第36話 真っ直ぐにはっきりと*レックス視点


 惚れ薬事件があった昨夜、気付いたらいつのまにか屋敷に帰っていた。何度もあの時のセリフを思い返しては、カァッと頬が熱くなる。

 誰かのことをここまで考えるのも、誰かを思ってニヤけてしまうのもこれが初めてだ。

 好意を寄せられることは何度かあったけど、こんなにも嬉しく思えたのは初めてだった。


 あー、アレクサンドラ嬢が愛しい‥。侍女の目がなければ間違いなく抱きしめてたと思う。でも抱き締めてたら歯止めが効かなくなって、何してたかわからない。

 だってあんなに強気な態度で俺に詰め寄って、自爆してるんだよ?悶えないわけがないでしょ。なんなのあの可愛い生命体。


 婚約の解消は無事に済んだし、王家ともノーランド家とも手続きが終わり次第2組とも婚約を結ぶことが決まった。マティアス殿下も誠心誠意消費者救済関連の法整備に取り掛かってくれている(未来の奥さんの為にも)。


 俺はノーランド侯爵に婚約のことはまだアレクサンドラ嬢に告げないでほしいとお願いしていた。どうせなら少しでも振り向かせてから伝えたかったから。彼女的にはほら、つい最近まで姉と婚約してたのに速攻で私と婚約するんですか?!っていう話にもなるし。

 だけどアレクサンドラ嬢も同じ気持ちを抱いてくれていたなら話は別だ。恋愛に関しては相当不器用だってことは分かったけど、次会う時には婚約のことも伝えて抱き締めたいな。


 いまアレクサンドラ嬢はどんな気持ちでいるんだろう。恥ずかしがっているかな‥当然か。でも想いが通じ合ったわけだし‥‥‥って、あれ?‥‥俺、そういえば悶えすぎて‥すごく素っ気なく帰ってきてしまったような‥‥


 俺はアレクサンドラ嬢とお互いが惹かれていたと分かったけど‥アレクサンドラ嬢からすればただただ自爆しただけなんじゃ‥


 まぁ、近いうちに会いに行った時にしっかり話をすれば‥‥‥いや、あんな自爆をするほどに恋愛下手な彼女のことだ。会わない間に思いを変に拗らせてしまう可能性もある。‥‥今から行こう、うん。


 ニタニタしながら仕事をしていたけど、段々焦ってきた。仕事もひと段落したし‥‥


「‥‥レックス様?どちらへ?」


「‥ノーランド家に」


「え‥‥今からですか?」


「ああ。すぐ戻る、たぶん」


 ブライはぶつぶつ言いながら付いてきた。ノーランド家に着くと、使用人たちは少し驚いた様子を見せていたけど、応接間に通してくれた。ここ最近しょっちゅう来てるから顔馴染みの使用人も増えてきたなぁ。


 アレクサンドラ嬢はもしかしたら来てくれないかもしれない。彼女は俺の気持ちを知らないから、ただ恥ずかしい思いをしただけだ。悶えてたからといって悪いことをしたと思う。


 暫く待っていると、アレクサンドラ嬢が来てくれた。今日は会えないかもと思っていたから少し安堵する。


 扇子で顔半分を覆いながら、睨みつけるような目で俺を見ている。そんな顔も可愛いと思ってしまうから、恋って怖い。


「アレクサンドラ嬢‥」


「‥‥言っておきますが!!昨日のことは忘れてくださいませ!!」


 ビシッと言われた。これを言いたかったから会ってくれたのかもしれないな。


「忘れないよ」


「なっ!!何故ですか!もう貴方はノーランド家と関わりがなくなるんですから、私のことを記憶から抹消して、昨日のことも忘れてください!!」


「やだよ。そんな寂しいこと言わないで」


 アレクサンドラ嬢が唸っている。どうすれば俺が首を縦に振るか考えているみたい。


「‥‥‥私みたいな傲慢な女を馬鹿にできるいいネタですもんね」


 あちゃー、考えが拗れてるよ!アレクサンドラ嬢!


「アレクサンドラ嬢は傲慢なんかじゃないよ。君は照れ隠しでツンツンするだけで、思い上がったりしてないよ。純粋で真っ直ぐで健気だし、誰よりも優しいじゃん」


「なっ!!!」


 アレクサンドラ嬢は驚いたように目を見開いた。俺の口から出てきた言葉を理解できていないみたい。


「そんな君を馬鹿にするわけないだろ」


「う、嘘ですわ‥!コイントスだって、噂の件だって、私を馬鹿にしてましたもの!」


「違うよ。アレクサンドラ嬢の反応が可愛いから弄りたくなるだけだって」


「か、かわ、かわ‥?!」


「うん。可愛い」


「‥‥‥は」


 アレクサンドラ嬢のボンっと一気に顔が真っ赤になった。可愛い。


「ねぇ、アレクサンドラ嬢」


「‥‥‥‥わ、私は信じませんからね!そんな言葉!!」


「ねぇってば」


「‥‥っ、なんですの?!」


「好きだよ」


「!!!!!!」



 アレクサンドラ嬢のふわふわの髪がバッ!!と広がったように見えた。うん、既視感がある。いちいちこんな反応されてたら身がもたないよ‥。昨日は不意打ちを食らったから死にかけたけど、今日は大丈夫。

 俺の気持ちをしっかり分かってもらって、存分に悶えてもらわないと。


「聞こえた?」


「っ‥、げ、幻聴が聞こえたかもしれませんわね」


「そうなの?じゃあもう一回言うね?」


「いや!いいです!言わなーーー」


「好きだよ」


「~~~っっっ!!!」


「あはは、可愛い」

 

「も、もうやめて下さーー」


「可愛い、好き」


「~~~っっ!」



 アレクサンドラ嬢の目がぐるぐると回ってる。

どうやらちゃんと伝わったみたいだね。アレクサンドラ嬢、暴走しそうだからなぁ。また勝手に拗れそうだからね。分かりやすく伝えてあげよう、うん。


 無事に身悶えしてくれてるから、仕事に戻るとするかな。

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