第3話 幼馴染との再会、炎剣燃やします!


 それからマキナは街をのんびりと歩いていた。


「現実はこんなもんか」


 数年間『白銀の翼』のために頑張ってきた。

 でもそれは一瞬で崩れた、追放という形で。


「ま、仕方なかったのかもな」


 だけどいざ自由になると意外に胸が軽くなっていた。

 体に纏わりついてた鎖が外れた、そんな気分だったのだ。

 今後のことなど考えてもいないのに。


 ジュダル達には一応忠告もしといたことだし、俺は俺で好きに生きよう。


「とりあえず家に帰るか」


 ギルドでほぼ休む暇もなく鍛冶業務に追われていたので1ヶ月ぶりの帰宅だった。


「いや、離して下さい!」


「いいじゃねぇかよー、ツレねぇなぁ」


「俺たち怪しいもんじゃないって!」


 そんな時、近くの路地裏で女の子の冒険者に、男の中年冒険者2人が絡んでいた。

 中々に痛い場面だ、同じ男として恥ずかしい。


「こんなチャンス滅多にないぜ、何たって俺達あの『白銀の翼』のメンバーなんだぜ!」


「イカしてるだろ! そんな訳でお茶でもどうよ

、お嬢ちゃん」


 すぐに嘘だと気付いた。

 マキナは武器の調整の都合上、団員全員の一人ひとりの顔と名前を記憶していた。

 あんな奴らは知らん、見たこともない。


「嫌です、離してください!」


「ああん、俺達を誘いを無下にする訳か!」


「色々と分からせるしかないな!」


「やめとけ」


「――――!?!?」


 3人が一斉にこちらを向く。

 目撃してしまった以上、黙って素通りは出来なかった。


「な、なんだお前!!」


 中年冒険者2人は睨みを利かせる。


「その子を離してあげてくれって言ってるんだ」


「はぁ? 小僧が何粋がってんだよ!」


「『白銀の翼』に楯突いたらどうなるか……流石に馬鹿でも分かるよな?」


 そういうと1人はトンファー、もう1人は斧を取り出した。


 マキナはスキルを発動させた。


「鍛冶スキル【武器ステータス】」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:鉄のトンファー

 威力:120

 耐久値:(75/100)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:鉄の斧

 威力:110

 耐久値:(60/80)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 鍛冶スキルの1つ【武器ステータス】

