第34話 逃亡者ニコル


 一方、ベローネは指名のクエストを攻略するべく単独で行動していた。


 場所は中心街から離れた場所にある廃墟。

 夕闇の中、付近を見渡しながら歩いて行く。


 そして、もぬけの殻と化した酒場に辿り着いた。

 足を踏み入れ、奥の壁で立ち止まる。


 「……ここだな」


 ベローネは背中のストームブリンガーを抜き取り、壁に向かって縦一閃に斬り裂く。


 ザシュッ!!


 すると、壁の手前の空間が斬り裂かれ・・・・・、地下へと続く階段が現れた。

 酒場の奥は、魔術結界によって偽装されていたのだ。


「ここまで完璧な隠し方をされると、逆に怪しく感じる物だ」


 ベローネは階段を下っていく、すると、

 複数の話し声が聞こえていた。

 声からして7〜8人はいる。


「今日から頼むぜぇ新人!」


「は、はい! 宜しくお願いしますッス!」


「君のスキルには期待してるんだ、よりよい未来の為に頑張ろう」


「ありがとうございますッス、リーダー!」


 ベローネはドアの開いた部屋の様子を覗き、中を確認、踏み込む。


「――お前達、そこまでだ」


「「「!?!?」」」


 部屋にいた全員が振り向く。

 如何にもゴロツキ、といった連中の中、一際異彩を放つ人物がいた。

 髪の半分が赤、もう半分が青、右目にはモノクルを付けた祭司服の美形の男。


 奥のソファーに腰をかけ、脚を組んでいる。


闇晦やみくらましの結界とは随分な念の入れようだな、氷炎のバトラー」


「おや、キミはもしかして、壮麗のベローネかい!? 『虹の蝶』の!」


 アッハッハッ、とバトラーは笑い出す。


「いや〜初めまして、噂には聞いていたけど随分な美人さんだね。想像超えちゃったよ! これからボクと一曲踊らないかい?」


「生憎、そんな事をしに来たのではない」


 ベローネはバトラーに向かって力強く指を差した。


「闇ギルド『魔狂の牙』リーダー氷炎のバトラーの拘束が私がここに来た理由だ、大人しくしてもらうぞ」


「お〜こわこわ!? その真面目さも聞いてた通りだ」


 バトラーは自分の肩を抱きながら言った。


「今から5分与える、これはお前達の相談する時間ではない。非合法で得た報酬金や『魔狂の牙』の依頼履歴、依頼人の情報、全て用意してもらうためのものだ」


「え〜初対面でいきなりだね〜、見逃してよぉ」


「私が首を縦に振ると思うか?」


「多分しないよね、だから」


 バトラーは指をパチンと鳴らした。


「振らせるね」


 合図と共に『魔狂の牙』の団員達がベローネに襲いかかる!


「敵は1人、俺たちは8人、楽勝だぜ!」


「さっさと叩き潰しちまおうぜ!!」


 しかし、


 ガキィン!

 ベローネは瞬間的にストームブリンガーを抜刀し、振りかかる斧を受け止めた。


「うおっ!?」


「はああ!!」


 そして斧を打ち上げ、すかさず一撃をお見舞いする。


「ぐふっ!?」


 即座に1人目が倒され、途端に団員達の勢いが止まった。


「なっ......!?」


「残り4分だ」


「う、うわあああ!!」


 絶叫を上げながらショートソードで斬り込む団員、それもベローネは軽くいなした。


「がは!?」


「つ、強い!」


「……何やってんの〜?」


 バトラーがニコニコしながら口を開く。

 団員の1人がバトラーの脚に縋り付く。


「リーダー! あの壮麗のベローネ相手じゃ俺たち歯が立たないです!」


「いいから」


 張り付いた笑顔のまま口を開いた。


「いけ」


「ひ、ひいいいい!?」


 団員はバトラーの威圧感に気圧され、策のないままベローネに突撃する。


「ふっ!!」


「がはぁ!?」


 が、呆気なく倒されてしまい、

 あっという間に残りはバトラーだけとなった。

 

「……まぁこうなるか〜」


 バトラーはソファーから立ち上がる。


「次はお前だ、氷炎のバトラー」


「うーん、僕はこうならないように頑張るよ」


 そう言うと、彼は右手で炎、左手で氷の魔力を練り上げた。


「燃え盛るは……紅蓮の鞭!」


 右手の炎で鞭を作り出し、ベローネに攻撃を仕掛ける。


「凍てつかせるは……氷の鎖!」


 ベローネは回避するが、すぐさま左手の氷の鎖が襲う。


 「どうだい! 僕の炎と氷の二重魔術デュアルマジックコンビネーションは? この天才的な魔術の前じゃ剣士なんて恐るるに足らないのさ!」


 氷の鎖がストームブリンガーに巻き付く。


「終わりだね♪」


 そして炎の鞭がベローネに迫る。


「貴様の力は知っている」


 しかし彼女の剣は普通ではない。


「だから私が来た!」


 バキィン!

 ストームブリンガーに巻き付いていた氷の鎖は音を立ててバラバラに崩れ落ちた。

 

 退魔剣の異名は伊達ではない。


「何だって、まさかその武器は……!?」


 自由になったストームブリンガーで炎の鞭を切り裂き、距離を詰めた。


「はああああ!!!!」


 決定的な一撃、

 バトラーは膝から崩れ落ちた。


「……大型の退魔剣とは、ま、参ったね」


 そのままガクリ、と気を失った。


「……ふぅ」


 ベローネは息を吐く。


「何て性能だ、やはりマキナには感謝してもしきれんな」


 ストームブリンガーを見つめ、ポツリと呟いた。



 ◇



「はぁ、はぁ、はぁ!!」


 そんな廃墟の『魔狂の牙』の隠れ家から、1人逃走していた人物がいた。


 中性的な顔立ち、頭にゴーグルを付けた獣耳の少年だ。息も絶え絶えのまま、後ろを見ずに走り続けていた。


 し、知らなかったッス!!

 まさかあそこが闇ギルドだったなんて!?

 だって、バトラーさんって物腰も柔らかかったし!!


 いずれにせよ、闇ギルドに関与している事がバレてしまうのは不味い。


 「でも、在籍記録も残ってるはずだし……オイラどうなっちゃうッスかぁぁ!?」


 彼の名はニコル。

 辺境から出たばかりの、冒険者に憧れる少年だ。

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