第51話
「ワオ。今日はここに泊まれるのか」
「かもな」
「なーるほど。だから来たのか」
都合のいいように解釈してる間抜けの誤解をそのままに、俺たちはこれまたご立派な扉の前に立った。
俺とマオに緊張が走る。ここから先は敵の根城なのかもしれない。残酷な現実を目の当たりにするかもしれない。否が応にも足が重くなる。
「あー、よかった。アーシお風呂入りたかったんだよね」
その横を馬鹿が無遠慮に通り過ぎ、扉を開けた。
「お風呂! お風呂!」
るんるんスキップをしていた馬鹿は、案の定エントランスホールにいた衛兵に取り押さえられた。
「あにすんのよ! アーシは客よ! クレーム入れるわよ! 低評価レビューしてやる!」
…………シリアスな空気だったのに。
「チェックイン! チェックイン!」
馬鹿が謎の呪文を唱えてる。どうしよう。こいつ置いてマオ連れて逃げようかな。連れだと思われるのは恥だ。
「ルームキーをよこせぇぇぇぇぇぇええ」
「やれやれ。何事ですか」
奥のこれまたご立派な無駄に歪曲してる階段から総教皇が降りてきた。すると衛兵とマオが一斉に跪いた。
「オウ、オヤジ! 泊めさせろ!」
ラーメン感覚で宿泊を要求してる薄汚いギャルに何を思ったのか、総教皇は眉をひそめた。
「その身なりは……」
「サイコーにイケてるファッションだろ? なにジロジロ見てんだよ痴漢で訴えんぞ」
「…………」
イカン。このままこいつに場を任せたらおかしな方向に物語が進む。しかたがないので俺は口を開く。
「総教皇様、謁見しに来ました」
「無礼者!」
衛兵の誰かに咎められた。まあまあ、と総教皇が制止。
「しかし参りましたね。多忙というのもありますが、物事には順序というものが」
体のいい、わかりやすい断りの文句に、俺は追撃。
「最優先の案件だと思いますよ。とりあえず、他言無用レベルの」
俺は扉の影に隠れていたマオの手を引く。すると彼女を視界に入れた総教皇の顔が硬直した。
「…………なるほど」
総教皇はくるりと背を向けた。
「彼らを私の部屋へ案内してください」
「あ? 風呂に案内しろや」
「貴様……!」
また取り押さえられそうになるミツルを見ることもなく、
「構いません。そうしてもらいなさい。部屋も研修区画が空いているでしょう。好きに使わせなさい」
深々と頭を垂れてから、衛兵たちはギャルを連行していった。そのまま帰ってこなくていいぞ。
「なんとかお目通り願えたな」
握った手を放そうとしたが、離れない。逆に手を強く握られた。
「私のそばにいてください」
まあいいけどさ。
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