第274話○3Daysライブ3日目~Ballade music Day~

 有明公演の3Daysライブもいよいよ3日目。今回の山場ともいえるステージだ。バラード曲は大好きなんだけど、一曲ずつ収録出来るCDと違って、ライブでは全ての曲を通して、一つの表現にしないといけないから、私の場合、全然違うパワーがいるんだよね。レッスンでも通しでやると大山さんからダメ出しが出て、表現に苦戦した。


「もういまから緊張しているんだよね。」

「レッスンでも苦戦したっていってたもんな。」

「うん……。」

「俺は歌うことは出来ないから『大丈夫だよ』なんて気軽にいえないけど、いま持てる力を全力で出し切れば、それは絶対に失敗ではないよ。」

「うーん?」

「終わったあとに『あそこをああ表現しておいたほうがよかった』とか『これをもっとレッスンしておけばよかった』とかそんな気持ちはどうしても出てくると思う。」

「そういう気持ちって、失敗だからじゃないの?」

「それは失敗したことによる『後悔』なんじゃなくて、『反省』だと俺は考えている。本当に失敗すると『反省』じゃなくてなにも考えられなくなるよ。」

「なるほど……。うん、なるほど!」

「だから明日は、ファンのみんなにいまの全てを見て聞いて感じてもらえるように未亜は全力でぶつかっていけばいいんだよ。」

「うん、なんかすごい気持ちが落ち着いたよ!やっぱり圭司はすごいね。」

「そんな俺を支えてくれているのは未亜だよ。だからお互い様だね。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「そか!」


 圭司は本当に私のことを大きな心で包み込んでくれるよね。夜はあたたかい気持ちのまま熟睡出来た……。圭司、一生、大切にするよ!


 一夜明けて、いよいよ3Days最終日!心の充電メモリは満タン!よし、最終日もファンのみんなにもこのあたたかい気持ちを感じて帰ってもらえるように頑張るぞ!

 会場に入って、リハ、そしてケータリングから開演前までは昨日までと同じ流れ。滞りなく進む。私がみんなに歌を届けるために本当にいろいろなスタッフさんが頑張ってくれているからこうやって安心して開演を待てるんだよね。本当にありがたい。


 コンコン

「早緑さん、時間になりましたので上手袖までお願いします。」

「わかりました!」


 ラストもライブスタッフが迎えに来てくれた。さあ、有明公演3Days最終日だ!今日も華菜恵がマイクを渡してくれる。


「早緑さん、オーラス、頑張って下さい!」

「華菜恵、三日間ありがとう!」


 右手を挙げてハイタッチ!バッチリ決まったね!


「長らくお待たせいたしました。早緑美愛ライブ『My dream, Your dream』有明公演最終日Ballade music Day、まもなく開演となります。」


〈ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ


 軽く屈伸をして目を閉じる。果倫のキーボードソロから「First Impression」のイントロが始まる。ライブスタッフさんが無言で手を動かして「どうぞ」のサインを出す。ゆっくりとステージへ進むと詩のアコースティックギター、一夏のアコースティックベース、いちほのマリンバが音を奏で始める。会場中から大きな拍手がおこる。0番に着くと軽くお辞儀をして、歌い始める。うん、タイミングはバッチリだね!間奏ではもちろん圭司の確認も万全!そして「新たなはじまり」「アイとは何か」と2曲続けて披露する。いつもだと2曲目か3曲目かでバンド紹介なのだけど、バラード曲なのでバンド紹介という感じではなく、このあとのMCの冒頭で紹介することになっている。


「こんばんは!早緑美愛だよー!最終日もみんなありがとう!」

「ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「いつもだとここで給水なんだけど、その前にバンド紹介をするね!まずはギター、二瀬詩!」


 詩が「アイとは何か」の盛り上がり部分を演奏する!


「ベース、舟守アンティーク一夏!」


 一夏も同じ所だ!


「キーボード、果倫!」


 果倫も同じ所!打ち合わせしていないのにすごいな!


「ドラムスアンドマリンバ、時森いちほ!」


 いちほもきっと同じ所だと思う!


「ボーカルは早緑美愛!」

「あらためまして、早緑美愛だよ!最後まで楽しんでいこう!」


 詩が紹介してくれたけど、私はさすがに歌うのも変な感じがしたので、一声掛けることにした!


