俺は恋する少女のためにラブコメクラッシャーへ成り下がる

真砂絹

第1章 始まりは願望の解放

第1話 異変というより激変

「はあーーーーっ」 


 昼休みの教室で一人、俺は今日何十回目かのため息をついた。


 最近、気になることがある。自分の生活や悩みがどうとかじゃない。ただ気になるのは俺の知り合い、上代かみしろ悠斗ゆうとについてだ。俺はゆっくりと悠斗の席を見るために後ろを向く。


 悠斗の席の前には、オレンジ髪の美少女が鎮座していた。


 もう、言ってもいいだろう。俺は新学期が始まってから今までずっと疑問に思っていた。1年生の時は学ランだったのに、学年が変わって制服がありえないくらいおしゃれになった時も、なぜか屋上が生徒に解放された時も、俺はずっと心に収めていた。しかし、今回はダメだ。俺は悠斗の席にまっすぐと向かっていく。


「おい、ちょっといいか」


「ん? どうした一条いちじょう。なんか用か?」


「え? アンタ、いきなり何しに来たの? ちょっと怖いんだけど……」


 いつもと同じようにとぼけたような表情をする悠斗と、俺の厳しい眼差しに引き気味の美少女。しかし、俺は気にせずに話を切り出す。


「悠斗、お前……。お前、ラブコメの主人公だろ!」


 俺の急な大声に、クラス中の視線がこちらに集まった。同時に俺の発言は教室全体を凍りつかせる。


「は? 急に何言ってんだよ。一条、お前アニメの見過ぎで頭おかしくなっちまったのか?」


「いや、おかしくなっちゃいないね。おかしいのは俺以外の奴ら、特にお前達だよ!」


 俺は再び声を張り上げて、目の前の二人を指さした。


「はぁ? アンタ何言ってんの? 私と悠斗のどこがおかしいっていうわけ?」


 明らかに苛ついた態度をとる美少女。やはりこいつも自分のことに違和感が無いみたいだな。俺は美少女のほうに顔を向けて、盛大に切り返す。


「全部だよ。大体お前転校生の癖にこいつと近づきすぎだろ。さてはお前、悠斗のことが好きなんだな? じゃないと昼休みに二人でずっと話したりしないだろ」


「だ、誰がこんなやつのことなんか……。アンタ、本当に頭おかしいんじゃないの⁉」


 美少女はさっきまでの不機嫌そうな表情から、一転して顔を赤らめる。……普通ではお目にかかれないこの反応、こいつは典型的なツンデレヒロインだ。俺は体を反転させて悠斗の反応をうかがう。女子が目の前で自分への好意をむき出しにしても、は全く気付いていない様子だった。


「なあ、一条? お前、最近本当になんか変じゃないか? 悩みがあるなら言ってくれよ」


「お前に話したところで意味ねえよ……」


 俺の言葉に動揺する悠斗を尻目に、俺はため息まじりに教室を後にした。

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