衣食住を確保しよう

第7話 新しい家を作ろう

 九月を迎えた朝、リヨンは畑の草を軽く刈りました。畑作業には草刈りが欠かせません。

 今日は開拓小屋の仕上げに取りかかる予定。既に小屋の骨組みはできており、今日は屋根にわらをのせるだけです。

「仕事に取りかかろう。ディオとアーテルとセピアは来てくれ」


 干し草を積み上げる作業と同じ要領ようりょうで軒下から麦わらを載せていきます。わらの量が少ないので屋根のかさは薄いのですが。素人作業なので耐久性はよくありません。


 リヨンは茶色いバスケットから五個の黒パンとエールを取り出しました。

「みんな! 飯にしよう」

「リヨンさん。これじゃ足りないな。肉はないかな? 」

「アーテル。狩りに出るまで我慢がまんして下さい。明日には肉が食べられますよ」


 午後からは家の壁を作りに行きました。麦わらを混ぜた土に井戸の水を加えて、泥をこねます。石を積み上げて泥を重ね、またその上に石を並べました。

「リヨンさん。寒い冬でも快適に過ごせそうですね」

「アーテルさん。火を付ければあったかいでしょうね」


 男三人がズボン姿で泥を塗る光景はきっと面白いのでしょう。端から見れば滑稽でしょうね。上半身裸の野郎が泥を塗っているのだから。


 リヨンは集めた小枝に火をつけました。家の内部を温め、泥を乾かします。

土壁を乾かしている間に三人は体を洗いました。井戸からくみ出した水で泥を洗い流し、ぼろ布で体をふき上げています。



 暗くなってきたのでリヨンたちは家に帰りました。日は傾きかけており、気温も下がっています。

 家に帰ると楽しい夕食が待っていますよ。彼らに取っては食事だけが唯一の息抜き。娯楽のない田舎での楽しみでした。

「セレナ。帰ったぞ」


 家に帰ると、食卓には見慣れない三人の顔がいました。彼らはダークエルフだと言いますが。戦士や弓使い《アーチャ》ではないようです。

 アーテルが驚きの声をあげます。無理もありません。散り散りになった仲間と再会したのですから。

「ネスタとプレオじゃないか? 」

「アーテルさま。よくぞご無事で」


 村に逃げてきたのはプレオ兄弟。彼らは大工のようです。さっそく、明日から家作りにはげんでもらいましょう。ネスタは漆喰ぬりでは大いに腕を振るようでしは。


 ネスタは村に来るまでの経緯けいいを語り出しました。東の村から逃げ出した所までは順調でしたが。騎士の追撃にあって仲間が次々に脱落。

 二人の戦士が逃げる時間を稼ぐために討ち死したと、ネスタは涙ながらに語ります。


 ネスタは手元に視線を落としました。明らかに悲しみに打ちひしがれています。アーテルはネスタを慰めました。

「仲間を救えなかった。仲間が大勢おったのに。知らないふりして逃げた」

「ネスタのせいではない。責任は俺にある。俺が警備に力を入れていれば防げたことだ」

「力があれば救えた。悔しい」

「必ず集落を作り直すと約束する。ダークエルフの手で…… 」


 リヨンは外の天幕テントにプレオ兄弟を案内します。手狭な平屋には寝る場所がなく、今はテントに泊まってもらう方法しかありません。

「兄貴。住む場所があってよかったな」

「弟よ。休めるときに休め」


 これで村の住民は十人になりました。ダークエルフが八人もいます。もはや"普通の開拓村です"と大っぴらには言えません。かなり特殊な村になりました。


 リヨンはリビングの人影に声をかけます。石造りのかまどの前にいたのはセレナでした。

「今日のご飯は? 」

「今日のご飯は"ドワーフの小腹満たし"」

「懐かしいな。肉団子はアトレーがよく作ってくれた」

「ドワーフのミートローフも食べたい。肉厚でジューシーだったね」

「僕も手伝うよ」


 セレナはボウルにちぎったライ麦パンに卵を加えてかき混ぜました。ペースト状になるまで何回も力をいれてかき混ぜます。

 リヨンは丸いフライパンに刻んだ玉ねぎを加え、こしょうで味付けしてから、きつね色になるまで焼きました。


 鹿肉のひき肉とペーストを混ぜ合わせ、さらに炒めた玉ねぎを加えます。塩とこしょうを加えて更なる粘りを出しましょう。

熱した鉄製のフライパンに肉団子を焼いていきます。ダークエルフの腹を満たすには数が足りませんが。


 鉄製のフライパンにちぎったライ麦パンを加えて肉汁と絡み合わせす。本当はブイヨンソースを入れたいが農村にそんなものはありませんので。肉汁が漂うグレイビーソースで代用します。

「僕が持っていくよ」

「まかせる」


 ダークエルフは村人というより食客ですね。彼らが食う飯の量は半端じゃありませんよ。葡萄酒とエールも浴びるほどに飲み゙ますし。


 リヨンは十個の肉団子をテーブルに持っていきました。肉団子が一瞬でなくなったのでフライパンに追加します。このフライパンは一度に肉団子を十個が焼ける優れものです。


 結局、三十個の肉団子を提供しました。ダークエルフの旺盛おうせいすぎる食欲に食料事情がまったく追い付いていないません。

「もう終わりか? リヨン」

「はい…… セピアさん」


 男のダークエルフたちはテントに帰っていきました。食べるだけ食い散らかして。片付けもせずに。

女性のアストラとストラーダは左の寝室に向かいました。

 女は安全な自宅で寝させようと、セレナが言い出しました。


 リヨンは食卓に置かれた食器を片付け、食器を洗いました。食卓に置いたろうそくを手に持って右の寝室に向かいます。

 明日も早いと言いながら、セレナとリヨンは右の寝室に入りました。二人はわらのベットに入って「お休み」を言い合います。



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