いわくつき

 小説家になりたい男が手に入れた古い万年筆。

 かの有名な大作家が亡くなる際に握っていたものだそうで、相当に年季が入っているようだった。

 男は原稿用紙を前に、その万年筆を手にしてみた。

 すると万年筆は男の意思とは無関係に動き周り、すぐさま原稿用紙の束が積みあがる。


 手が止まったとき、男は興奮して原稿用紙を一枚目から読もうとした。

 が、読めない。

 藁にもすがるような想いで、編集の仕事をしている知人にも目を通して貰った。

 が、「読めない」と返された。


「パソコンで打ち直してからもう一度渡してくれ」


 男はそう言われて途方に暮れた。男にも読めないのだから、手の打ちようがない。


 亡くなった大作家は大変な悪筆で有名だったと知ったのは、その後のことである。

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