第6話 日課の切り抜き動画編集

「さて、やるか」


 家出をして環境が変わったとはいえ、ルーティンを崩すわけにはいけない。

 

 ビジネスホテルのシングルルーム。

 家から持ってきたノートPCを起動し、ブラウザを開いた。  


 とあるヨーチューバーのチャンネル──『よしよしヨッシー』クリックする。


『よしよしヨッシー』とは、『リスナーを褒める!』がコンセプトで、生放送中に来た質問全てにポジティブな回答をするヨーチューバーだ。


 早速、最新動画を開く。


『生きてるだけで偉い! どーも! よしよしヨッシーのヨッシーです!』


 元気な挨拶と共に動画が始まる。


『じゃあ今日も質問読み上げていきます! えー、僕は子供の頃から要領が悪く、親には馬鹿が低脳がと蔑まれ、中学高校も成績ビリで教師に怒鳴られ続け、社会人になっても周りから無能と罵れ続けています。この前はコピー機とシュレッダーを間違え大事な書類を千切りにしてしまいました。こんな無能は生きていても仕方がないですよね? ううん、生きてるだけで偉い! 大丈夫! 世界に無能なんていない、誰しも何かしら秀でているものがあるよ! 質問者さんは今、自分の才能が活かせる場所にいないだけ! 今は疲れちゃってるだろうから少しお休みして、元気になったら環境を変えてみるのも良いと思うよ!』


 とまあこんな感じにひたすら褒めてくれるチャンネルだ。


 何かとストレスの多い昨今、どんな質問をしても元気に肯定してくれる配信スタイルは需要があったようで、登録者数は現在100万人を超えている。


 そんなヨッシーさんのチャンネルは、俺の今回の旅費の出所でもあった。


 ヨーチューバーでは再生数に応じて広告収益が入る。


 ヨッシーさんの動画をダウンロードし、編集して、自分のチャンネルに再投稿するという形で収益を稼いでいるのだ。


「……絶対、こっちの方面に進んだ方が成功するだろ」


 ヨッシーさんの動画を編集しながら、呟く。


 数時間前に勃発した親との喧嘩を思い出し、キーボードを叩く音が大きくなった。


「……よし、完了、っと」


 今日の分を投稿し、明日分も予約投稿し終えてからPCを閉じる。


 気がつくと、そのまま寝てしまっていた。


 どうやら、随分と疲労が溜まっていたようだ。

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