第22話 真夜中の密談


 その日の夜、私は就寝前に自室で項垂れていました。

外は私の心情を表しているのか、雨が降っています。


「ライラ‥その話は本当なの‥?」


 私の部屋に来たライラが、お猿のジョーダンが暴れていた時の舞台裏を教えてくれました。


「ええ、その‥マティアス殿下がジュリア様の手を取り、2人は手を繋ぎながら時折笑顔を交わして走っておられました」


「‥‥目撃者は」


「あの場には人が割といましたので、その‥早ければもう噂として出回っている可能性もあります‥」


 私は両手で顔面を隠しました。窓の外では私の動きに合わせたかのように雷が光っています。


 レックス様という婚約者がいるのに‥マティアス殿下と手を繋いで走り回った‥‥って、ジュリアのことだから多分なにも深く考えていないんでしょうけど。マティアス殿下、たぶんジュリアに気があるわね‥。その上結構強引そうだったから、ジュリアが断るタイミングもなかったんでしょうね。


 ‥マティアス殿下の噂を聞いたことがある‥。この国の王族は他の貴族たちよりも更に婚約を結ぶのが早いけど、マティアス殿下は何がなんでも首を縦に振らなかったと。


 その理由は、俺は絶対に運命の人と結婚するんだ!!と譲らなかったからだそうで‥‥もし昨日ジュリアが運命の人認定されてしまったのなら、これは非常にまずい展開なのよね‥‥‥。


 どこぞの悪役令嬢が婚約破棄をしたり、婚約破棄をされた被害者側が罪をなすりつけられたりと酷い話もたまに聞くけど‥‥もし、マティアス殿下の運命の人がジュリアで、強引にジュリアを奪われてしまったら‥。


 巷ではジュリアは完全に悪女扱いになるわね。男に媚びてるとか、二股かけてるとか、そんな噂が流れるに違いないわ。だってマティアス殿下もレックス様も無駄に顔が良すぎるのよ!世の女性たちをうっとりさせている殿方を相手にしたうえで、公爵家嫡男を捨てて殿下を選んだなんて思われたら、どれだけ非難の声を浴びるか‥‥!‥って、違うわよ。ジュリアの心配じゃないわ。そんなわけないじゃない。ジュリアはどうせぽわぽわしていて世間の声なんて聞こえていないんだから。


 マティアス殿下の方が公爵家より立場も上。マティアス殿下が強引に動いてしまえば、レックス様との婚約は簡単に破棄されてしまうでしょう。でもいくらマティアス殿下が強引に事を動かしたとしても、非難を浴びるのはマティアス殿下じゃなくジュリア‥‥。‥‥何度も言うけど、心配なんてしていないわよ?


 マティアス殿下かレックス様、どちらがジュリアに似合っているかなんて現段階では分からない。でも昨日マティアス殿下と一緒にいるジュリアは、緊張している雰囲気もあまり感じられなかった。女は愛される方が幸せだとも言うし、ロマンチストなマティアス様が盛大にジュリアを愛して甘やかしてくれるなら、ジュリアも幸せなことでしょう。

 でも、ジュリアはレックス様の婚約者。ことは簡単ではないのです‥。まぁレックス様は胡散臭いですしマティアス様の方が性格の裏表もなさそうですが。

 まぁ今日はその‥レックス様に助けてもらいましたけど。今日だけは感謝しますわ。今日だけは。


 とにかく、このままマティアス殿下とジュリアの手繋ぎ走りの様子が広まるのは良くないですわ。


「スーザン、ライラ、アンナ。お願いがあるんだけどーーーー」


 侍女たちは皆、思わず口を押さえるほどに驚いた後、非常に怪訝な顔をしていました。スーザンだけはこの流れが読めていたのか終始無表情でしたけど。でも仕方ないでしょ。この状況を覆すにはこれしかないのよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る