第088話○広がる関係
まさか彩春が儘田さんに作詞作曲の依頼をしていたことがあったなんて!親友である彩春と儘田さんにこんなつながりがあったなんて嬉しい。私も儘田さんとはあれ以来、まめにRINEして雑談しているけど、一緒に遊びに行ったりして、もっと仲良くなりたいと思っている。私や圭司だけでなくて、彩春や朋夏とも仲良くなってくれて、みんなで遊びに行けたらいいなあ。
しばらく話をしていたら儘田さんもだいぶ慣れてきたのか、積極的に話題を振るようになってきた。
「私は今日入居ですけど、皆さんはいつくらいからここにいらっしゃるんですか?」
「うちが1801に入ったのは7月1日で、飯出さんはいつだったっけ?」
「私は8月26日。彩春は?」
「4月1日だよ。」
「皆さん、今年だったんですね。」
「儘田さん、ここ四人は同じ大学で同じ学部の同じ学年なんです。」
「そうだったんですね。ずいぶん偶然が。」
「びっくりしたよねー。そういえば儘田先生っておいくつなんですか?」
「朋夏、年齢を聞くなんて。」
「早緑さん、大丈夫ですよ。私は早緑さんと同い年なので、皆さんとも同い年ですね。大学には通っていないので同じ学年ではないですけど。」
「ママダPって同い年だったんですね!じゃあ、良かったら敬語とか使わずにラフな感じでどうかな?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん!朋夏もいいよね?」
「うん!儘田先生はもう友達だと思ってるよ!」
「……ありがとう……。」
儘田さんはそういうと少し涙ぐんだ。
彩春も朋夏もきょとんとしているけど、まださすがに事情はいえないよね……。
「……ごめんなさい、実は私、いろいろあってずっと引きこもっていて、それで高校も通信課程だったので、リアルで親しくしてもらっている同世代の人がいまは早緑さんと雨東さんしかいなくて、だから友達と言ってもらえたのが嬉しくて……。」
儘田さんがだいぶ踏み込んだので少し驚きつつ、私からフォローしておこう。
「私もマネージャーの太田さんに儘田さんを紹介されてね。最近友達になったんだ。せっかく同じマンションの同じフロアだし、みんなで仲良く出来たらいいなって思う!」
圭司のことは触れずにうそは言わないように……。
「うん!曲のことは抜きにしても仲良くしたいと思うよ!ね、彩春!」
「そうだね。私もママダPとはリアルでも仲良くしたいかな。」
「儘田先生、あらためてよろしくね!」
圭司はニコニコ見守っている。
「そういえば、三人は呼び捨てで呼び合ってるんだね。」
「なんでこんな感じになったんだっけ?」
「それは5月くらいに私が『名前を敬称なしで呼びたい』っていったからだよ。」
「そうだ!未亜だった!そういえば、なんか力説されたような気がする。未亜って、そこに結構こだわりを持ってるよね?何か理由があるの?」
「うん、親しくなったらやっぱり敬称なしのファーストネームで呼び合いたいんだよね。朋夏もそれの方が最後の壁もなくなる感じがしない?」
「確かにそうだね。そして気がついたら私も彩春もなんか親しくなると他の友達とも呼び捨てするようになったから、未亜の影響力は大きいね。」
「それでどんどん壁がなくなっているなら嬉しいよ!」
大学では話せない内容が多くて、雑談が盛り上がる。
「私は本当に忙しくなっちゃってね。平日は授業を優先してもらっているから土日は目一杯仕事だよー。」
「早緑様、本当に最近すごいよね。今日は金曜日だから私はこのあと24時から定期配信の予定だよ。もちろん今日のことは話さないけど、早緑様2周年記念配信だから、二人とも良かったら見てね。」
「明日、未亜はけっこう早かったよね?」
「うん、明日は7時起きで、テレビ局をはしごだね。」
「早めに寝たほうがいいな。飯出さん、アーカイブ残す?」
