第261話○いろはと渋谷バラードの聖地巡礼ロケ前半戦!

 今日はテレビ有明の「仲良しふたりで街歩き」という紀行番組のロケで渋谷へやってきた。といっても最初は朝一で事務所へ行って、さみあんモードになってから太田さんの社用車で送ってもらった感じだけどね。


 集合場所に指定された道玄坂のレンタルスタジオに太田さんと二人で入る。太田さんはこのあと、ここなちゃんの取材立ち会いがあるので、ここから別行動。


「おはようございます!」

「おはようございます、今日はよろしくお願いします!」


 まだ朝9時だというのに番組を制作しているテレビ有明映像制作の塔野とうの研一郎けんいちろうプロデューサーが元気よく出迎えてくれる。


「岡里さんももうまもなくいらっしゃいますので、今日のスケジュールを打ち合わせしてから早速出発しましょう。」

「じゃあ、美愛、あとはよろしくね。」

「はい!」


 5分くらいしたところでいろはと大石さんも到着、台本の読み合わせをして、今日の歩く流れを確認して出発となる。ロケ番組はだいたい要所要所だけ歩いて、あとはロケバスで移動なのだけど、この番組は基本的にずっとカメラを回したまま、本当に歩いてロケをするというのがコンセプト。そのため、大勢のスタッフさんと警備員さんが常に一緒に同行して、周辺を警戒するそうだ。


 ロケのスタートは道玄坂上にある交番の前から。


「「皆さんこんにちは!」」

「今日の『仲良しふたりで街歩き』は、ここ渋谷を舞台に早緑美愛と」

「岡里いろはでお届けします!」

「今日はなんかいろはが行きたいところがあるって聞いて呼ばれたんだけど、渋谷にそんな場所があるんだね?」

「もちろん!渋谷といえば、美愛ならすぐ判るんじゃないか?」

「えっ!もしかして!?」

「このあとその場所を巡って」

「「仲良しふたりで街歩き!」」

「……はい、カット。ありがとうございますー。じゃあ、ここから最初の目的地まで回しながら歩いて行きますので、カメラは気にせずにお二人で話をしながら歩いて行って下さい。」


 最初のセリフはもちろん台本の通り。まあ、許容範囲の「演出」っていう奴だよね。


「美愛は渋谷ってよく来るの?」

「高校生の頃は、学校が終わったあと、事務所へ行く途中で渋谷のいちきゅうによって、洋服とかバッグとか見ることもあったよ。」

「さすが、都心の高校生っていう感じだね。」

「いろはは?」

「私は高校の頃は盛岡だったから仕事で東京へ来ると美愛と同じように寄ることもあったけど、東京に住み始めてからはむしろほとんど来なくなっちゃったなあ。」

「私も大学入ってからは事務所から近い新宿が多くなったかも。」

「事務所に寄ったついでに歌舞伎町あたり行くといろいろ売ってるからね。」

「そうなんだよねー。」

「あっ、ここを右。」

「了解!」

「さっきまで歩いてきた通りが『裏渋谷通り』っていって、最近はおしゃれスポットになっているよ。」

「裏渋って確かにこのところ良く聴くね。」

「そして、ここが最初の目的地。」

「マンション?一階はイタリアンレストランだね。」

「このマンションの一階にあったのが焼酎バーの元祖といわれる『焼酎バークラシック』で、そこを舞台にした楽曲が」

「『円山町の夜に』!」

「さすが、美愛。」

「今日は『渋谷バラード』の舞台を巡るんだね!」

「そうだよ。美愛の代表的な楽曲シリーズ『渋谷バラード』の『聖地巡礼』をするんだ。」

「これは楽しみだなあ。」

「……はい、いったんここでカットです。ナレーションとテロップで『円山町の夜に』と『焼酎バークラシック』の解説を差し込む予定です。そこのロケ車に入って休憩していただく間にこちらがその内容なので一読下さい。」

「「はい!」」


 台本にもこの辺は書いてあるのだけど、改めてテロップの内容を読ませてもらえるのはありがたい。マンションの一階に設置されているコインパーキングに止められた車に入って、資料を読みながら、お化粧直しなどをしてもらう。15分くらい休憩をしたあと、再びロケが始まる。


「カメラ回します。5、4、3。」

「……ここはすごい場所だったんだね。」

「日本で初めてのオーセンティックな焼酎バーって、一度そんなお店で飲んでみたかったよね。」

「確かに!いろはもへべすも雨東さんも私も今年から来年に掛けて20歳になるからみんなで乾杯したいね。」

「あー、それいいね!」

「じゃあ、次の『聖地』を巡礼しよう!」

「案内お願いね。」

「任せて!」


 番組上は、いろはが完全に案内役になって、道を選んでいるように見えるけど、実際には道路使用許可申請の関係からスタッフさんが誘導してくれている。


「あっ、一回、元来た道を戻るんだね。」

「うん。それで、この階段を降りるの。」

「おっと、けっこう急な階段だね。えっ、なに?あっ!電車!」

「そうなんだ。階段を全部降りたところが、京高電鉄井の頭線の神泉駅。」

「『神泉駅徒歩2分』だね!」

「ご名答!一般のお宅なので今日はここまでなんだけど、作詞作曲をされた大渡恭正先生によると舞台になっている『ワンルームのマンション』は本当に神泉駅から徒歩2分の所に建っているそうです。」


 事前にもらった資料によると実は舞台になっているマンションは、先ほど寄った『焼酎バークラシック』の入っていたマンションだそうだ。大渡恭正先生のご両親が、周囲からの連絡を全てシャットアウトして、楽曲制作に集中したいときに使っている部屋がその舞台なんだとか。それで今回は駅前で済ませてしまった、というのが真相。ここまででだいたい半分かな?ロケはまだまだ続く!

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