第28話  フリーマンはベルン村に帰る

 リヨンは、にわとりが鳴く声で目を覚ました。窓の外を見ると、すっかり太陽が高くなっている。驚いたリヨンはベッドから起き上がった。昨夜、夕ご飯を食べてからひと休み、そのまま眠ってしまったらしい。


 体をふいて、新しい服に着替えるリヨン。外でヤギの乳をしぼって帰宅。ベッドの横を見るとセレナはぐっすり熟睡中。仕方がないので暖炉に火をつけて暖める。

「しばらく寝かしといてやるか」


 リヨンは朝食の準備にかかった。チーズをナイフで切り取って串に刺し、鍋にヤギのミルクを注いで温める。鍋を暖める火がチーズをトロトロに溶かしていった。


 三人分の皿とコップを並べた後、ナイフで固いパンを切り分けて上にチーズを載せる。暖炉から引き上げた鍋からコップにミルクを注ぎ入れて朝食の準備を終えた。


 リヨンはベッドで熟睡中のセレナを優しく起こす。

「もう朝だよ」

「う~ん。あと五分だけ…… 」

「ご飯ができたよ」

「分かったよ。起きるから」

 セレナはもぞもぞと動いて体を起こした。そして眠そうに目をこする。

「おはよう、あなた」


 セレナはリヨンの顔を見ると笑顔になる。その姿を見てリヨンはあきれた顔になった。リヨンは大きな ため息をつく。

「目が覚める前にミルクが冷めるよ」


 ようやく席についたセレナはパンにかじりついた。口から伸びるチーズが面白い。リヨンはミルクを飲み干して、席をたった。

「今日は式典にいく日だろ」

「ベルン柵の? 」

「そうだ。昨日、伝書鳩が来ただろう」

「そうじゃった。着替えなければ」



 二人はアウィスにまたがって旧ベルン村に向かった。リヨンは赤い服に青いズボン、セレナは露出の少ない服を着ている。


 ベルン柵は周囲に堀を張り巡らした小さなモッテである。堀の上に土塁には人間ほどの高さがある柵があり、見張り櫓も建てている。


 ベルン柵には川を利用した天然の堀がある。そこに架けられた小さな橋を渡ると兵士がいた。

「リヨン村長ですね。辺境伯が待っておいでです」

「戦争中だからか。警備が厳しいね」


 ベルン村があった場所は周囲に柵を張り巡す要塞になっていた。わら葺きの家は修理され、人が住めるようになっていた。

 リヨンはアウィスを門番に預け、式典会場に向かった。初老の男性が二人に声をかける。

「これはリヨン村長。辺境伯が首を長くしてお待ちです」

「戦争中にすまない。辺境伯に来たと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 式典会場には騎乗した兵が並ぶ。その数は数十人程度。いずれも銀色に輝くチェーンメイルを身につけ、壮健な印象を感じさせる。


 ささやかな式典はすでに中盤を向かえていた。騎士に任命されたばかりの若者が声をそろえて決起の言葉を述べ、辺境伯がそれに答える。

「我々は我々の領土を守り抜く」

「戦争での活躍に期待してるぞ。シュタルク騎士団の若き騎士よ」と辺境伯が答えた。


 若い騎士が槍を斜めに傾けて道を作る。ローランド辺境伯は片手をあげながら、この地に配属された二十人の新人騎士を見回した。

「諸君ら、二十名の活躍に期待している。必ず敵を滅ぼせ」


 式典のあと、リヨンと辺境伯はわら葺きの家で立ち話を行った。

「もし、ベルン村への帰参を希望しているものがいれば知らせてほしい」

「わかりました。移住者に聞きましょう」

ていのいい相談だがわかってほしい。ベルン柵を守るためには村民を集める必要がある」




 リヨンとセレナは門番からアウィスを受け取って、帰路に着いた。橋を渡って、道を走るとそこはノワール村だ。

「村に着いたぞ。セレナ」

「話し合いが始まるね」

「さて、どれだけの人が帰るかな?」


 さっそく、ベルン村から来た移住者を集めて会議を開く。会議には九人いる大人の村人が出席し、村に残るかを決めた。

「フリーマン・フリーモントはベルン村に戻るぜ」

「ロザリーもベルン村に帰ります」

「フリーマン 俺は友の意思を尊重する」


 男二人が帰還する決意を示した。フリーマンとロザリーも村を離れるようだ。

「この村は人が少ない。俺は人がいる場所に戻りたいんだ。エルフ好きの村長には関わりきれん」

「私は肥沃な大地を耕して開拓したい。フリーマンに着いてくわ」


 リヨンは声を張り上げて触れ回った。

「他に村から離れたいやつはいるか? 答えてくれ!」


 一番に口を開いたのは羊飼いのジョンだった。

「私は羊の世話があるから村に残る。冬の時期に引っ越しはしたくない」

「わかった。ジョン」

「カーペンターも残ります。村の発展を見届けたいので」

「残っていただけますか。感謝します」

「俺も残るぜ」

「ブレイさん……」


 ターナーが手を上げた。

「私は家族と村に残ります。私は開拓した土地を失いたくない」

「ターナー、俺がこの村で切り開いた土地をやろう。村長、土地の譲渡は認められるのか? 」

「認められる。保有地移転料を払えば問題ないよ」

「銀貨何枚になる? 」

「デニエ銀貨二枚か、リュート銀貨二十一枚」


 フリーマンはリヨンの手にデニエ銀貨を納めた。

「確かに。これであなたの土地はターナーに譲渡されました」


 リヨンはターナーに頭を下げて握手を求めた。

「では、正式にターナーを副村長に任命します。今後ともよろしく」

「村長。今後を話し合って決めましょう」

「ああ、君を全面的に信頼しているから」


 村には十一人の村人が残った。

 セレナとリヨン、ターナー夫妻とカインとアベル、

 羊飼いのジョン、大工のカーペンターとその息子ドミニコ、ご老人フィリポ、冒険者ブレイだ。

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