2話「お祖父様と幼馴染」


私の十六歳を祝うパーティーは、王都にある公爵家の屋敷で行われた。


公爵家と繋がりのある貴族を大勢招待した。


パーティーの開催時刻より大分早くお祖父様の馬車が到着した。


お祖父様の馬車には、なぜか私の幼馴染のルード様も乗っていらした。


「誕生日おめでとう、ビアンカ」


「ありがとうございます、お祖父様」


お祖父様は公爵家の当主で、背が高く、ロマンスグレーの髪に同色のあごひげがよく似合う紳士だ。


「今回の試験も首席だったようだな、ビアンカの祖父として鼻が高いよ」


「家庭教師が優秀だからですわ」


お祖父様の隣に立つ天色あまいろ(晴天の澄んだ空のような鮮やかな空色)の髪に瑠璃色るりいろ瞳の青年をチラリと見る。


「誕生日おめでとうビアンカ。君が試験で一番になれたのは君が努力家だからだよ」


ルード・ブルーノ、彼はブルーノ伯爵家の次男で私の三つ年上の幼馴染。学園を首席で卒業した秀才。


容姿端麗、文武両道、性格も良くて、友人も多い。


文官試験に首席で合格したのに文官にならず私の家庭教師をしています。才能を無駄遣いさせているようで申し訳ないですわ。


ルード様を私の家庭教師として採用したのはお祖父様です、お祖父様には何かお考えがあるのかしら?


「それにしてもビアンカ他にドレスはなかったのか? 私の贈ったドレスとアクセサリーはどうした?」


私の身につけているドレスとアクセサリーを見て、お祖父様が眉根を寄せる。


私が身に着けているのは色あせた流行遅れのドレス、しかもサイズが全然合っていないので窮屈だ。


「それが……」


「みなまで言うな、全くあ奴らはどうしようもないな」


お祖父様がキッと屋敷を睨んだ。


お祖父様が睨んだのは妹の部屋の方角だ。


妹と両親は当主であるお祖父様がいらしたのに、出迎えにも来ない。


「案ずるなビアンカ、こんなこともあろうかと新しいドレスとアクセサリーを用意した」


「ありがとうございます、お祖父様」


私は自室に戻りお祖父様が用意して下さったドレスに着換え、アクセサリーを身に着けた。


お祖父様が贈って下さったのはロイヤルブルーのドレスと、サファイアの首飾りとイヤリングに髪飾りでした。


ルード様の髪と瞳と同じ色のドレスやアクセサリーを贈られるなんて思っても見なかった。心臓がドキドキと音を立てている。


「これではまるで私がルード様の婚約者みたいだわ」


私の漏らした言葉は誰にも聞かれることはなかった。


着替えたあとお祖父様が手配して下さった使用人に髪をセットして貰い、お化粧してもらった。


鏡に映る自分はまるで別人みたいで、驚いてしまう。


「地味だと言われ続けた私でも、磨けばそれなりに見えるのね」


と言ったら「お嬢様はとてもお綺麗ですよ」とメイドに褒められた。


お世辞だと分かっていても嬉しくなってしまう。


部屋から出ると、お祖父様とルード様が部屋の前で待機していた。ドレスに着替えた私を見て、お祖父様とルード様が息を呑んだ。


お祖父様は満面の笑顔で「よく似合っている、可愛いぞ、さすがわしの孫」と褒めて下さった。


ルード様は口に手を当て、私から視線を逸した。


私がルード様の髪と瞳と同じ色のドレスやアクセサリーを身につけているのが、気に入らないのかもしれない。


ルード様は私の婚約者ではなく家庭教師です。己の髪と瞳と同じ色のドレスをただの幼馴染が身にまとっていたら、いい気分はしないはず。


「ルード様はこの色がお嫌いですか?」


私がしょんぼりしていると、


「嫌いじゃない! むしろいい! 好きだ!」


ルード様がそう言って慰めて下さった。


「いや、今の好きは……深い意味は……な、なくはないのだが……ゴニョゴニョ」


「大丈夫です、勘違いしたりしませんから」


そう伝えるとルード様は少し悲しそうな顔をした。


「ホッホッホッホッ、国一番の秀才と誉の高いルードもこの手のことは苦手なようだな」


にやにやと笑いながら、お祖父様がおっしゃる。


「公爵閣下からかわないで下さい!」


お二人はなんのお話をしているのでしょう?



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