第272話●3Daysライブ初日~Rock music Day~

「15時半か。そろそろ席に行くね。」

「もう、そんな時間なんだね。」


 思わず右手を挙げると未亜もすぐ判ったみたいで、右手を挙げる。パン!という心地いい乾いた音が楽屋に響く。


「楽しみながら全力で!」

「うん!」


 軽くハグしてから楽屋をあとにするとバックステージの通路を抜けて、会場内の関係者出入り口から4階席へと向かう。「All Area」と書かれた金色のバックステージパスを首から下げているので警備員さんも素通りさせてくれる。ライブハウスの時は施設側が用意した服に貼るタイプだったけど、ホールだと施設側の用意がないみたいで大崎ライブクリエイティブ支給のパスが用意されている。太田さんや華菜恵さんみたいなスタッフは制限なく出入り出来る金色の「All Area」パスだけど、物販のスタッフだと青色の「Sales Area」パス、音響系スタッフだと赤色の「Stage Area」パス、楽屋訪問が目的の知り合い用には白色の「Guest」パスが用意されているのだとか。本当だと俺の場合は「Guest」パスなんだけど、フィアンセということで主催者控え室やステージ裏、リハ中の客席エリアにも入れる「All Area」パスが支給されているのは本当にありがたい限り。

 もう客席エリアなので、バックステージパスはジャケットの内ポケットにしまい、自分の席を目指して進む。今回は三日間とも同じ席が用意されているので、昨日のうちに場所を確認しておいた。


 4階席端の座席エリアに入り、自分の座席の近くまで行くと既にみんな来ているようだ。今回のライブ、いろいろな状況の変化もあって、アリーナに用意された未亜の持っている招待席6席は、朋夏さん・慧一・明貴子さん・志満さん・紅葉さん・幸大が使っている。一方で、紗和さん・瑠乃さん・百合・俺は太田さんの手配した関係者席、彩春さんは大石さんの手配した関係者席で今日のライブを見ることになっている。太田さんの手配した席はステージに向かって左側のAブロック、大石さんの手配した席は右側のIブロックとなっているので、彩春さんは正反対の位置で見ることになる。


「あっ、おに……雨東さん。」

「はは、なかなか慣れないよな。」

「まだまだだねー。」

「二人もお疲れ様。」

「「おつかれさま!」」


〈ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ


「本日は早緑美愛ライブ『My dream, Your dream』有明公演初日Rock music Dayへお越しいただきありがとうございます。まもなく開演いたします。ロビーにいらっしゃるお客様は会場内へお入りください。」

「おっ、いよいよだな。」


 いつものように諸注意を伝える場内アナウンスが流れる。


「長らくお待たせいたしました。早緑美愛ライブ『My dream, Your dream』有明公演初日Rock music Day、まもなく開演となります。」


〈ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ


 開演ブザーが鳴り終わるとバンドメンバーが左側の下手から入ってきた。この席からは未亜が舞台袖で待機している姿がよく見える。なるほど、ああやって屈伸とかしているんだなあ。

「アイマイ」のイントロが流れはじめた。一曲目に「アイマイ」から入るのは、定番だけどロックサウンドだし安定だよね。


「みんなー!早緑美愛だよー!ライブ初日ロックデイへようこそ!」


 未亜が入ってきた!大歓声だ!何度聞いてもこの歓声は本当にすごい。出だしは順調、いや、横浜の時よりかなりいい感じだ。観客コールもすごい!Cメロの間奏まで来ると未亜の目線がこちらへ向く。何か目線が合ったような気がしたんだけど、遠目でも判るくらいとてもいい笑顔になったから、間違いなく目線が合ったんだな!

 熱狂のまま、2曲目の「センシティブな願い」からライブでは久しぶりの披露となる「Things For The Perfect Beat」へと曲が進んでいく。間奏で未亜がセンターから少しずれた。メンバー紹介か。


「ギター、二瀬詩!」


 詩さんのギターソロは本当にかっこいいんだよな。


「ベース、舟守アンティーク一夏!」


 一夏さんはベースの指裁きがすごい。


「キーボード、果倫!」


 あの手の動きはなんで出来るんだろうか。果倫さん、すさまじい。


「ドラムス、時森いちほ!」


 いつみてもスティックが生き物みたいだ。いちほさんの実力もすごいよね。


「そして、ボーカルは早緑美愛!」


 詩さんがハモリ用のマイクで未亜を紹介する。


「今日はみんなでガンガン盛り上がっていくよ!」


 コールアンドレスポンス!歓声がすごい!3曲終わったところでMCか。


「あらためまして、早緑美愛だよー!今日はみんな来てくれてありがとう!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「今日は早緑美愛ライブーMy dream, Your dream有明公演初日Rock music Dayへようこそー!いつものようにここで水を飲ませてもらうね!給水は大事だよ!みんなも飲んでね!」