「ということでみんなの紹介も終わったところで、給水タイム!ちゃんと水分はとってね。」


 バンドメンバーも含めて、水を飲む。


「一曲目は去年出した4thアルバムの表題曲『First Impression』、そのあとは2ndアルバムから『新たなはじまり』『アイとは何か』を2曲続けてお届けしました。去年のライブツアーでも披露したからもしかしたら聴いてくれた人もいるかもしれないね。去年は全国5カ所を巡るライブツアーだったけど、今年は有明と渋谷で4Days。来てもらえるファンの数もすごい増えて本当に嬉しい。いつも応援ありがとう!」

「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ここで去年のライブツアーについて振り返りをする。あのときは圭司との関係にも悩んでいたけど、そんなことがうそかのようにいまはなにも悩みがない。いろいろあったけど、いい方向に進むことが出来て、いまでは婚約者だもんね。すっごい嬉しくてこころがぽかぽかしちゃう。


「ライブツアーの思い出話はこの辺にして、ここからはニューアルバムの曲をお届けするよ!物販で買ってもう聞いたよっていう人もまだこれから聞くよっていう人も楽しんでいってね!じゃあ、まずはこの曲から。『こころあるもの』。」


 ここから「鳴らない電話」「あの日の気持ち」「慟哭の道化師」と4曲とても切ないバラードが続く。そして5曲目は希望に満ちあふれる未来を緩やかに歌い上げる「あの空に煌めく大きな星のように」。アルバムの中締めに当たるとても大事な曲。収録では一発でOKが出たけど、ライブのレッスンでは大山さんから何度も指導が入って苦しんだ曲だった。でも、今日は、ファンのみんなの手拍子が引っ張ってくれた感じがして、いままでで一番の出来だったと思う!すごく嬉しい!


「『こころあるもの』『鳴らない電話』『あの日の気持ち』『慟哭の道化師』『あの空に煌めく大きな星のように』と5曲続けて聞いていただきました!ニューアルバムの曲はどうかな?ロック盤もポップス盤もバラード盤もかなり気合いを入れて収録したからよかったらCDで聞いてもらえると嬉しいな!有明公演限定のCDボ……。」


 プロンプタに「有明公演限定CDボックスは先ほどソールドアウト」


「あっ、いま連絡が来まして、有明公演限定のCDボックスは売り切れたみたい!みんな、ありがとう!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ほんと、ファンのみんなに支えてもらっているよ。嬉しいなあ。公演限定のほかにも伊予國屋さんとかでも限定特典があるからぜひお願いします!」


 つづけてバラード盤の収録に関する思い出話をトークする。そして、紅白のリハの話から今日着ている衣装が紅白の衣装であることに触れる。そこからまたニューアルバムの話と続けていたらすっかり長くなってしまって、プロンプタに「次の曲お願いします」って今日も出ちゃった!


「ニューアルバムの話も尽きないんだけど、そろそろ次の曲へ行くね。バラードデイということで、絶対に欠かせないあの曲たちをここで歌うよ!じゃあ、聞いて下さい。」


 バンドのみんながすぐに演奏に入り、「神泉駅徒歩2分」のイントロが流れると小さな歓声と拍手が起こる。やっぱり渋谷バラードはみんな大好きだよね。

「円山町の夜に」「井の頭通りで雨に濡れて」「宇田川町裏通り」と歌ったところで、今日はおしまいではない。もちろん、ニューアルバムに収録される「松濤桜公園」まで続けて歌う。

 初めて聞く人の人も多いのか、イントロでどよめきが上がったけど、みんな聴き入ってくれているようで安心。


「渋谷バラードを5曲続けてお届けしました!ニューアルバムは最後に歌った『松濤桜公園』が収録されているんだ。これもいい曲だよね。既に番組のホームページには今後のゲストっていうことで出てるけど、この前、いろはと『仲良しふたりで街歩き』の収録で渋谷バラードの舞台を歩いてきたんだよね。」


 渋谷バラードに対する思いを聖地巡礼をした感想なんかも交えながらトークしていく。改めて渋谷バラードについて語ったことってあまりなかったからファンのみんなには新鮮だったかもしれないなあ。


