犯した罪
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──犯した罪
フェリクスが一連の疑惑を暴露した張本人であることは、明らかになっていた。
G24Nがフェリクスについての特番をやっているのを見たときは冗談かと思った。
だが、G24Nは実に大真面目にフェリクスの特集をやっていた。
同僚に話を聞き、同時にこれまでの経歴ついて紹介していく。
『フェリクス・ファウスト捜査官は捜査官になる前は“国民連合”海兵隊隊員でした。ですが、彼は戦後にドラッグのオーバードーズによって戦友をなくしています。そのため、彼はロースクールに入り、捜査官としての道を選んだようです』
ここまで個人のプライバシーが重視されないのも今のフェリクスの立場ゆえか。特集ではフェリクスの麻薬取締局捜査官養成学校での成績まで公開されていた。人に見られて恥ずかしいものではないとはいえ、このままだとどこまで公開されるのか。
『彼は入局当初から順調に成績を上げてきましたが、転機が訪れます。西海岸におけるドラッグクライシスです。彼はそれを調査するために西海外に派遣され、そこで現地の州警察ギルバート・ゴールウェイ警視と出会います』
俺だけのことならともかく、ギルバートのことまで暴き立てるのか?
フェリクスは些か途方に暮れながらも特集を眺め続けた。
『しかし、捜査は失敗。ギルバート・ゴールウェイ警視はギャングに射殺され、フェリクス・ファウスト捜査官も重傷を負いました』
あの程度で重症とは。
『今ではこの事件の黒幕がヴォルフ・カルテルであったことが他でもなくフェリクス・ファウスト捜査官の手で暴かれています。彼は復讐を果たしたということですね。ヴォルフ・カルテルはこのドラッグネットワークを失い、大打撃を受けました』
だとよかったのだが、とフェリクスは思う。
『“連邦”に入ってからも波瀾万丈だったと聞いています』
『ええ。フェリクス・ファウスト捜査官が一度目に“連邦”に入った時、パートナーであり、潜入捜査を行っていたスヴェン・ショル捜査官が死体爆弾にされて死亡してしまいます。これによりフェリクス・ファウスト捜査官はまたしても重傷を負います』
スヴェン。あんたの仇はもう少しで取れるよ。あと少しだ。
『それからの行動については謎が多いです。ですが、分かっている範囲では、彼は幾度となく命の危険にさらされながらも、ヴォルフ・カルテルを追い続けたということです。麻薬取締局の局長ハワード・ハードキャッスル氏によると、彼は憑りつかれていたかのようにヴォルフ・カルテルを追い続けていたと』
『そして、ついに暴いたわけですね』
『はい。今世紀最大の政治的スキャンダルと言っていいヴォルフゲート事件が暴かれました。大統領は今、とても危険な状況です』
『まだフェリクス・ファウスト捜査官の戦いは続いてるわけです』
そうさ。俺の戦いはまだ続いている。このクソッタレなドラッグ戦争に終わりはない。まだヴォルフ・カルテルを押さえていないのだ。連中の持っている厄介な保険を引きはがしただけで、まだ戦わなければならない。
フェリクスはそう思ってエリーヒルのホテルのテレビの電源を切る。これ以上、自分について他人が説明するのを見る気にはならなかった。
「フェリクス。俺だ」
「エッカルトか?」
「ああ」
フェリクスは先にホテルで襲撃された件から用心していた。
来客者は慎重に確かめる。同時にいつでもそばに控えているフレデリックのチームに連絡できるようにしておく。
今やどんななドラッグカルテルの殺し屋でもフェリクスを殺したがっているのだ。そして、戦略諜報省ですらも。
「調子はどうだ?」
「襲撃された。危うく殺されるところだった」
「おいおい。大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ。だが、エッカルト。あんたは用心してくれ」
エッカルトも襲われる危険があるのだ。ドラッグカルテルにも、戦略諜報省にも。
「俺も用心しているさ。銃は常に持っている。もっともブラッドフォードのように狙撃されたらどうしようもないが」
「ああ。俺たちはそういう危険に直面している」
フェリクスがエッカルトを室内に入れる。
「それで、エッカルト。“連邦”の方の動きはどんな感じなんだ?」
「大荒れだ。ヴォルフ・カルテルは疑惑とは無関係だとあちこちで言って回っている。向こうのマスコミもそれを主張している。『この悪意に満ちたデマを流した人間に懸賞金を賭ける』とまで行っている」
「つまり俺に対して懸賞金がかかったのか?」
「ああ。3億ドゥカート。生死を問わず。ヴォルフ・カルテルはかんかんだ」
「それが俺の欲しかった反応だ。ヴォルフ・カルテルが過激に反応すればするほど、俺の取った作戦が成功だったということを意味する」
「まさしく。奴らは慌てふためき、狼狽し、困惑している」
どこから情報が漏れたのだろうかと。
「これでヴォルフ・カルテルは庇護を失うことになるだろう。そうすればようやくヴォルフ・カルテルを叩ける。俺たちはやっとこの戦いの主導権を握った。これからは俺たちがボールを運び、ゴールに叩き込む」
「ああ。やってやろうぜ」
フェリクスとエッカルトが頷き合う。
「ところで、議会に召喚されたんだって?」
「そうだ。議会はヴォルフゲート事件で大統領と与党を追い詰めたがっている。今世紀最大の政治的スキャンダルらしいからな」
「お前も議会で証言するのか」
「そうなるな。何を喋るべきか、弁護士と話していた。俺は捜査情報をマスコミに流した張本人だし、違法な捜査を行った張本人でもある。向こう側は俺の証言には何の価値もないと主張するだろうさ」
「大丈夫なのか?」
「何とか乗り切って見せるさ」
いくら政権与党がヴォルフゲート事件への関与を否定しても、物的証拠は揃っている。何か問い詰められたら、録音テープと写真の話をすればいい。その録音テープと写真の出どころを聞かれたら、素直に答えるしかない。
盗聴し、盗撮したと。
そのことで裁判にかけられるなら仕方がない。甘んじて受け入れよう。確かにフェリクスの捜査は違法だった。麻薬取締局に与えられた捜査範囲を逸脱していた。
それだけのことをしたのだから、責任を追及されれば、応じるしかない。
だが、ひとりでは破滅しない。
スヴェンを殺し、これまで捜査を妨害し続けてきた政府の責任も追及する。
「証言は?」
「明日だ。弁護士が準備を整えてくれている」
「下手を打つなよ。あんたと俺はまだヴォルフ・カルテルを、アロイス・フォン・ネテスハイムを捕まえていないんだ。連中を捕まえるまでは、あんたがムショに叩き込まれるのは困る」
「最善を図る」
フェリクスもまだ自分が逮捕されるわけにはいかないことを理解している。生き延びるためには最善を尽くすつもりだ。
あの逮捕されたカールのように、ジークベルトのように。
「よし。言いたいのはそれだけだ。“連邦”で待っているからな」
「ああ」
いよいよ俺の戦いも終わりに近づきつつあるとフェリクスは思った。
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