第16話 投降

第四話

投降



 ここは、ネーデルラント連邦共和国。※1


 鎖国時代の日本が、長崎の出島で貿易をしていたオランダとは、この国だ。


 オランダとは、ネーデルラントの北7州を指し、南は、今のベルギーとなる。


 この国は、スペインハプスブルク家と八十年に及ぶ独立戦争を行なった国なのだ。

 そして、独立の主な原因は宗教である。


 カトリックしか認めないスペインでは、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教の信仰は死刑なのだ。


 問答言わず死刑なのだ。


 この北ネーデルラントはプロテスタントを信仰する国なのである。


 そして、スペイン本国のプロテスタント信者やユダヤ教信者達は、スペインを捨て、このネーデルラント連邦共和国等に逃げていたのだった。※2


 スペインは、結果、アムステルダムやロッテルダムといった巨大港湾都市を失い、経済力低下と人材不足に陥ることになっていった。

 特に財政面では……

 そう、世界のカネは、ユダヤ人が運ぶのだから……



***



「旗を掲げていない船が、街に突っ込んできただと?」

「はい、スペインの報復かもしれません。武装船です。街中で発砲されたら」

「出せる警備隊は、全て出せ」

「了解ッ」

「スクランブルだ」



 街中に鐘がなる。

 カンカンカンカン!



「お嬢様、これは」

「うっ、これは大事になってしまった」


 その頃、アガーテは頭を抱えたままだし、クリスティアーネは、また、川の魚に餌を与えていた。

 例えるなら、胃から、酸っぱいニオイのする、マッシュポテトを取り出してだな(笑)



 すると、多数のボートが近付いてきた。

 どう見ても警備隊だな。

 どうしたものか?


「そこの武装船。停船せよ。停船せよ」


「アンナ、逆らって刺激するのは良くない。停船しましょう」

「はい」


 私は、隊長らしき男に手を振り、『承諾した』と合図した。


「えっ、隊長殿。女です。しかも令嬢では?」

 ざわつく警備隊員。


 警備隊員が甲板に登ってきた!


「船長と話がしたい」と隊長が言ってきた。


 誰が船長なのだ?

 私か?

 アンナか?

 アンナは航海長だろう。


「ワタクシでございます」と回答すると、警備隊員が戦闘モードになった。


 なぜ?


「怪しい女だ!」


 おい、なんでだよ。私は正真正銘の伯爵令嬢だよ。


「どういうことでしょうか? 怪しいとは」

「ご令嬢の姿をしてはいるが、ドレスに帯剣などおかしいではないか」


 そうなのだ。

 先の戦闘で、ドレスやメイド服の上から武装したままであった。


「他に船員は?」

「この四人だけですわ」

「四人だけで、船が動かせるか!」

「そうだ。最低でも50人。戦闘をするなら100人は必要だぞ」


「ワタクシたちは、戦闘をしに来たのでは、ございません。あくまでも保養のための遊覧でございますわ」


 警備隊員が、ざわめく。

 武装船で遊覧ときたものだから。


「念の為、船内は見せてもらう。賊が隠れていないとは言えないからな」

「かしこまりましたわ。アガーテ! ご案内して」

 と、アガーテに案内役をさせた。


 そして、隊長が言うには、

「古いが武器が多数ある。売りさばくには、それなりの許可証が必要だ。

 売るのでなく持込みになると、敵対行為と見られても……」と、説明をしている最中に、クリスティアーネがやってしまった。


「ウゥゥ、○○○○」


 ご令嬢にあるまじき……

 いや、川の魚に餌を与えてしまったようだ。


 警備隊も『見てはいけないものを見た』という顔をしている。


「彼女は魚に餌を与えたのですわ。ロッテルダムでも魚は頂けるのでして?」

「ええ、川も海もありますので、魚料理は、事欠きませんよ。お嬢様方」

「それは、おほほ」


 すると、酸味の効いたニオイのするクリスティアーネから、警備隊員は、少しずつ離れていった。

 あぁ、嫁入り前のクリスちぃが……


「お嬢様の体調も良くないようだ。船を着けて陸で話を聞きましょう」


 おぉ、クリスちぃ!

 船から降りれるぞ。良かったな!

 もう、マッシュポテトは不要だ!


 その時、アガーテが、また、目を見開いていた。

「父上、兄上ぇ」


 次回の女海賊団は、オーナーは誰か? 言えないの?



※1 オランダ独立戦争、1568年から1609年。

 しかし、ネーデルラント連邦共和国の正式な独立承認はウェストファリア条約締結の1648年。


※2 南ネーデルラントは、カトリック教徒が多いので、スペインやフランスと結び付きが強い。

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