第023話●新居の内覧

 1801号室の入り口にも当然のことながらカードキーをタッチするところがあった。中に入ると天井が高い!


「まずここが玄関ね。オートロックになってる。こっちが8畳の洋室。」

「結構窓が大きめですね。」

「大きいけど隣のマンションが近いから曇りガラスになってる。日差しはちょっと厳しいかもね。ほかの部屋より壁は多いし。」

「ここは私の部屋にする予定なんです。本棚が入るので壁が多い方が良いですし。」

「確かに先生にお勧めかも。」


 太田さんと話しているすきに未亜がどこかへ行ってしまった。


「うわー、お風呂広い!」


 少し遠くから未亜の声がしてきた。声のする方へ行くと洗面台と洗濯機置き場、そしてお風呂だ。


「間取り図には書いてなかったと思うけど、お風呂も6畳くらいあるのよ。」

「それはずいぶん広いですね。」

「総合芸能事務所だけど、女性アイドルと女性歌手が一番多いからやっぱりお風呂は大事なのよね。」

「判ります!女の子にとってお風呂は大事ですよね!」

「自動洗浄機能付きだから風呂洗いも不要。」

「ものすごい便利ですね……。ところで太田さん、洗濯機置き場が2つあるのはなぜですか?」

「もともとこの辺の物件って、何人かが一緒に住んでもらうことが多いの。この部屋も最近まで新人だったアイドルが4人で住んでいたのよ。そうすると洗濯物は人数分出る。だけど一緒に洗うのはやっぱりいやでしょ?」

「なるほど、それで2台置けるんですね。ちなみにその4人はいまどちらに?」

「それぞれ活躍するようになったんで晴れて一人暮らしをはじめてる。私が担当している上水あげみずここなと峯野みねの寧音すずねが住んでた。」

「ここなちゃんと寧音ちゃん、ここに住んでたんだ!」

「あとそこにガスも来てて、排気ダクトもあるからガス式の乾燥機もお薦めよ。」


 廊下を進むと扉があって、その先は一気に視界が広がる。


「ここがリビングで、そこがキッチンね。」

「IHクッキングヒーターだ!ここで料理するの楽しみ。」

「美愛、料理できるの?」

「太田さん、それは失礼ですよー!高校時代は毎日自分でお弁当作ってたんですから。」

「へえー!すごいな。俺は簡単なものしか作れないから未亜に教えてもらうことにするよ。」

「うん、いいよ!一緒に作ろうね。」

「ここを開けると食洗機もあるから使ってね。」

「便利だなあ。太田さん、ここすごいですね。」

「気に入ってもらえたなら何よりね。」


 リビングの眺めはかなり開けている。


「思ったより眺めがいいなあ。こうやって見ると高い建物って白山通り沿いにしかないんですね。」

環状八号線かんぱちとかもそうだけど大通り沿いだけ高い建物が認められていて、それ以外は建てられないとかでしょうね。通りの向こうがここより低い建物で、さらにその向こうは低層住宅しかないから眺めも良いのよね。」

「ねえ、圭司!ここの引き戸、収納できるよ!」

「本当だ、やっぱり開けっぱなしでひとつなぎのリビングとして使った方がいいかもなあ。」

「それでこれがインターホンなんだけど……。」


 壁に何やらディスプレイが埋まっている。


「こんなインターフォン見たことない!圭司は見たことある?」

「いや、こんなのは初めてだな……。」

「これで警備員室とやりとりしたり、来客の判断をしたりするのよ。」


 生まれてはじめてみるなんかすごいインターホン。太田さんがかなり細かく説明してくれたのを要約すると

 ・ドアホン

 ・エアコン制御

 ・宅配ボックスに荷物が届いているお知らせ

 ・警備員室からの来客確認お知らせ

 ・出前の注文

 ・大型の荷物が警備員室に届いているお知らせ

 ・外出時の防犯設定

 などがすべて行える装置だそうだ。エアコンは天井埋め込み式で居室のほかに風呂やトイレの天井にも付いてて部屋ごとでも操作できるとか、来客は監視カメラの映像で本当に呼んだ人かを確認して問題なければ許可ボタンを押すと警備員室で入館の手続きをしてくれて1階から目的階に上がれるとか、出前とか大型荷物とかは警備員さんが家まで持ってきてくれるとか、なんかものすごいいろいろと説明を受けた。ちなみに1階に常駐している警備員さんはマンションの管理会社ではなく、大崎で派遣しているらしい……。紹介してもらった物件はどれも基本的に大崎の寮なんだとそれで初めて理解した。とりあえずマニュアルをもらえたのでそれを読み込んで、入居したらいろいろと試してみることにする。


「最後は10畳の部屋ね。」

「ここは私の部屋です!」

「大きいクローゼットが2つあるから美愛にはぴったりね。」

「アイドル衣装って個人管理なんですか?」

「まさか。基本的に事務所の衣装倉庫で保管よ。毎日着ることもあるから同じ衣装を複数用意してあって、着る度に提携しているクリーニング業者に依頼して洗ってもらうの。でも美愛は予備の衣装を何着か自宅においてたわよね?」

「自分の中でライブを思い出したいときに眺めたい衣装は予備をもらって自宅に置いてありますね。いまあるのは、1stライブと2ndアルバム記念ライブ、あと中野の時の衣装かな。この三つはここにも持ってくるよ。それ以外だと現場入りするときの私服もあまり変なのは着られないからどうしても増えちゃうんだよね。」

「なるほど、そういうことか。アイドルもやっぱり大変だよな。」

「先生もこれからはそういう機会増えますからね。ある程度は衣装もそろえておいて下さいよ?」

「圭司のコーディネートは私がします!」

「うん、未亜に任せるよ。」


 玄関まで戻ってきて、玄関脇に謎の扉があることに気がつく。


「太田さん、ここはなんですか?」

「ここはシューズクロークよ。玄関先においておくと便利なものを収納するための場所。前は自転車を入れていた人もいたけど。」

「ブーツとか雨具とかをおくと便利な場所だね。」

「乾燥のための空調機も設置してあるからいろいろと使ってね。」


 外へ出るとまた地下一階まで行って、車まで戻る。


「今日はありがとうございました。」

「いえいえどういたしまして。カードキーは30日の夕方には渡すから。美愛はレッスン前に寄ってね。」


 太田さんは未亜を実家まで送りがてら、未亜のご両親にツアーに向けたあいさつをしてくるというので先に下ろしてもらった。いよいよだな!

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