第278話●渋谷シアターアリーナへやってきた

 今日、正式オープンする渋谷シアターアリーナは、大崎エージェンシーの子会社である株式会社渋谷シアターアリーナが運営する2万人規模の劇場型アリーナホール。その渋谷シアターアリーナが入っている「Shibuya Culture & Sports Plaza」は、NKH放送センターのすぐ隣に建っている。渋谷シアターアリーナ以外に鶴亀グループの劇場・演芸場や東鉄グループのシネコンなんかが入っていて、屋上には陸上競技場とサッカースタジアムがあるという大きなビル。


 当初は昨日のリハ前に見学させてもらうことになっていたのだけど、「週刊テレビ案内」のインタビューが押してしまい、さらにこのあと未亜のラジオ最終回が控えている関係で、見学をしている時間がなくなってしまった。

 インタビューのあと、銀座を出て渋谷へ向かった社用車は、首都高代々木出口からそのまま「Shibuya Culture & Sports Plaza」ビルの前に用意されている車寄せに止まる。ビルの中の駐車場からステージまでは、けっこう遠いそうで、未亜はここで降りて、そのままお客様用エントランスからステージへ向かうとのこと。車を降りた未亜は自動ドアの脇にある引き戸から中へ入っていった。

 リハでは、立ち位置やマイク、イヤモニの確認などが出来ればよいらしく、ラジオの時間もあるので、ものの30分くらいで終わらせるらしい。あらためてビルの中の駐車場に止めなおすこともないという太田さんの判断となり、リハをしている間、太田さんとビルの向かいにあるコインパーキングへ止めた社用車の中で待機していることになった。


 30分くらいなので原稿を進めるには中途半端な時間だし、せっかく向かいのコインパーキングにいるので、外観だけでも見たいなあと考え、社用車の中で仕事をしている太田さんに話してから車外へ出る。

 屋上には陸上競技場とサッカースタジアムまであると聞いていたからもっと威圧感があるかと思ったら、井の頭通りからだとサッカースタジアムが全く見えないので、普通の大きなビルが建っているだけだった。向かいの歩道からざっと全体像を見たあとは、横断歩道を渡って、ビルのほうへ向かう。井の頭通りに面したビルの入り口から開かない自動ドア越しに中をのぞき込むと渋谷シアターアリーナの入り口がさらに存在していて、スタッフらしき人たちがせわしくなく動いて準備を進めているようだ。奥にはエスカレーターがあったり、エレベーターが見えたり、正式にオープンしたら賑わいそうだなあ。そんな感じで見ていたらいい時間になったので、社用車に戻って、未亜と再合流して文明放送へ向かった。


 今日は、未亜を自宅から六本木のテレビ有明へ送り出したあと、渋谷シアターアリーナこけら落とし公演第一部「現代版義経千本桜」を見るため、一足先に渋谷シアターアリーナへタクシーで向かっている。

 太田さんから「先生の経験値になると思うのよね」というコメントともに関係者席を回してもらったので、彩春さんと瑠乃さんが出演するし、せっかくだからということで観劇させていただくことにした。本当は未亜と一緒に見たかったのだけど、午前中から春の改編特番収録が入っていて、慌ただしいスケジュールになっている。家を出た直後くらいに太田さんから、彩春さんと瑠乃さんがいる大部屋楽屋に寄って欲しい、との連絡が来た。太田さんもそこにいるらしい。


 タクシーが原宿駅前を通り過ぎると少しずつサッカースタジアムが見えてくる。あれが東京SCとベルーデ東京のホームスタジアムになる渋谷サッカースタジアムか。でかいなあ。

 タクシーは国立原宿競技場の脇を進み、二つのトンネルが現れ始めた。ビルと一体で整備された原宿公園通りは、ビルに取り込まれる形でトンネル化された。メインの大きなトンネルが一般車の通行する道、原宿から代々木上原へ向かう西行きの道にだけ存在する小さなトンネルが施設専用道になっている。

