第33話 好きと嫌い
妖精の国の奴が、ムーリク王国の王女様を殺したことになっている。
この妖精の国の戦力は人の戦力と比べると無いに等しい。それだけ人は争いを好んで来た。それだけ妖精の国は結界で守られてきたんだ。
神器で結界は軽く破れるとテトナは言っていた。そりゃそうだろ、相手もテトナの神の力を神器として持っている。
ベットに横になる俺にマナを注ぐテトナ。テトナは俺の胸辺りに両手を当てている。
「レクシアは人との争いになったら逃げていいよ」
レクシアの名前は、テトナが俺の事をその名前で呼びたそうにしていたから好きに呼んでいいぞと言ったら君からレクシアになった。
「俺が戦場に出たって、こんな身体じゃ一騎当千は無理だろうな」
「レクシアは千人だって、何万人だって余裕じゃないかな。ただ私の刀の神器の呪いでマナを無尽蔵に吸われているから長期戦は無理だね」
テトナの神器の刀。その神器の刀で今のマナ枯渇状態の俺に当てはめる事が出来る力は呪いなんだとテトナが教えてくれた。
俺は一に刀が届く範囲にいたから斬られた結果を与えられて、二に身体中のマナを吸われて、三に呪いを付与されていたんだと。
一、二、三がそれぞれの刀の力。
呪いは生物が蓄えるマナの貯蔵庫に穴を空けると言う、とんでもない呪いを俺は受けている。
刀が届く範囲にいたから斬られた結果を与えられた? そして回避不能のとんでも効果がオマケで付いてくると、本当に神器はむちゃくちゃだ。
俺もとんでもアイテムは1000年生きてれば触ってことがあるが、神器は格が違う。俺が手に入れたとんでもアイテムのトップはフェニックスの指輪だ。
神器の呪いは神器でしか治せない。治せる神器は盾、杖、斧、弓。そして条件があるがレクシアの剣。まぁ俺の剣だ。とテトナが言っていた。
俺の状態を刀が治せたら、テトナも治せることになる。それは出来ないらしい。
俺が戦場に出ても、テトナの重りにしかならない。
こんな待遇を受けたことない俺は逃げろと言われても、逃げ方が分からない。
強敵に立ち向かって来たからな。老人がたまに「老人と言うな! 若い者には負けん!」と、怒る気持ちが分かる。
1000年生きてて、やっと老人になれたかと感慨深い気持ちになり、俺はまだ戦えると奮起する気持ちもある。
俺は死に際になって、本当の弱さを知ったのかもしれない。負けたことは何度かあるが、ここまで手応えもなく負けたのは初めてだった。
本当に大人と子供の喧嘩で、単純な力の差が否応にムカついている。神器だから負けても当然と思っている俺にムカついている。
でも現実は非情な物で、ノエルが取られる戦いでもノエルを守ってやれなかった。
それが何を意味するか。元勇者の俺が、俺の強さの限界はココだと決めつけている。
もう一度、同じ状況になれば、同じ事になる。身体は呪いの効果で衰えているんだからもっと酷く負けを押し付けられる。
「人がわんさかやって来たね」
「わんさか?」
「大勢って意味。争いが始まる、私もレクシアについていたいけど、神器持ちを何とかしないといけない」
もう人が攻めてきたのか。
「勝てるのか?」
「それは分からない」
分からないのか。
マナを一層強く俺に送り、テトナは手を離した。
「レクシアはさっきも言った通りに逃げて、ココにソフィアも呼んでいるから一緒に」
「テトナ、ありがとうな」
俺はベットから起き上がり、テトナに感謝言い、頭を下げる。
「レクシアはそんなの似合わないよ。大丈夫、絶対に勝つから。ラクゼリア……ノエルも連れて帰ってくるし、その後は宴を開こうと思う」
「随分と太っ腹だな」
「世界樹だからね!」
テトナは胸を張り、部屋から出て行った。
テトナと入れ替わりでソフィアとシフルが来た。
シフルはガクガクと震えて、ソフィアの肩についていた。
「早く、ひ避難しないと! 母様に言われたから来てやったんだぞ! 早く、早く!」
ソフィアが俺に近づき、肩を貸して来る。
「ソフィアが俺に肩を貸すとはな」
「私はアンタが記憶喪失になって、カッコつけることを辞めたの」
「実際は俺が記憶喪失になったわけじゃないけとな」
肩を貸して貰い、部屋から出ると木の家々が燃えていた。フフっとソフィアは笑った。
「そうそう、アナタはそう言う奴よ。記憶喪失になって随分と大人しくなったなと思っていたのよ」
「残念だったな、大人しくなくて」
勇者パーティーの頃を思い出す。負けた時はこうやって肩を貸してもらってたっけか?
忘れていた。
「ねぇ勇者様、妖精の国を助けたいんだけど」
「お前な、俺の状態を分かっているんだろうな。テトナに動けるようにして貰ったから動けるけど、本当は動くことを出来ないほどの瀕死だぞ」
世界樹から下を見下ろし、門の中でも外でも争いが起こっている。
「……三十分なら本気は出せるが、本気を出さないでは二時間半ぐらいだと思う」
「私は好きよ、アナタのそう言うところ」
「気色悪ぃ、俺は嫌いだよ、お前のそう言うところ」
助けたいと思う気持ちは同じだが、助けたいと思う勘定に俺の命を入っていない。俺が死なねぇと思っているところが嫌いだ。
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