「うん、残すと思う。」
「じゃあ、明日、未亜が仕事終わって帰ってきたら二人でみようか。」
「うん、そだね!」
「朋夏、私はリアルタイムで見るね!」
「私はいつもスマイルばっかりだからMeTubeの生配信って見方がよくわからなくて。」
「へべすはスマイルでも配信しているけど、せっかくだからうちで一緒に見ようよ!」
彩春が早速儘田さんのことを誘っている。彩春は儘田さんと元々やりとりあったから一番いいかもね。
「うん、岡里さん、ありがとう!じゃあ、あとでお邪魔するね。」
「彩春、久しぶりにつむぎのアバター使って配信出る?早緑様デビュー2周年記念だけじゃなくて、今日、声優デビューした岡里いろはデビュー記念も兼ねたオフコラボっていうことで。それを儘田先生に見てもらうとか?」
「いやあ、さすがにまずいでしょ。ちゃんと大石さんに相談してからじゃないと。」
「そうかあ。つむぎが新人声優岡里いろはに転生したのはたぶんもうみんな知っているから、改めて転生した岡里いろはとのオフコラボ、とか面白そうなんだけどなあ。」
「それは判る。そういうのもそのうちやりたいよね。」
「それなら、たぶん、つむぎのアバターより実写で出た方がいいよね。そうしたらうちの配信部屋をクロマキー対応しないとだなあ。彩春、相談に乗ってね!」
「はいはい、手伝うよ。」
「配信はよく出るけど、VTuberの配信に呼ばれたことはないからそういうのも面白そうだなあ。」
「早緑様に出てもらえたら私泣いちゃうかも!儘田先生にはジングルとか曲とか書いて欲しいし!」
「私もジングルとか書いたことがないから楽しそう!」
「よし、今度聞いておくよ!もちろんギャラもちゃんと出すよ!」
そうか、友達とはいっても普通にお仕事だもんね。朋夏、そんなギャラが出せるくらいの収入があるんだなあ。配信の世界は全く未知だから圭司にもいろいろ聞いてみよう。
「高倉くんにも何かお願いしたいけど何があるかなあ。」
「フリーダムな雑談配信だと脚本もいらないだろうしなあ。」
「新人声優としてやってみたいことがあるんだけど……。」
「彩春、なに?」
「うん、朗読劇をやってみたい。」
「あっ、それいいね!そういえば、早緑様って確か女優志望じゃなかったっけ?」
「さすが!ファンクラブ会報の創刊号にしか書いていない情報を持っている人がここにも!」
「も?」
「圭司も創刊号にしか書かれていない情報を持っているからね……。」
「さすが高倉くんだね……。」
彩春がちょっとあきれた感じだ。
「それなら、KAKUKAWAにも許諾取らないとだけど、『セントハイディアン王国の魔物と聖女』の外伝みたいな脚本書こうか?設定だけあるけど本文には名前以外全く出てこない人とかがいるからその辺をメインにしたサブストーリーね。アニメにも全く出てこないからあっちにも影響ないし。」
「雨東先生!!!!!それ、素敵!!!!!」
「それなら、私はBGMとかキャッチとかで参加出来るね。面白そう!『セントハイディアン王国の魔物と聖女』も読んでおくよ。」
「それなら儘田さん、うちにあるの貸すよ?」
「ううん、それは雨東さんに悪いからちゃんと買うよ。そのかわり、サイン下さい!」
「俺のサインでいいならいくらでも。買ったら教えてね。」
まだ少しぎこちないけど、圭司と儘田さんもだいぶやりとりがちゃんと出来るようになってきた感じがする。これも嬉しい。
「あっ、そろそろ22時だね。また食事会とかしたいよね。」
「うん!未亜も早緑様の活動で忙しいと思うけど、またみんなで食事会とかしようね!」
5人のRINEグループも帰り際にできた。いい感じに歯車が回り始めているなあ。私は私が出来ることをやっていこう!
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