賽銭泥棒

 賽銭泥棒を捕まえた。

 最近繰り返し犯行に及んでいたので捜査を行なっていたところだった。

 防犯カメラに映った映像の男で間違いない。

 警察官はパトカーに連行し、抵抗することもない男に事情を聴く。


「どうしてこんなことをしたんだ」

「生活が苦しくて」


 俯いてぼそぼそと話す男は痩せていて、確かに裕福な生活を送っているようには見えない。


 逮捕の報を聞きつけた住職が現れた。

 仲間の警官がパトカーの前で話を聞いている。


「賽銭箱の中のお金ならご利益があると思って、パチンコで増やそうと思ったんです。けど今自粛中で、近場のパチンコ店は全然やっていなくて」

「それでそのまま生活費に消えた、ってことか」


 警察官は溜息を吐いた。

 そのとき、パトカーの窓からこんこん、と音がした。

 住職が叩いているのを確認し、窓を開ける。


「あの、きっと貧しくてやってしまったんですよね。何卒お慈悲を」


 住職の腕には金色の大きな時計が光っていた。パジャマは僅かな光を反射して艶っぽく光り、その先には住職が乗りつけた黒い外車が停まっているのが見えた。ホイールは金色だった。


 警察官は精一杯の愛想笑いを浮かべて「世知辛い世の中ですね」と言った。

 住職は真面目な顔をして、何度も頷いた。


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