 通常、ホールやアリーナといった施設は、関係者駐車場や搬入口が1階や地下に用意されていることが多いのだけど、ここはビルの2階に全施設の車寄せや関係者出入り口、搬入口、駐車場がまとめて用意されていて、トンネルを通過してたどり着く面白い構造なのだ。


 施設専用トンネルは入り口にゲートがあって、所定の通行証を提示しないと入れないようになっている。社用車で乗り付けるときとか、歩いて入るときとかは判りやすいけど、タクシーだとどうなるのかな、と思ったら、後部座席の窓を開けるようにいわれて、今日のために支給されているバックステージパスを見せるスタイルだった。合理的。

 ゲートから一方通行になっている2車線の施設専用トンネルへ入ったタクシーはゆっくりと進んでいく。トンネルに入ってすぐ「駐車場搬入口」と書かれた看板が付いている左折路が分岐したあとはなにもない普通のトンネルを進んでいく。しばらく進むとタクシーが左折した。入り口には「楽屋通用口」という看板が見えたからここが関係者入り口につながる左折路のようだ。結構長い片側1車線の屋内車路をタクシーはひた走る。ようやく車寄せまでたどり着いてタクシーを降りると車寄せの所はたくさんの入り口がコの字型に並び、それぞれの所に警備員さんらしき人たちが立っている。入り口にはそれぞれの施設名が分かりやすく書いてあるのだけど、「Shibuya Culture & Sports Plaza Food Park」というフードコートや「東鉄シネマズ渋谷」というシネマコンプレックスの通用口もちゃんと用意されている。きっと働いている方がここから入るんだろうな。あっ、そういえば朋夏さんが明日、シネコンのオープニングセレモニーに出るんだったか。朋夏さんもきっとここから入るんだろうね。

 ちなみにコの字型に並んでいる入り口の一つに「原宿駅方面」と書かれた駅の改札に設置されているインフォメーションカウンターみたいなスペースがあって、どうやらそこから一般のお客様がいるフロアと行き来も出来るみたい。前にTlackの全社チャンネルで、


 淵野辺(マネ事 営事ル 庶務ユ) 17:44

 いよいよ来週渋アリがオープンします。

 鶴亀さんの劇場も含めて、渋プラへ渋谷駅から歩いて向かう場合は、井の頭通りから原宿公園トンネルの歩道へ回るのではなく、公園通りから原宿公園のケヤキ並木を通り、サッカースタジアムとNKHホールの間を抜けたあと、陸上競技場の手前にある塔屋から2階まで降りた方が早いのでお知らせします。


 っていう連絡が来ていたから、あそこから入るのだろうな。もちろんカウンターに警備員さんがいるから関係者パスがないと出入り出来ないのだろうけど。

 しばらく眺めていたもののいつまでもここにいても仕方がないので、右端にある「渋谷シアターアリーナ」楽屋通用口で「TOTETSU SECURITY」というワッペンを付けた警備員さんに今日のバックステージパスを見せて中に入る。楽屋通用口から中に入ってすぐ左側に下りエスカレーターと階段、右側にエレベーターがある。エレベータに乗れば一気に地下4階まで行けるのかと思ったら、1階にしかいけないようだ。

 1階に降りると2階より少し広めのエレベーターホールがあり、飲み物の自販機が設置されていた。エスカレーターの脇に2本の通路が平行に延びていて、警備員さんとスタンド看板が立っている。スタンド看板にはそこから先に入れるパスの種類と色が明示されていた。入れないパスの種類と色は×印が付いていて判りやすい。

 今日、太田さんからもらっている緑色のバックステージパスには、「Related Person」と書かれている。スタンド看板に明示されたリストを見ると未亜のライブで見かけるパスとは違って、金色は「Employee」、青色は「Sales Staff」、赤色は「Stage Staff」、黒色は「Performer」と書かれていた。白色の「Guest」だけは同じか。ここはライブハウスと同じでちゃんと専用のパスが用意されているんだなあ、となかなか面白い。

