『限界百合男子不二くん ⅤS BL漫画家黒木さん』

手塚 豪

第1話 プロローグ

【プロローグ】


 俺は不二奏太。どこにでもいる普通の高校一年生だ。


 ——ライトノベルの始まりは大体がこうして始まる。……いや、待てよお前ら。量産型ライトノベル主人公たち、お前らのことだ。お前たちが本当に普通の高校生だったことなんて、ほとんどないだろ。

特別な力が使えたり、ヒロインたちとすぐに仲良くなったり、ラブコメの片手間で世界を救ったり……。どこら辺が普通の男子高校生だというのだ。まぁ、本当に普通で、なんの特徴もない奴を主人公にしても、第二章目ぐらいでペンが止まってしまうのだが。


だから俺は最初に宣言しておく。俺は『どこにでもいる普通の高校生』ではない。


 俺は容姿端麗、成績優秀、誰が呼んだか『完璧人間』。最近流行りのチート系主人公である。何をやっても絵になると言われ続けて十六年。人生で一度も自己肯定感を喪失したことはない。

 

しかし——もし俺を主人公にしてラノベを書くなら、絶対にヒットしないだろう。


 読者が主人公に感情移入しづらく、賞レースに出しても次回作の成功をお祈りされるだろう。

 その理由は俺のスペックが高いこと以外にもあった。どうしようもない理由があるのだ。どれだけ魅力的な物語も、設定も、可愛いヒロインも帳消しにしてしまう理由がそこにはあった。

それは——————。


「……へへっ、うへへ……」


 俺は休日の昼間からノートパソコンを開き、ピクシブで『百合漫画』を漁っていた。


「なはははは……」

 我ながら、不愉快極まりない笑い声が薄暗い部屋に響く。カーテンを開けることも忘れて、朝に目が覚めてからからもう四時間ほどが経過している。

 薄暗い部屋の壁は、二次元の美少女キャラが印刷されたタペストリーや、ポスターで埋め尽くされている。更には、本棚には隙間なくラノベや漫画が収納され、入りきらなかった物は塔のように積み上げられている。

 俺の部屋はオタクの巣窟と化していた。客観的に見れば嫌悪を感じるほどに見事なオタク部屋。それが俺にとっては本当に居心地の良い場所である。

 俺のパソコンのディスプレイに映るのは二人の美少女。素直な先輩とツンデレの後輩という素晴らしい組み合わせ。先輩の混じり気のない好意に戸惑ってしまう後輩ちゃんが実にかわいい。いとをかし。

 彼女たちの世界には、彼女たちを邪魔する汚らわしい男はいらない。美しく、穏やかな世界の中で、ゆっくりと愛を育んでほしい。それが俺の理想郷だ。

 現実の世界だってそうだ。『なんとなく彼女が欲しいから』とかいう不純な動機の男と付き合うぐらいなら、女の子同士で付き合えばいい。きっとそうするだけで未来がよりよくなるだろう。百合はまだ癌には効かないが、そのうち効くようになる。世界中の人々が手を取り合い、差別もなくなり、最終的には地球温暖化を食い止めることになるだろう。いやでも、女の子同士の熱々な恋のせいで逆に温暖化に拍車をかけてしまうかもしれない。ははは。

 ……とまぁ、何が言いたいのかというと、百合は素晴らしいということだ。

 だから、俺はどんな美少女に出会おうと、決してラブコメ展開になんてならない。なるべきではない。女の子は女の子と付き合うことが最適解なのである。


 ——もし俺を主人公にしてラノベを書くなら、絶対にヒットしないだろう。


 大事なことなので二回言わせてもらった。俺が主人公の物語は、周りにいる少女たちが次々に自分に惚れていくものなんかじゃない。幼馴染キャラが毎度のごとく敗北するわけでもない。ヒロインと花火大会に行って、告白の台詞が花火の音に掻き消されるわけでもないのだ。


 俺が主人公のラノベは、俺が美少女同士の恋を応援する……そんな感じの物語だ。

 ……ん?あれ、これ結構いい設定じゃないか?気が向いたらこの設定で新人賞に応募してみようか。俺が主人公では絶対にヒットしないと言ったが、案外ヒットするかもしれないな。

 

なぜなら———百合要素がある時点で、その作品は名作になるからだ。

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