第4話


『・・・俺、もう帰っていい?』


 なんだか、凄く疲れた。


『あら、もう帰っちゃうの? シエロたんをもっと堪能したいんだけどな? 舐め回すように観察して、もっと近くで匂いを嗅いで、子供であることをフルに利用したスキンシップついでにあちこち撫で回したり、抱き付いて愛でようと思ったのに』


 とんだ変態発言だ。付き合いきれねぇ・・・


『是非とも帰らせてくれ』


 もう、姉貴とも会うことはないだろう。


 これ程の美幼女なのは勿体無いが、中身は腐れ切った女だ。いかがわしい視線を送られ、そこいらの野郎共と気色悪い掛け算・・・なんざ、されたくもない。おぞましい。


『あ~あ、まあいいけど。とりあえず、アンタ。誰ルートに行くつもり? このゲーム、ヤンデレ好き御用達レーベルのやつだから、どのルート行っても、最良でもメリバ確定。誰が見てもハピエンなエンディングはほぼ無い上、選択肢間違えてバッドエンド入ったら、幼少期で死ぬルートとかもあるから、十二分に気を付けなさい』


 その言葉に、俺は・・・


『腐ったお姉様。伏してお願いたてまつりやがるから、是非とも助けろくださいっ!? どうか詳しくご教授を!』


 テーブルに手をついて頭を下げ、見事に手の平を返した。今なら土下座も全くいとわないぜっ!? なんせ、自分の命と貞操と尊厳がガチで懸かっているからなっ!!!!


『いいわ、蒼。長くなるから座んなさい』

『はい、お姉様!』


 と、『シエロ』の異母妹『ネレイシア』こと、前世の俺の姉貴、茜が語った【愛に染まる空~ Il ciero si è tinto di amore ~】の内容は――――


 ・・・思った以上にヤバいです。


 本っ気で生きて行ける気がしねぇっ!!!!


 まず、ゲームの主人公シエロは国王の愛妾寵姫ちょうきである母親の命と引き代えにこの世に生を受けた。

 そして、寵姫である母譲りの顔をした俺は父に丁重に丁重に、腫れ物として扱われているらしい。

 本来なら、愛妾の子は王子として扱われないが、第二王子として遇されている。物心付いてからは、一度も父の顔は見たことないがな?


 はい、もうこの時点で重いっ!?


 けど、重たい話はまだ続く。


 王の寵愛を巡っての正妃と側妃、愛妾であった母親達の確執。王位継承権争いを画策する者達の暗躍。正妃の産んだ第一王子、側妃の産んだ双子の、本来なら第二であるべき第三扱いされている王子の弟と、第一王女である妹の存在。


 それらの事情を抱え、主人公シエロは心許せる者も少なく、自分の身を守りながら権謀術数渦巻く王宮で生きて来た。


 そしてシエロの十八歳の誕生日に、【愛に染まる空~ Il ciero si è tinto di amore ~】の物語は幕を開ける。

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