第122話●朋夏の感覚

 この前の食事会はビックリしたけど、とても楽しかった。せっかくだから、ということで未亜からディナーショー招待の話を御園生さんにしたら、紗和さんと柊さんも反応して、みんな来ることになった。ディナーの代金がけっこういい値段になってしまうので、紗和さん・岡里さん・柊さんは京高スクエアホテルのみ来るということになっている。ところが、飯出さんと御園生さんは4会場全部だそうだ。さすがだ……。


 今日、火曜日はオーディオブックの完成台本を使った読み合わせとBGMなどの確認があるので、3限が終わると同時にみんなでKAKUKAWA本社へと向かうことになっている。今日の主役は飯出さんなので気が楽だ。


「おはよう!」

「朋夏、おはよう!」

「今日は車借りたから一緒に乗っていこう!3限終わったら1号館1階で合流してそのままいく感じでよろしくね。」

「わかった!」


 火曜三限の英語は未亜と二人きりなので、ランチをみんなで取ったあとは二人だけで教室へ移動する。


「朋夏、わざわざレンタカー借りたんだね。」

「タクシーでいいと思うけど、まあ、飯出さんが運転してくれるならいいか。」

「朋夏って、運転免許持ってたんだなあ。でも大学生なら普通か。」

「いまだと当たり前かもな。どんな運転するか判らないけど。」

「ハンドル握ったら変わりそうだなあ……。」


 この時は二人とも気軽に考えていた。そう気軽に考えていたのだ……。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 1号館1階のエレベーターホールで合流したあと、飯出さんは6号館の方へ歩き出す。朝の話だと車を借りたっていっていたけど、あっちのコインパーキングに置いてあるのかな?


「朋夏、借りた車ってどこに止めたの?」

「6号館裏のところにそろそろ来ていると思うよ。」

「えっ?来てるって?」


 未亜と二人で頭の上にクエスチョンが出ているのに岡里さんはニヤニヤしている。なんだろう?


「あ、もう来てるね!」

「えっ!?あれ、少しごついけど、車体が長いし、リムジンじゃない?」

「うん、リムジンだよ。」

「飯出さん、もしかしてリムジン借りたの!?」

「そうだよ!免許はあるからレンタカーでも良かったんだけど、せっかくだから四人で顔が見られるように座りたくてね。運転手さんも来てもらってるよ。」


 未亜が眼をまん丸にして驚いている。お互いにVTuberトップクラスの金銭感覚はついていけないよな……。リムジンに乗り込むとL字のシートと一人用座席、あと正面を向いている二人用座席があった。


「今日は夜まで借りているから帰りも乗って帰ろうね。」

「いやあ、朋夏は本当に相変わらずだよね。私はもう質素な生活だから。タクシーすら使わないし。」


 岡里さんも元トップクラスだもんなあ……。


「逆に私はほとんどタクシーになったなあ。」

「未亜はタクシー移動なんだ?」

「うん、仕事で都内を動くときはタクシーで移動するように太田さんからタクシーチケット支給されてて、それ以外でも出来るだけタクシーを使ってほしいっていわれているよ。」

「私は新人声優なので電車だなあ。」

「えー、彩春も前はタクシー使ってたじゃん。」

「朋夏みたいにいまでもウルギフで稼いでいるわけじゃないから倹約しないとなの。」


 個人勢トップクラスだった西陣つむぎだから貯金はたくさんありそうだけど……。


「彩春、結構な額、貯金しているのに?」

「ああいうのは万が一に備えて取っておくの。収入を大幅に超過する支出は危険だから。」

「配信の世界ってよく判らないけど、すごいんだね。」


 未亜にはよくわからない世界だよね、きっと。


「ふつうの大学生から見れば、ここにいる四人の金銭感覚はだいぶずれているとは思うけどなあ。高倉くんは超売れっ子作家だし、未亜はいまやトップクラスのアイドルシンガー、彩春はVTuberとしてはTOP5に入るチャンネル登録者数だったでしょ。知名度がそれぞれダントツだもの。」

「だからそれは前の話だって。いまはしがない新人声優ですから。でも想定していたよりは割と楽に金銭感覚戻せたかな。」

「圭司、うちはそんなに金銭感覚ずれてないよね?」

「スーパーで国産の薄切り豚ロースが安売りしていたという理由で晩御飯を生姜焼きにして、お互い喜ぶような金銭感覚だから大丈夫。」

「それは問題ないね。やっぱり朋夏だけだよ。」

「えー、みんなひどいよぉー。」

「そういえばママダPと上水さんは現地合流?」

「うん、そうだよ!マネージャは私たちと同じ太田さんだから、太田さんが二人を連れてきてくれるって聴いたよ。沢辺さんも太田さんと一緒だって。」

「帰りはどうするの?」

「儘田先生も上水さんも帰りはこのリムジンで!」

「そんなことできるの!?」

「うん、8人まで乗れるからね。あと、今日一日はチャーターしているんだ。あまり遠くだとダメだけど、23区内と横浜に千葉、あと与野ウルトラアリーナはいままで大丈夫だった。」

「……いままでっていうことはリムジンをチャーターしたのは何度かあるんだね……。」

「あるよ!彩春と二人でリムジンの車内からオフコラボラジオ配信とか数え切れないくらいしてるしね。」


 VTuberのトップクラスは本当にすごいなあ……。なんて話をしていたらKAKUKAWAの近くまで来たみたいだ。


「打ち合わせしている間、このリムジンはどうするの?」

「この近くの駐車できるところで待ってもらうよ。」

「そんな感じになるんだね……。」


 KAKUKAWAの本社近くは細い道路が多いので、日洋九段高校のあたりで降りてそこからは歩いて行く。本社の前に四人立っているのが見えた。初めて話をする沢辺さんとのあいさつもそこそこに会議室へと連れられていく。打ち合わせとBGMの確認そのものは沢辺さんの力もあってか、かなり順調に終わらせることが出来た。あとはみんなが練習するだけだね。

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