「そんな渋谷で来月ライブをすることになってます。チケットが取れなかった人も有料配信があるからよかったら見てみてね。『仲良しふたりで街歩き』のほうも結構面白い番組になると思うからオンエアをお楽しみに!それじゃあ、ニューアルバムから歌うよ!一曲は『Blue Moon Sentimental』。」


「Blue Moon Sentimental」のあとは「木漏れ日の向こう側」「あなたに出会えて全てが始まった」と歌っていく。「あなたに出会えて全てが始まった」は紗和が勇気を出して東京へやってきたときからいまに至るまでの気持ちを全力で表現してくれた曲で、歌っていて、私もついつい泣きそうになってくる。


「3曲続けて聴いてもらいました。『あなたに出会えて全てが始まった』は『主役』の儘田先生が書いてくれた曲なんだけど、歌詞が本当に身に沁みてね。この曲の『あなた』って、恋人だけでなく、親友や恩師、家族、そして、私の場合はファンのみんなにも置き換えることが出来るって思って、収録の時、そして今日もそんな気持ちを込めて歌いました。どうだったかな?」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


「ありがとう!ファンのみんなから郵送でもらうファンレターもOSAKI WEB経由でもらうファンメールもいつも心の支えになっているんだ。ありがたいことだなあっていつも感謝しているよ。どれくらい返せているか判らないけど、みんなの日常が少し色づいていたら嬉しいなって思います。今日のライブもいよいよ残すところ、2曲となりました。最後まで全力で行くから楽しんでいってね。」


 私のライブではすっかりおなじみとなった「神様が微笑む森」「カーテンコール」ときっちり歌いきって、アンコールに備える。


「今日はみんな、ありがとうございました!早緑美愛でした!」


 上手袖に捌けると華菜恵がマイクとタオルを交換してくれる。


「早緑さん、お疲れ様でした。3分巻きで10分です。」

「了解!」


 最後のMCを少し巻きにしたおかげで着替えに少し余裕が出る。


「私のほかに遠藤さんと鷲浜さんが手伝いに入ります。」

「「よろしくお願いします!」」


 今日は華菜恵だけでなく、女性のライブスタッフが2人、楽屋まで付いてきてくれる。昨日の衣装は華菜恵の補助だけで良かったんだけど、この衣装は二人がかりじゃないと脱げないんだよね。それだと時間がかかるからさらに一人追加されて、三人がかりで衣装が剥がされていく。衣装をかたすのは女性スタッフさんに任せて、私は着替え用のTシャツとシックなデザインのキュロットスカートにさっと着替える。


「2分巻き。」


 タイムキーパーさんから無線で指示をもらっている華菜恵のタイムカウントを聞きながら私が着替えている間に3人がかりで整えられた衣装は既にハンガーに掛けられていた。華菜恵が鍵を閉めている間にも早足でステージへと向かう。鍵を閉めた華菜恵が合流して、再び4人でステージを目指す。


「2分巻きままです。」


 舞台袖にたどり着き、安済さんからマイクを受け取ると今日もちょうどMVがラストにさしかかるところだった。今日ももちろん「有明公演のブルーレイ発売決定」告知だけど、毎日ちゃんと大歓声が上がる。ファンのみんなには感謝しかない!


「主役」のイントロがかかると私も再び舞台へもどる。紅白の時と同じようにお辞儀をして歌い始める。この曲は歌う度にどんどん思い入れが深くなっていくのが自分でも判るので、気持ちがかなり入る。鼻をすする音とかが聞こえてきて、会場のみんなが泣いているのが判るなあ……。

 そして3Daysの最後は、ニューアルバムの表題曲である「My dream, Your dream」!


「3Daysライブ、オーラス、行くよー!最後は未来に向かって輝くこの曲で!」


 夢に向かって突き進んでいく素晴らしさを大佐古おおさこカズユキさん、つまり太田さんのご主人が書き上げてくれた元気の出るバラード。


 ♪あなたの夢 私の夢

 いま駆け抜ける

 ふたりで みんなで 未来へ

 まっすぐ走ろう!


 大ラスまできっちり歌いきった!次の渋谷公演、そしてまだ見ぬその先の未来へ向かって、夢をつないでいこう!

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