父親の思惑

 うちの息子は、俺が「やれ」ということをやりたがらず、「やるな」ということばかりする。

 物心がつく前からそうなのだから、きっと俺との相性が悪いのだろう。

 俺は教育について口を出すのはやめよう。と、途中までは思っていた。


 だが、ある日気付いた。この特性を活かせば、息子の将来は安泰なのではないか、と。


 俺はその日からその仮説を立証するべく、息子と積極的に会話コミュニケーションを試みた。


「パズルなんかやるな。外で奇声を上げて走り回って来い」

「宿題なんて良いから外で遊んで来い」

「一日何時間ゲームをしてもいい。学校の宿題なんて後回しだ」


 息子はことごとく俺の言葉に背き、頭を使う遊びを好み、外では決して取り乱さず、宿題をしてからでないとゲームには手を付けない真面目で優秀な成長ぶりを見せた。

 俺の仮説は間違っていなかったのだと心中でガッツポーズをしながら、息子にやって欲しくないことを並べ立て続けた。


「ありがとうとごめんなさいを軽々しく使うな」

「なんにも考えずに、楽しいことだけをすればいい」

「人様に迷惑をかけても、自分が良ければ良いと思え」


 将来は誠実で勤勉な青年になってくれると良い。俺はその日を待ちわびていた。

 ところが、そう上手くは行かなかった。


 息子に反抗期が来たのである。


 中学二年生になった息子は、身長が伸び、声が変わり、それから


 宿題など放ったらかし、スマホゲームばかりをし、時に奇声を上げて友人たちと盛り上がる。

 見かねて俺が注意をすると、息子は鼻の穴を広げてこう言う。


「俺は父さんの言うとおりにしているだけだ」


 今日も息子は悪い友人達と遊びに出かけ、将来のことなど何も考えず、己の欲求に忠実な青春の日々を送っている。

 俺はどこで間違えたのだろうと毎日自問自答しているのだが、答えは出ない。


 子育てというのは、本当に難しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る