 これで武器の状態を事細かに確認する事ができる。


「3秒以内で帰ったら許してやるぞ、ガハハハ!!」


「やめておけ、そんな武器じゃ俺には勝てない」


「ああん?」


 マキナは背負っていた剣の柄を握る。

 鞘から抜き取ると、

 燃えるような剣身が表れ、

 辺りに炎と火の粉が舞った。


 炎魔剣イフリート、ジュダルの装備だ。

 追放されたとき「給料泥棒の武器なんざ使いたくねぇから持ち帰れ!」と言われ、所持していたのだ。


「……な!?」


「炎剣……ってことは!!」


 中年冒険者2人は脚をガタガタ震わせた。


「「……炎剣のジュダル!!」」


 よし、

 いい感じに騙されてくれた。

 この辺りでジュダルの名前を知らない人はいない。 

 マキナ自身も名を騙る形にはなっているが、それで穏便に済むならずっと良いのだ。


「す、すみませんでした!」


「許してください、もう2度としません!」


 武器を置き、土下座の態勢になる中年冒険者2人。

 マキナもイフリートを鞘に納める。


「『白銀の翼』を名乗ったことは特別に許してやる、さっさと行け」


「あ、ありがたきしあわ――!」


「――マー兄?? マー兄だよね!?」


 女の子冒険者がぴゅーと走ってくる。

 そして背伸びをしながら顔を近づけてきた。


「その白い髪、やっぱりマー兄だ! 私だよ私!!」


 彼のことをマー兄と呼ぶ者は1人しかいなかった。


「……お前、アリアか!?」


「当ったり〜〜! 久しぶりだねぇ〜」


 そういうとピンクのショートヘアを揺らしながら笑顔を浮かべた。

 マキナの幼馴染アリア、2つ下の16才だ。

 会うのは3年ぶりだ。あんなに小さかったのに背も伸びて身体付きも女性らしくなっている。


「お前、変わったなぁ」


「そりゃ3年もあれば私もおっきくなるよぅ!」


 アリアはえへんと胸を張った。

 てゆうか思いっきり俺の名前言ったな……。


「おいどーゆーことだよ!? お前炎剣のジュダルじゃねぇのか!?」


「返せよ!! 俺たちの土下座返せよ!!!!」


 中年冒険者2人は立ち上がり再び武器を取った。


「あれ、これもしかして私のせい……?」


「あー、いや、まぁ、気にするな、とりあえず離れとけ」


 アリアはとにかく天然だった。

 幼少期に散々振り回されたのが昨日のことのように思い出される。

 こんなこともアリアと一緒なら納得出来るほどに。


「「くたばれ偽者がああああ!!!!」」


「――偽者は」


 マキナはイフリートを即座に抜き取る。

 火の粉が舞い、火炎の剣身が再び顔を出す。


「――お前らだろうが!!」


 イフリートによる攻撃を繰り出す。

 爆炎を纏った斬撃はトンファーと斧を焼き尽くし、その衝撃波は中年冒険者2人にも及んだ。


「「ぎゃあああああ!?!?」」


 勢いのまま吹っ飛ばされる中年冒険者。

 少し強くしすぎたか、一応抑えたつもりだったんだが?


「く、くそ! どうなってんだよ、あいつ炎剣のジュダルじゃないんだろ!?」


「偽者なのに強いって訳わかんねぇ!! ずらかるぞ!」


 2人は逃げるように去っていった。


「ふぅ」


 マキナはイフリートのステータスを確認した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:炎魔剣イフリート

 威力:5000

 耐久値:(2000/2000)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 耐久値に変動はない、ちゃんと上手く使えば今みたいな攻撃でも減ることはないのだ。


「助けてくれてありがと、マー兄!」


 離れた所で見ていたアリアは目を輝かせた。


「それって炎剣だよね? マー兄が作ったの?」


「ああ」


「魔導武器も作れるようになったんだ……マー兄ほどの鍛冶スキルを持つ人がいるなら『白銀の翼』は安泰だね!」


 会えなくなる前の最後の会話で、自分が『白銀の翼』で鍛冶師として働くことを伝えていた。

 

 勿論クビになったことまでは知らない。


「それなんだけどさ……実は『白銀の翼』の鍛冶師をクビになったんだ」


「ええ、マー兄がクビ!? 本当に??」


 アリアは目を見開いた。


「ああ、ほんのついさっきの出来事だ」


「嘘……マー兄ほどの鍛冶スキルを持ってる人なんて私知らないよ、なんで、理由は??」


「仕方ないさ、俺の給料よりも武器屋で武器を揃えた方が安上がりなんだとさ」


「何それ信じられない!!」


 それを聞くとアリアは俯いた。

 自分のことでこんなに怒ってくれる人がいるってだけで、少しでも救われる。


「いいんだよ、正直あいつらが俺を邪険にしてたのは分かってたし」


「……マー兄」


「?」


「私のギルドに入ろうよ、冒険者として!!」


「!?」


「マー兄の冒険者の才能を放っておく事は出来ない、うん、そうだよ、絶対そう! そして『白銀の翼』をギャフンと言わせてやろうよ!」


 暴走気味にアリアは答えた。


「おい、落ち着いてくれ」


「マー兄は興味ないの? 冒険者??」


「……今まで考えたことがなかったな」


「勿体ないよ! マー兄の作った最強の武器をマー兄自身が使えばすごい冒険者になれるよ!」


「俺が、冒険者か……」


 鍛冶スキルを持つものは鍛冶師、そんな考えを持っていた。だけど今回を機に新たな道、冒険者の道に進むのもいいかもしれない。


 少なくとも俺を認めてくれる人が1人いるのだから。


「やってみるか!」


「そうこなくっちゃ! 明日マー兄の家に行くから、私の所属してるギルドに連れてってあげる!」


「ギルド? そういえばどこなんだ??」


 『白銀の翼』の鍛冶で付きっきりだったためアリアに関する情報は一切入らなかった。

 そのため彼女の所属するギルドは分からず仕舞いだった。


 にや〜とアリアは頬を緩めた。


「『虹の蝶』だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る