第17話 地獄のドライブ
のんびりできなかった。
「慣性ドリフトオオオォォォ!!」
「いやあああああああぁぁぁぁ!」
ギャギャギャギャッ!!
タイヤと七瀬の悲鳴が鼓膜を劈く。
どこかもわからない曲がりくねった峠を、瑠花さんはチョメチョメD的なハンドル捌きで攻めていた。
「うぐえっ」
右からの強い遠心力に引かれて俺の上半身が折れる。
気分はさながらパピコだ。
『ウェルカムトゥようこそ毛モノパーク! いつもどっわっはっは大笑い〜♪』
ブレーキとエンジン音が収まると、数年前に社会現象を起こしたアニメ『毛モノフレンズ』の主題歌が聞こえてきた。
出発して5分くらい経って七瀬が「他の曲を流してちょうだい」と要求し、瑠花さんが渋々かけたアニソンメドレーの一曲だ。
聞いていると元気が出てくる事で定評の本曲だが、今この状況で流れているのは狂気にしか思えない。
「ちょっと貴方! 正気!?」
七瀬の抗議の声をあげる。
聞こえてないと言わんばかりに、瑠花さんがアクセルを踏み込んだ。
ぶいいいいいんっっと聞いたことのないエンジン音を轟かせながら、ふわふわパンケーキ号が急カーブに差し掛かる!
「ちょおおおおお死ぬ死ぬ死ぬ!」
「もういっちょ! 慣性ドリフトオオオォォォ!!」
ギャギャギャギャッ!!
メルヘンなビジュアルとは裏腹に、凶悪的なドリフトを見せるふわふわパンケーキ号。
なんだこれ、なんだこれ?
今俺は、インフルエンザの時に見る夢を見ているのか?
「あははははっ、ウケる! りっちゃんさっきから凄い顔!」
「ウケてる暇があったらブレーキ踏みなさい!」
「短い人生ッ、止まるの禁制ッ! 踏み込めアクセルッ、近づくアクセス!」
「誰が韻を踏めと言ったの!?」
地味に上手いのが腹立つな!
ハイになると頭の回転速度も上がるのだろうか。
「法定速度はちゃんと守ってるからだいじょーぶだいじょーぶ!」
「そういう問題じゃ」
「来た! 3連続ヘアピンカーブ!」
「さんれんぞっ……!? うええっ!?」
「失恋ドリフト×トリプルスコアアアアァァァ!!」
ギャギャギャギャッ!! ギャギャギャギャッ!! ギャギャギャギャッ!!
「いいいいぃぃぃぃぃっ!?」
「おー、すごい、滑ってる滑ってる」
「なんでそんな落ち着いてるのよ高橋君!?」
「なんでかって? それはな」
ふ……と笑って俺は答えた。
「覚悟してるからだ」
「私より先に死に急いでんじゃないわよ!」
はっ、それは確かに!
「かーくん死んじゃうの!? 嫌だ! 死なないで!!」
「貴方が原因でしょうが!」
珍しく七瀬がツッコミ役だ。
その時、俺の胸の奥底から正体不明の感情が湧き出てきた。
「くっ……はははっ」
「な、なに? ついにおかしくなっちゃったの?」
「いや、うん……そうかもしれない」
人間は自分の脳の処理を超えた状況に直面すると笑ってしまうらしい。
今の俺がその状況だった。
本当に、カオスがすぎる。
昨日まで俺は、東京の進学校に通う真面目な高校生だった。
それが今やどうだ。身投げをしようとしていた学年一の美少女と、ハタチのギャルJKとメルヘンな痛車に乗り込み静岡の峠を攻めている。
瑠花さんがドリフトをかますたびに沸き起こるアドレナリン。
自分の意思と関係なく事故ったらお陀仏というこの状況が、スリルと非日常感を提供してくれていた。
要するに、ハイになっていた!
「いっけぇ瑠花さん! 豆腐屋のスカイラインに負けるな!」
「任せてかーくん! 慣性ドリフトオオオォォォ!!」
「いい加減にしなさいよおおおおぉぉああああああ!!」
ギャギャギャギャッ!!
ネジが飛んだ俺の歓声、七瀬の悲鳴、瑠花さんのはっひゃーを乗せて、ふわふわパンケーキ号は峠を攻略していった。
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