第2章 水蓮寺遥と繰り返す
第1話 何度目かの幕開け
5月31日。中間テストの最終日の放課後に、俺と遥は部室で静かに座っていた。部活動もないのに部室にいるのには理由がある。俺達は、今まさに押し寄せてこようとしている足音を待ち侘びているのだ。
「今回は、ダメだったみたいだな……。また最初からか?」
「まぁ、そうなるわね……。もうそろそろ抜け出したいところではあるんだけど……。来たみたいだわ。俊、じゃあまた後でね……」
遥が立ち上がった瞬間に激しい音を立てて、部室の扉が開かれる。そこにはこちらを冷え切った目で睨みつける
「水蓮寺さん、約束の時間です。今すぐに生徒会室に来なさい……。所詮、貴方達が作ったこんな訳の分からない部活動は廃部になって当たり前なんですよ」
「むやみにうちの部活を悪く言うのやめてもらえる? これでも私達は誇りをもって活動してるんだから、アンタにそれを否定する権利はないでしょ?」
「そうですね……。でも期限は期限です。今日でその誇りとやらは捨ててもらいましょう。さあ、行きましょう。我が校の生徒会長がお待ちです」
「分かったわよ。大人しく従ってあげるからさっさと連れていきなさい」
ため息まじりに遥が歩き始めると、石立は冷酷な表情を一切崩さずに背を向けた。また凄まじい勢いで扉が閉められると教室には俺一人が残された。
「あと10分くらいか……」
誰もいない部室で俺は目をつぶり、ただ時間が過ぎるのを待つ。春から夏へと移り変わろうとしている独特な暖かい空気が、幻想的で不思議な感覚を思い起こさせていた。
どこからか高い鈴の音か金属音のような澄んだ音色が響き渡る。もう時間になったようだ。目を開けるとさっきまでの部室の風景は消え、後ろから前へと様々な人や物が高速で過ぎ去っていく様子だけが映っている。それぞれの物体の識別がつかなくなるほどスピードは加速していき視界が虹色に光輝いた時、水滴が滴るような響きとともに俺はまた放課後の部室に戻っていた。
「俊、おかえり。今までで一番長かったから疲れたでしょ。今回もちゃんと記憶は残ってるわよね……?」
「ああ……、ちゃんと残ってるよ。でもあそこまで進んでも戻るのはここのままなんだな」
「そうね……。おそらく最初からやり直さないといけないんだろうけど、何が問題でどう改善すればいいのか全く見当もつかないわ。というか、もうそろそろ足が痛いから離れてくれない? あと……、この雰囲気であなたとこんな近くにいると恥ずかしくてしょうがないんだけど……」
「あ、ああ。ごめん、悪かったよ。遥」
俺は遥の太ももから頭を離して跳び上がるように起き上がる。遥は耳まで真っ赤にして口元を手で拭っていた。
5月21日。部室で遥とキスを交わした直後のこの瞬間を俺はまた味わっていた。
「でも、何回体験しても信じられないな。こうやって同じ瞬間を何回も繰り返すと訳が分からなくなりそうだ」
「それ、私の前で言う? 私なんかもう訳がわからないなんていうレベルじゃなくて自分の精神年齢が変わるくらいの回数やり直してるんだけど」
俺の目の前で軽い口調で話しながらにっこりと笑う少女。彼女には時間軸で言えばついさっきまで誰にも言えない秘密があった。そう、
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