 そういうと未亜はステージの端に置いてあるペットボトルの水を飲んだ。バンドメンバーもいつも通り水を飲んでいる。俺もここで軽く給水をした。百合も飲んでいるな。


「ロックデイズのオープニングナンバーは私のデビュー曲『アイマイ』から『センシティブな願い』、そして『Things For The Perfect Beat』でした。『Things For The Perfect Beat』は一昨年おととしの2月に目黒でやったライブ以来だって。あのときは250人くらいのライブハウスだったんだけどねー。今日は8千人くらい入っていただいているそうで、本当に嬉しい!」

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 続けて未亜はライブハウス巡りをしていた時の話をトークする。俺はこの辺の話をディナーの雑談とかで聞いて、未亜が持っている資料映像も見せてもらっているけど、ファンの皆さんはその頃を知らない人が多いから、かなり真剣に聞いている様子。中野の公演なんかも含めて、映像作品になっていないライブのほうが多いから今となっては見ることもできないもんなあ。


「そんなことをしてきた私もいまやこんな大きなホールでライブができるようになってね。本当にありがたいです。それでは、そろそろ曲に戻るね。ここからは5曲続けて、今日先行発売されたニューアルバムのロック盤からお届けするよ。まだ聞いていない人も多いかもしれないけど、手拍子が出来たらやってみてね!じゃあ、一曲目『Silky Force』。」


 実は、先週の金曜日に未亜が見本盤をもらってきてくれたのでそれを執筆中に聴かせてもらっていた。だからどんな曲か、知っているのだけど、一応初めて聴くふりをする。ちなみにさっき隣のビルに入っているアトムスーパーへいったときに有明公演仕様の初回限定版を購入済み。これは保管用でとっておく予定。

「Silky Force」からはじまって、5曲続けて歌ったけど、今回のライブ、ニューアルバムの曲は、CDの順番にやることになっている。バラードの日だけちょっと違うんだけどね。


 曲のあとのMCではロック盤の収録について、思い出話をする未亜。この辺の話はディナーの時に聴いたなあ、とちょっとにまにましながら未亜のMCを楽しむ。


「ここからは、また以前のアルバムから4曲歌うよ!まず一曲目は『PositionChange』。」


 激しいロックソングが続いているけど、未亜のボルテージも観客のボルテージもガンガン上がっていく!作家として、こういうときはいろいろな表現で感想を綴ってみたいのだけど、感動すると語彙力がなくなって、「すごい」とか「かっこいい」とかなんかそんな言葉しか出なくなるよね。こういうときにいい感じの表現が使えるように引き出しを増やしていかないとなあ。


 MCを挟んで、再びニューアルバムから4曲歌う。


「ニューアルバムから『真っ赤な雲』『イイカゲンにして』『Great support』『History of Snow』と4曲聴いてもらったけど、今日のライブもいよいよ残すところ、2曲となりました。最後まで全力で行くからね!ちゃんと付いてきてよ!」


 未亜は「センチメンタルにはならない」「Good Day Holiday」と歌った。残り一曲はアンコールだもんね。


「今日はみんな、ありがとうございました!早緑美愛でした!」


 未亜は上手、バンドメンバーは下手に捌けていく。袖に隠れた未亜は急いで袖の奥へと入っていく。楽屋に戻って有明公演限定Tシャツへ着替えるんだろうな。

 拍手の拍子がだんだんそろってきて、アンコールのリズムになった。会場中から「アンコール!」のかけ声。中野の時はあちら側だったけど、いまの立ち位置は関係者なので自重する。関係者席だからって禁止な訳ではないけど、周りにはスーツ姿の人も多くて、悪目立ちしちゃうからね……。


 しばらくして、告知映像が流れはじめる。4thアルバムの店頭用ショートMVや「Movie Impression」の店頭用ショートMVといった旬の告知映像が流れたあとはOSAKI WEB CLUBの案内、ファンクラブの案内とツアーの時にもよく見た映像が流れる。そして最後は「有明公演のブルーレイ発売決定」告知で、一段と歓声が大きくなる。今回のライブも争奪戦がすごかったみたいだもんなあ。取れていない日の分を見たい人は絶対に多いから気持ちはよく判る。

 映像が終わると同時にバンドメンバーが入ってきた。会場中から大歓声と大きな拍手だ!「Magic Of The First Time」の演奏が始まると未亜がステージに入ってくる。


「アンコールありがとう!あと2曲ラストスパート!」


 Tシャツ姿の未亜は一段と輝いている!オーラスの「Orange Twilight」まで、全力で走りきったな!あとですごかったって感想を伝えよう!

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