第16話 この方はどうしてこうも粗暴なのでしょう
本当にこのようなお方が祖国を守る騎士で大丈夫なのでしょうか?
辺境伯様も、嫡男のローラン様もご立派な方ですのに……どうしてフェルナンド様だけがこのように残念な方なのか不思議でなりませんわ。
「私が愛妾では意味がありませんから、どうかお好きな方のほうを愛妾になさいませ。ただ、モニクは私の妹ですから世間的にも避けた方が宜しいかと存じますわ。」
「なんだと?やはりお前はどうしても妻の座に収まりたいと言うのだな!どうしてそう強欲なのだ!妻の座でなければ豪奢な生活ができないからだろう!」
あらあら。立ち上がって顔を真っ赤にして震えながら怒ってらっしゃるお姿は、いつものお元気なフェルナンド様に戻られましたわね。
周りの御令嬢や女性方がフェルナンド様のことを『天使様のように素敵な男性』や『優しく包んでくれそうな癒しのイケメン』などと持て囃すのが理解できませけれど。
「大きな声を出すのはおやめください。まだ来客中のようですから、そこまでフェルナンド様のお声が聞こえますわ。」
「お前のように自分のことばかり考えて、強欲で可愛げのない女など、妻にしたい訳がない!」
近くで大声を出すだけならばまだしも、ここはお庭ですから遠くまで声が響いてしまいますし先日のように手を上げられるようなことがあれば誰に見られるか分かりません。
人目につきやすく、暴力を振るうことが難しいようにお庭のガゼボにお呼びしたけれど裏目に出てしまったわ。
「フェルナンド様、とにかく落ち着いてお掛けになってください。」
「うるさい!いつもヴィオレット、ヴィオレットと煩く様子を尋ねてきたりして、私よりもお前のことを辺境伯領に必要としているのがありありと伝わるのが腹が立つ!」
フェルナンド様は私に怒っていると同時に、この場にいらっしゃらない辺境伯様への怒りをぶちまけているようです。
ガゼボのテーブルはティーカップが割れて散乱し、そこに拳を何度もぶつけながら大声で叫んでいるのです。
「騎士として大切なお手を怪我されますから。おやめください。」
「騎士として生きていきたいなどと思ったことはなかった!ただ辺境伯領に戻って兄上の補佐をしろと父上に勝手に決められて、仕方なくしていることだ!」
「それでも、拳から血が出ておりますからこれ以上はおやめください。」
少し離れた場に控えていたはずの侍女たちはいつの間にかいなくなっておりますし、誰もフェルナンド様を止めることができずにいるのです。
「離せ!」
フェルナンド様が手を強く振り払ったものですから、それが私の身体に当たりバランスを崩した私は地面に倒れ込んでしまいました。
「フェルナンド様!お気をお鎮めくださいませ!」
座り込んだまま思わずそう言い放った私の方を見て一瞬目を見開いたフェルナンド様でしたが、次の瞬間には血だらけの手を振り上げているのです。
叩かれる!
そう思って私は両の瞼をギュッと瞑り、身体を硬くして衝撃に備えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます