第32話 俺はもう『白銀の翼』じゃない



「はっ? いやだから、助けてやるっていってんだよ。毎日の生活に苦しむお前をよ」


「遠慮しておく」


「うんうんそうだろう、これからは俺に感謝する日々にな……ってはあああああああん!?!?」


 マキナの予想外の反応にジュダルは動揺する。


「おい、本気で言ってんのか!?」


「ああ」


 何でだ!?

 俺様直々の誘いを断るってのかよ!?

 ジュダルは絶叫を挙げる。


「ふざけんな! 理由を言いやがれ!!」


「お前らのことは色々聞いてるんだよ、サルマ武具店の店主からな」


「……な!?」


 ジュダルの額から汗がたらりと流れた。


「武器を雑に使う癖、まだ治ってないみたいだな。そんなヤツらに作る武器なんてない」


「それは……あの店の武器がナマクラしかねぇのが悪いんだ! 使った側ですぐに壊れちまうんだよ!!」


「俺は忠告しただろ? 今の雑な使い方だと市販の武器はすぐ壊れるってな。それにあそこの武器は質が良い、ナマクラって言うのはやめろ」


「な、何を」


「あとお前、開店記念の矛を持ち出しただろ?」


「開店記念……うっ!?」


 勿論心当たりがあった、綺麗な装飾の施された矛だ。


「あれはあの武具店にとって大事な物なんだ。軽はずみに使っていい物じゃないし、壊すなんてもっての外だ。俺が直さなかったらどうなってたか」


「直しただと、迷いの森に置いてった物を何でお前が持ってんだよ?」


「『影の悪魔』を壊滅させた時に拾ったんだ」


「……壊滅させた? まさか闇ギルドを壊滅させた『虹の蝶』の団員ってのは!?」


「ああ、俺達のことだ」


 ジュダルは空いた口が塞がらなかった。

 武器を弄ることしか能の無かったコイツがモンスターどころか闇ギルドを、あの仮面野郎を倒したのか!?


「う、嘘だ、そんなわけがあるわけねぇ! なら『白銀の翼』に戻った時はその実力をみせてみろ!」


「だから俺は遠慮するっていってるだろ」


「っああああうるせぇ!! マキナ、お前は黙って言うこと聞いときゃあいいんだよ!」


「俺はもう『白銀の翼』じゃない、従う理由がない」  


「じゃあああああ!?!?」


 くそ、くそ、くそ!?

 どいつもコイツも俺をコケにしやがる。


 血が出る勢いで頭を掻きむしる。

 思い通りの展開にならず、ジュダルはまるで面白くなかった。


「自分が強いなんてホラまで吹きやがって……何であろうと絶対に来てもらうからな!」


「――もうやめてください!!」


「!?」


「マー兄と私を含めたパーティーで闇ギルドを倒しました! 嘘じゃありません!!」


 ずっと2人の話を聞いていたアリアが声を出した。


「元はと言えば『白銀の翼』の方からマー兄を追い出したって聞きました、それなのに今更戻ってこいなんて虫が良すぎると思います!! マー兄は渡しません!!」


 アリアはマキナにギューッと抱き付き、ジュダルをキッと睨む。


「な、何だよ?」


 ジュダルは思わずたじろぐ。


「アリア、俺は大丈夫だから」


「うん、ぐすっ……」


「ジュダル、そういうことだから戻るつもりは毛頭ない、他を当たってくれ」


「ま、まて! 考え直せ!!」


 そして、

 彼の不幸は続く。


「マキナ達はそろそろ食べ始めてる頃かしらね、今日はミクロベリー味にしよっかな――ってあ!?!?」


 ジュダルは振り返る。

 後ろに金髪をポニーテールで纏めた、見覚えのある槍使いの少女がいた。


「っあ!? お前は!?!?」


 間違いない。

 街の路地裏で自分を返り討ちにした女だ。


「アンタこの間の……!」


「ステラ、ジュダルを知ってるのか?」


「知ってるも何も、この前話したアタシのリンドヴルムを盗もうとした奴よ!!」


 まずい!!

 マキナの仲間だったのかよ!?

 ジュダルは汗をダラダラ流した。


「ステラちゃん、この人『白銀の翼』のリーダーで、マー兄を無理矢理連れ戻しに来たの!!」


 ステラは目に涙を溜めたアリアに目を向けた後、ジュダルの方に向き直る。


 「……何よアンタ、今度はアタシの仲間を盗ってやろうっての?」


 ステラはリンドヴルムを抜き取り、槍頭を向ける。


「2度と立てなくしてやるわ」


 リンドヴルムがギラリと光る。

 ジュダルは竜に睨まれたように動けなくなった。

 ステラの槍の一撃の重さを、身をもって体験しているからこそだ。


「ひ、ひいい!?」


「……はぁ」


 マキナは大きくため息を吐く。


「ジュダル、俺の意思は変わらない。お前らに武器は作らない」


「あ、あああ」


 絶望的だった。

 唯一と言ってもいい希望が消えかけようとしていた。


 ジュダルに残された道は……。


「……お願いしますマキナ様、『白銀の翼』に戻ってきてください。このジュダル一生のお願いです」


 誠心誠意の土下座だった。

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