ミナトさん旅行記 生ししゃもと温泉編

鷹美

第1話 

ここは北の大地、北海道。

そこのある町で背伸びをする女性がいた。



サイドポニーにまとめた黒髪、黒の瞳、中肉中背のどこにでもいる成人女性の日本人それがミナトだ。



そんな普通な彼女にもストレスを発散する趣味がある。

それが旅行だ。



2連休を利用してたまーーに小旅行を行なう。

本当は頻繁に行きたいのだが、大好きな旅行はお財布には優しくない。


OLには辛い話だ。


そんなことを考えながら、冴えない服装のポケットにサイフと携帯電話と車の鍵と家の鍵をゴソゴソと入れる。



今回の目的は、北海道のむかわ町と言う所で10月と11月までしか食べられない生ししゃもを食すこと。

魚は好きだから、非常に楽しみだ。


お供は一人だけだが、大人数でワイワイやるのだけが旅ではない。



そんな事を考えていると、旅のお供がミサキの車までやってきた。



「よー、珍しく寝坊してないやん。

おはよっす。」



ミサキに軽口を言って現れたのは友人のオオダ。


身長は低めで黒い短髪の女性。

スポーツをしていた為に、肩幅が広いのがコンプレックスなどと言っていてオシャレには鈍感だが…。

鍛えられ綺麗に引き締まった体は、磨けばどれほどのポテンシャルを秘めているのか…。



因みに、今回の目的地を調べてくれたのはオオダ。

美味いものを食べるなら旬のものを溢れ出る情熱をネットにぶつけたそうだ。



「流石に旅行の日は起きるわ。

ほらほら行くよ。」



ミナトは、呆れたような表情をしながら車の鍵を開けて車の中に入るよう急かす。



ミナトの車は親から貰ったかなり淡い水色の古い車。

キュルキュルと甲高い音を響かせながら、エンジンがかかる。



古い車が寒い時期になると起こる現状らしく、そろそろ買い替えた方が方がいいといわれた。



「行くぜ、ご主人!」



出費がかりそうだな…とげんなりしている横で楽しそうにそう言ったオオダ。

この音が気合入っているみたいだから、この車に乗るたびに良く口にする。



「爆発しないといいけどね…。」



暗黒微笑を浮かべたミナトは車のアクセルを踏んだ。


走行距離は遠くもなく短くもない。

運転慣れをしていないミナトには練習にもってこいの距離だろう。


とはいえ、完全に初心者ではない為軽快に車を目的地に向けて走らせている。



天気はやや曇り空で時期は11月後半。

紅葉は終わり、景色は大体灰色で早い所だと雪が降っているだろう。


休みが合わなかったから仕方がないとはいえ、もう少しはやかったらな…などと思っていたらオオダは

ドヤ顔で口を開く。



「雪がふりそうだけど…任せておけぇ、ウチ…晴れ女だから。」


「おう、頼むよアマテラス。」




そんな他愛のない会話がポツポツと繰り広げられていた。


古い車な故にBluetoothなど携帯の音楽と繋げられる物があるわけでもなく、流れているBGMはラジオだ。

偶然耳に入ったのは、良く騒がれている煽り運転。



「うぇえ、最近こんなのばっか…

絡まれたらやだなぁ。」



車の運転も慣れてないし、男女問わず喧嘩なんてできないミナトは苦虫を噛むんだような表情を浮かべる。

するとオオダは二の腕をぽんぽんと叩き力瘤をつくる。



「任せておけ、分からせてやるよ拳でなぁ!」


「ったく、随分と古いネタを。」



ドヤ顔でボケるオオダを横目に呆れたような様子で運転するミナト。

その瞬間に車の外から見えた景色に2人は釘付けになった。



【こぶし温泉】



そう書かれた看板をミナトが運転する車が横切った。

タイミングが良すぎるだろうと、2人はいい歳して大笑いをした。



そんなこんなで無事についたむかわ町。

出発から休憩を挟みながらゆっくりと来たためについた時間はおおよそ2時間。



一応、調べてから来てはいるが11月の下旬とギリギリな時期できた為に生ししゃもがやっているか不安だったが…無事にやっているようだ。


車内の中で営業している店を見かけて胸を撫で下ろしたミナトはそのまま駐車場に車を走らせて行く。

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