 緑色は両方ともOKとなっていたので、改めて、案内図を確認すると右側は渋アリの本社事務所やお客様のエントランスがある感じで、地下4階へ降りるエレベーターは左側の通路を進んだ先に設置されている。まっすぐ行って左折しても同じ場所にたどり着くけど、奥の方にも警備員さんが見えるし、目的地は地下4階だから左の通路でいいか、と警備員さんへパスを見せて左の通路へ入る。

 通路の両側には特に何もなく、殺風景で無機質な壁が続いている。どんどん先へ進むとエレベータが3台あるのが見えた。エレベーターホールに設置された階数案内を確認するとどうやらこのエレベーターだと駐車場のある2階からそのまま地下4階まで降りることが出来る模様。4月のライブでは、そっちの方が楽そうだから太田さんに送迎を頼もうかな。

 すぐにやってきたエレベーターに乗り、地下4階まで降りて、ここでも案内図を確認した上で、瑠乃さんがいる「楽屋B4B01」を目指して歩いて行く。案内図を見た感じでは、井の頭通り側に設置されているステージの脇には搬入エレベーターや大道具部屋などがあって、客席の下に当たる場所には楽屋やミーティングルーム、関係者用ラウンジが用意されている感じみたいだ。しばらく進んでいくと無事に楽屋エリアに到着した。いやあ、大きな施設だけあって、ここまでたどり着くのに10分以上かかったよ。楽屋はどこだろうとキョロキョロしていたら向こうの扉が開き、ちょうど太田さんが出てくる。


「あっ、先生。」

「いまちょうどつきました。」

「着いたって連絡がもらったあと、なかなか来ないから迎えに行こうかと思っていたところだったのよ。あっちのラウンジで待ってて、岡里さんと瑠乃を連れて行くわね。」

「判りました。」


 ラウンジの近くまで行くといい香りが漂ってくる。どうやらケータリングが並んでいるようだ。適当な椅子に座って、ラウンジ内を見渡すとケータリングの量がすごい。しかもなんかいろいろな種類の料理が並んでいる。


「お待たせ。」

「雨東先生、ありがとう。」

「いやいや。早緑さんも一緒だったら良かったんだけど。」

「収録があるから残念だって美愛からDM来ていたよ。まあ、仕方ないよね。」

「美愛にも見て欲しかったけど、仕方ないよね。」


 彩春さん、瑠乃さん、太田さんとしばらく雑談をしてから、再び、エレベーターで1階まで行って、今度は左の方に伸びた通路を進む。

 突き当たりの通路を左に曲がる。どうやらこの通路はさっき降りたところからまっすぐ伸びている通路のようだ。こちらは右側に扉があって、部署名などが記載されている。ここが渋アリの本社なんだなあ。そのまままっすぐ進むとエントランスへ出られた。さらに進むと昨日外からのぞき込んだ渋谷シアターアリーナの入り口にたどり着く。通常の入り口とは別に用意された「関係者受付」でチケットを見せて客席へ。

 太田さんからもらった資料を見るとアリーナが台形になっていたり、スタンド席が2段になっていたり、スタンド席の間にラウンジがあったり、とドーム球場の内野部分だけをすっぱりと切り取ったような面白い形状をしているけど、地下へ潜る形状なので、上から「上段スタンド席」、「ラウンジ席」、「下段スタンド席」、「アリーナ席」となっている。今回割り当てられているのはラウンジ席。太田さんによるとラウンジ席は基本的に関係者招待用となっているらしく、中にはVIPラウンジなんかもあるとか。なんか完全にドーム球場だよなあ、とニヤニヤしつつ、自分の席へ向かう。さあ、いよいよ開演だな!

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