第20話 海賊の掟
第八話
海賊の掟
白いガレオン船は、こう思ったのだ。
「何故、イリーゼは私を見て『レプリカかもしれない』と言ったのだろうか?」
しばらく考えて、思った、
「イリーゼが、私のマストに書いた落書きを見たのに」と。
そして、私は、少し不機嫌な気分で、日々を過ごしていた。
***
同性愛者を船に受け入れるか?
同性愛は、カトリックでは、厳しく禁止されている。
カトリック至上主義のスペインでは、処刑されるので、このネーデルラント連邦共和国まで、逃げて来たということらしい。
だが、行く宛もなく、船に乗りたいとのことだ。
二人が、切羽詰まっているのは、わかった。
しかし、私の一存で決めて良いものか?
「すまないが、時間が欲しい。中で待っていてくれ」と言い、待ってもらう事にした。
まずは、イリーゼに相談する。
「もう、ミーナの船なんだから、貴女の基準で進めた方が今後のため」と言われた。
「では、他の者の意見を聞きます」と言い、クリスティアーネとアンナとアガーテの意見を聞くことにした。
やはり、カトリック信者は反対するのだろうか?
まずはクリスティアーネが、
「私は、ミーナちゃんが良ければ、全て良しだわ」
続いて、
「私も同じです。構わないです」とアガーテ。
「すみません。まったく、関心がありません」と言ったのはアンナだった。
意外にもあっさりとしていたのに、驚いた。
なら、仲間にするか!
ということで、二人を呼んだ。
「まずは、名前を教えてちょうだいな」
「はい、フェリル港の食堂で働いておりました。アナです」
「同じくヘマです」
「これから、イングランドに行くことになるけど、大丈夫かしら?」
「はい、イングランドはプロテスタントですから」
そう、イングランドとネーデルラントはプロテスタントつながりで、ユトレヒト条約の同盟国なのだ。
スペインの敵は味方と言うところから、同盟国となったと言えば良いだろうか?
このユトレヒト条約とは、プロテスタント国がスペイン等のカトリック国に対する反体制なのだが、本音は反ハプスブルク体制と言ったところだな。
特に、イングランドとスペインの対立は、凄まじかった。
エリザベス女王を「イングランド君主と認めない」と、フランスとスペインが言い、さらに「カトリック教徒であるスコットランド女王のメアリーこそが正当なイングランドの君主だ」と言い出したのだ。
エリザベス女王は、これに激怒し、フランスには、即撤回をさせた。
しかし、スペインは徹底抗戦し、英西戦争へと繋がる。
この時、イングランドとネーデルラントは共にスペインと戦った仲なのだ。
ちなみに、イングランドがプロテスタントなのは、ヘンリー八世が一夫一婦制を守れない助平野郎だったので、カトリックはダメというところから発している。
この国も、なんだかなぁ……
しかし、アナとヘマを見ると、まったく普通に見える。
重罪人には見えない。
宗教とは違う価値観が、私達には必要なのではないたろうか?
そう、我々だけのルールや掟が。
さて、新しい武器を求めて、ドーバーへ行くことになる。
船員はアインス商会から、人手を借りることになった。
というより、アインス商会の船として、動くことになっている。
また、旗を掲げず捕まるわけにはいかないのでね。
さて、ドック明けの試運転を行う事となった。
積荷を積み終え、タラップを上げれば、もう出港だ。
だが、まだまだ私たちは不慣れだったのだろう、タラップを上げる前に錨を上げてしまった。
アンナが、
「アガーテ、まだ早いわよ」
その時、物陰に隠れていた一人の女が、突如、タラップ目掛け走り出した。
!?
すると、数人の男たちが、その女目掛けて走り出した。
どうやら、取り押さえようとしているようだ。
女は、「お助けください。お願いです」と言い、タラップを登ろうとしている。
タラップをこのままにして置いたら、女は昇ってくる。
しかし、切ったりしたら、落っこちて突堤に叩きつけられてしまう。
場合によっては、死んでしまうだろう。
死ななくても、男たちに捕まる。
犯罪者か?
或いは、逃げ出した奉公人か?
私は、咄嗟に判断が出来なかった。
すると、女が甲板まで登ってきて、しきりに頭を下げるのだ。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」と。
助けるとは、言っていないのだが、感謝されると、カッコをつけたいではないか。
男達が登り切る前に、タラップを海に捨てることにした。
そして、我らの白い船は、ベール運河を抜けて、近海へと出港した。
だか、この事が、後日、問題になろうとは、予想だにしていない私だった。
次回の女海賊団は、ジプシー・アンです。
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