応しちゃった!
「ああ、それは確かにいいですね。どんどん利用してください。そうしたら食堂の方も見てみましょうか。」
沢辺さんに案内されて食堂までやってきたけど、ものすごい広い!
「食堂もトレーニングルームなどと同じ扱いなのでガバボクシから予約していただいての利用となります。朝食と昼食は前日夜20時、夕食は当日朝8時までに予約をしていただきますが、材料の余りなどがあれば予約なしでも食べられます。あと、前日夜20時までに予約をすれば食堂の向かいにあるこちらのミーティングルームで食べることも可能です。」
「そんなことが出来るんですね。」
「ええ。日向夏さんもよく食事会されてますけど、同じ社宅や寮に住む仲間と一緒に食べたいという希望はありますからね。あとは著名なタレントさんだと大部屋みたいなところで食べるのは適していないことも多いので、その辺の配慮もあります。」
「なるほど!ほかの所にもあったらいろいろ利用できるのにね。」
「今後、都内でもう一カ所、同じような施設が出来る予定もあるので、楽しみにしていて下さい。そうしたらそこの階段から地下に降りましょうか。地下にもまだ施設があります。」
まだあるんだね!?沢辺さんは一度来ているのか、慣れた感じで案内してくれる。階段で6人連れとすれ違ったけど、あの人たちもタレントさんとマネージャさんなんだろうなあ。
階段を降りて通路を進むと「男」「女」と書かれたのれんが下がっている。大浴場かな?
「こちらが地下の大浴場ですが、実は温泉です。この社宅の向かい、駒込寮の隣に巣鴨温泉という施設があるんですけど、そこと契約しまして、源泉をこちらへ引き湯出来ることになったんです。」
ええっ!?温泉ってすごいね!?
「中はまだ入れないので入居後のお楽しみということで。じゃあ、こちらへ。」
引き続き、誘導されて、地下のエレベーターホールと車寄せを案内される。降りるときは地下一階の車寄せ、乗るときは地下二階に用意されている車寄せという区分けになるそうだ。そのあと案内された部屋は更衣室?らしき場所を通り過ぎた所にあった。すごい!フィットネスマシンがたくさん!
「トレーニングルームも用意しています。こちらもガバボクシから更衣室のロッカーを予約することが可能です。もちろん当日直前でも空いていれば予約可能です。ちなみにトレーニングルームの向こう側には1階と同じ配信スタジオが用意されています。大人数用や音声のみの配信スタジオも含めて50以上用意してあるので今のところは足りる予定なんですが。」
大崎の用意してくれている至れり尽くせりの施設がすごい!ますます頑張らないと!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます