第31話 繋がり
俺はテトナのおかげで死の淵から脱した。
テトナにマナを注がれながらだが、動けるようにもなった。
神の俺とは親友だったと言っても、今の俺はテトナのことを覚えていない。
俺を死から助けて、嘘でしたとか言わないだろうし、俺とノエルが神ということも本当だろう。
今も二人で椅子に座りながら、手を繋いでマナを注がれている。
しかも俺は起きてから寝るまでの間が凄く短くなっているから、俺が妖精の国のベットで寝ていると分かった時から何日経ったかは正直わかっていない。
妖精は寝らないらしいが、俺が寝て起きた時にテトナが「起きないかと思ったとよぉ」と毎回滝のように涙を流して心配してくる。
俺の死を心配してくれる人がいると、頑張って生きようかなと思える。不思議だ。
バンッと、部屋の扉が開く。
するとシフルとソフィアが扉の前に居た。
ソフィアに、あっ! と俺に指をさされた。
「私の客人に指をさすのは止めてくれるかな」
「す、すいません。なんでアナタがいるの?」
俺はソフィアを見たまま口を開かない。声を出すのはまだかなり疲れるからな、無言を貫く。
「ムーリク王国の王女様が何のよう? 勇者君に殺されでもしたかな」
ソフィアはなんでわかった! と言いたいように目を見開いている。
ソフィアは勇者に殺されたんだな。
「言ったろ、不死でも、何があるか、分からな、いって」
「なに?」
「あれ? 指輪を、上げた、だろう」
あ! これ勇者の時の記憶だ。弱っている時に喋るものじゃないな。えぇっと、モーブルに殺されたって言ってたし、もうバレてもいいのか?
「まさかアナタが本当の? いやだって、姿が違う。ノエルがアナタに付いていたのは……」
もう遅いけど、俺は目と口を閉じた。
「私はテトナジー樹の妖精、テトナータ。テトナちゃんと言ってくれてもいいよ」
ソフィアが真実に近づいこうとしてた時に、テトナが自己紹介をした。
「あ、あぁごめんなさい。私はソフィア・アリースト・ムーリクです。テトナさんの言う通り、私はモーブルに殺されました。この世界に逃げ場がないと思っていたら、ノエルが話していた、妖精の国ならモーブルが来ないと思ったの」
ノエルはこうなることを知っていたのか? 俺は目を開ける。
「話は分かった。でも人にとって都合が悪い者を魔王と言って殺しておきながら、自分が殺される立場になったら魔王になる可能性がある亜人に助けを求めるの?」
「……」
纏めて種族を言う時に亜人という言葉を使うが、テトナの言う亜人はちょっと違う感じがする。ソフィアも感じているのか、ソフィアは下を向き黙った。
そう、俺たち人は亜人に助けられても、絶対に助けてとは言えない事情がある。その根幹はテトナが言った通りだ。
人に近く、人よりも劣っている。それが亜人。テトナが言う亜人の中に人族は入っていない。
亜人は、獣族やドワーフ族、エルフ族や妖精族とまだまだ種族がある中で、亜人を使う時は自分たちの他の種族となる。
人が使う亜人には蔑称が含まれる。テトナがソフィアに亜人と言ったことに意味がある。
「私は魔王を殺してきたことを後悔してません。私は王女で、人を守る責任がありましたから」
「ここには獣人族と妖精族がいる。人族なんて居ない。人に恨みを持っている輩も少なくないほどにいる。私が人の国の王女の首を持って歩けば、ほとんどの者に泣きながら私に感謝を言うの、わかる?」
それほどに人は亜人に対して残酷なことをしていたからな。やり返せば、勇者のカードを切られて、それが嫌なら泣き寝入り。
そういう理不尽を亜人は受けて来ている。
人からしたら勇者は勇者だか、亜人から見れば魔王だと思う。俺は勇者やってたからってそんなに責任を感じたことは無い。
魔王の亜人を殺して、魔王の死体に子供が群がってきた時には、さすがに責任は感じたが。
それも1000年勇者やってれば、ちょくちょくある事で、俺は最後まで馴れなかった。
だから王女の首よりも俺の首を差し出した方が感謝をされるだろうなと思った。
思ったら、テトナに握られた手にグッと力を入れられているのが分かる。テトナは繋がっている相手の心の中が透けて見えるらしい。
「助けてあげる!」
「えっ!?」
テトナの手のひらの返しようにソフィアがビックリしている。
「助けて欲しいの? 欲しくないの?」
「ほ、欲しいです」
テトナの顔を見ると不機嫌を顔に貼り付けている。なんでソフィアを助けるなんて言い出したんだろう。
痛い、痛い、痛い。
繋がっている手に思いっきり力を入れられた。
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