第2話 嵐のように去って行かれましたわ
――結局フェルナンド様が私とのお茶会の場に現れたのはあれから一時間以上も経ってからでした。
一体そんな長い時間モニクの部屋で何をなさっていたのでしょう。
「ヴィオレット!お前はまた私より先に茶を飲むなどと……!一体どれだけ私を馬鹿にすれば気がすむんだ!」
「フェルナンド様、ご機嫌よう。もうお約束の時間を随分と過ぎておりましたので、お先にいただいておりましたの。」
ドローイングルームでお気に入りのフレーバーティーを飲んでいた私。
ズカズカと我が物顔で室内を進んでくるフェルナンド様は、カーテシーをした後に謝罪を口にする私を忌々しげに睨みつけました。
まだ一応私はフェルナンド様の婚約者であるはずですが、手の甲へのキスの挨拶も当然のようにありません。
「本当に口が減らない女だ!可愛げがなくてプライドばかり高くて、どうして私の婚約者はモニク嬢のように、可憐で儚い令嬢ではないのかと怒りすら覚えるよ!」
「本当に申し訳ありません。私も婚約の件ばかりは自分の力ではどうにもできませんもので。」
「いくらお前の死んだ母親と私の父親が旧知の仲だったとはいえ、幼い頃に勝手に婚約などさせられて私は迷惑だ!」
フェルナンド様はこんなに大きな声でずっと話していて喉が渇かないのでしょうか。
「フェルナンド様、こちら気持ちの落ち着くカモミールティーですから。宜しければ召し上がってはいかがですか?」
「……。本当にお前は………………。」
未だブツブツと呟きながらも、喉が乾いていたのかフェルナンド様はカモミールティーを一気に飲み干しました。
「まぁいい。近々ギラマン伯爵家のパーティーに私とお前で招待されているから、きちんと準備しておくように。」
「先日招待状が届いておりましたわね。フェルナンド様は当日どのようなお召し物の予定ですか?」
婚約者同士で招待されていますから、お互いの目や髪の色などそれぞれに合わせたものにしないといけませんものね。
「お前には関係ない。とにかく私に恥をかかせるような真似はするなよ!」
困りましたわね。この様子だと、私がどんなに気をつけてもきっとフェルナンド様は私の色味など身につけるつもりはないのでしょう。
「分かりました。あら?もうお帰りですか?」
言いたいことだけ言ってすぐに出口へと向かおうとするフェルナンド様は、勝ち誇ったような表情でこちらへと振り向きました。
「そんなに私が帰るのが嫌なのか。私に優しくして欲しいならもっと可愛げのある態度をするべきだな。」
そう言い放ちながらもさっさと扉から出て行ったフェルナンド様。
壁にピタリとくっついて家具のように立っている侍女たちでさえ、私を嫌うお義母様には逆らえないと思っているのか、目の前で私が罵られる様子をただ見ているだけでしたわ。
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