第24話 初めての姉妹喧嘩ですわ
ここ数日、アンナが随分と懐いた気がします。たぶん私の行動の意味が読めてきたようです。ジュリアに意地悪をしているのではなく、全てノーランド家を守る為の行動なのだと!!
噂を流すよう命じた時にはむしろ引いておりましたわ。でも、私に対する視線は随分と柔らかくなった気が致します。
ドアがノックされ、ジュリアが部屋に入ってきました。
「どうしましたの、お姉様」
「ひ、人払いを‥」
あらま珍しい。まぁ十中八九、あの噂についてね。私が目配せをすると侍女たちが部屋から出て行きました。
「噂をお聞きになったんですの?」
「う、うん!!」
ジュリアが少し興奮しています。怒っているのではなく、人の恋のお話を前のめりで聞きたがっているような、そんな雰囲気です。
「あれは出任せ、誰かが流したくだらない噂ですわ」
私がそうキッパリ言い切れば、ジュリアはレックス様の道も断たなくて済むってわけよ。世間的には私の介入でジュリアが揺れ動くことになったと思わせて、ジュリアは流されるのではなく自身で選べるというわけですわ!我ながら良い考えですわね。
「う、うそつかないで‥」
「え?」
「ア、アリーは、その、いつかレックス様を好きになると、思ってたの」
「は、はああああ?!」
あらやだ、大声が出てしまいましたわ!
「だ、だって!ジョンの時と同じだった‥!レックス様ちょっと、ジョンにも似てるもん‥!」
「ま、待ってくださいお姉様!どうしてそうなるんですの?!ジョンとレックス様は毛程も似ていませんし、私は本当にレックス様を好いておりませんわ!!むしろ興味もございません!!」
社交パーティーの時のレックス様が頭をよぎった。ポンっと頭に置かれた手を思い返せば顔から火が吹き出しそうになるし、額の咬み傷を思えば早く治ってほしいと祈りたくなる。
だけどそれは、それ程あの日の出来事が衝撃的だったからに決まっているわ。きっとこんな風に頭をよぎるのは人生で今だけ。一瞬の筈よ。
「‥‥この前、社交パーティーの時‥レックス様に顔真っ赤にして、ツンツンして、ありがとうしてたもん」
「な、な、なんですのその言い回し!!何が言いたいのかわかりませんわ!!もし嫉妬しているなら、本当に勘違いですわ!!私には特別な感情などありませんもの!!」
「‥‥嫉妬してるよ」
「えっ!!いや、だから、本当に!!」
「‥‥レックス様に嫉妬してる‥。ずるい‥アリー、あの時可愛い顔してたもん‥‥ずるい」
「は、はああああ?!」
誰かこのお花畑を連れて行って!!って、人払いしてるんだったわ!!もう何を言っているのかわからないわ!!ジュリアって宇宙人だったのかしら!!
ジュリアは負けるもんですかとでも言いたげに、ムッス~と口を尖らせています。‥‥いや、もう‥なんでしょう。噛み合っていませんわ‥。
「ア、アリーは、自分で気付いてないだけ‥。鈍感‥!」
ジュリアがムッとしたままそう文句を言いました。レアです。非常にレアです。というか人生初めてです。
言っておくけど貴女の方が鈍感だからね?!?!?!
「ノロマなお姉様に言われたくありません。お姉様よりも気付きも早いですし、物事を察する力もありますわ!」
「‥わかってる。でも、自分のことには気付いてないもん‥‥アリー、いつだって、わたし優先だもん‥だから、気付けないんだよ、自分の気持ち‥」
カァァッと頬が赤くなったのがわかりました。
ここまで言い合うのは、本当に初めてのことです。いつもは私がキツい態度を取ればそれで終わりでした。なのに今日はジュリアが何故か食い付いています。
「お姉様優先ですって?!何を言ってるのか分からないわ!!自惚れないでくださいっ!!!」
「‥‥‥」
いつもだったら、ここで眉を下げて肩をビクッとしている筈なのに。どうして不服そうに唇を窄ませたままなのよ!
「‥‥出て行ってください。少し冷静になりましょ、お互い」
ジュリアはムッとしたまま出て行った。これあれかしら、以前アンナが言っていた“丸一日会話してくれない“という静かな怒りに突入するかしら。
でも、もう何で言い争ってるか分からなくなったわ‥。
自分の気持ちに気付けていない‥?そんなことないわよ!‥‥‥自分の気持ち??‥‥‥ノーランド家の為に!と奮闘してきた毎日。ジュリアの尻拭いをしてきた毎日。‥‥‥‥自分の、気持ち‥‥?
あらやだ。‥‥‥思いつかないわ‥‥。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます