22話 赤裸々


「コホン……それじゃあ、今から【時の回廊】という僕たちのパーティー名について、その由来を新人のモンド君に話そうと思う!」


 夕食が終わったあと、パーティーリーダーのラダンがそう切り出して、周りから歓声と拍手が起こる。


「お、ラダンが臨時メンバーにそれ話すのって、もしかして今回が初めてじゃねえか!?」


「バルダー、その通りだよ。なんせ今はすこぶる気分がいいからね。モンド君が来てから、僕たちは順調そのものだし。今までで一番といってもいいんじゃないかなあ……」


「うんうんっ。もしかしたら、モンドおにーちゃんが強運の持ち主で、それで私たちにかかった呪いを解いてくれてるのかもしれないしね!」


「いや、呪いを甘く見るな、ラダン、メルル。それまで順調だったのに失敗してきたことをもう忘れたのか? 浮かれるのはまだ早い」


 明るい表情のメンバーの中で、キールだけは至って冷静そのものだった。


「……」


 彼は例外としても、夜も更けてきたことによる影響なのか、みんないい具合に盛り上がってる感じだ。


 それにしても、現在の状況に対して犯人は内心どう思っているのやら。


 なんせ俺たちは順調すぎるほど順調で、明日にも討伐対象のカースフラワーがいるところへ到着するわけで、多少焦りはあるはずなんだが今のところ動きはない。ってことは、まだそこまで追い詰められてないってことなんだろう。


 ただ、このメンバーの中に依頼を妨害している犯人は確実に存在していて、最後まで何が起きるかわからないってことも確かなので、これからも細心の注意を払わないといけない。


「まぁそれでも、僕たちがこの上なく順調に来ていることは確かだからね、あまり心配しすぎるのもよくないよ。さて、改めて由来を話そうと思う! って、モンド君、聞いてるのかい……?」


「あ、あぁ、ちゃんと聞いてるよ、ラダン」


「それじゃ、話すよ!【時の回廊】というパーティー名には、いくら歩いても何も変わらない、果てしないと思える状況でも諦めずに進むことで、いつか僕たちが時代を動かす寵児になる……そんな意味合いが込められてるんだ……」


「なるほど……」


 結構深い意味合いがあったんだな。


「そういや、そんな意味だったなあ。すっかり忘れちまってたぜ。でもよ、いつの間にか本当に同じところをグルグル回るだけのパーティーになっちまったが……」


「もー、バルダーったら……。今まではそうだったかもだけど、もう少しで越えられそうなところまで来てるのは確かだよ!」


「いや、まだまだだ。それより、そろそろ誰か寝ろ。全員が揃って寝るような状況になれば、それこそ呪いに打ち負かされるのは確実だからな」


「それじゃ、俺が寝るよ」


 キールの宣言に対し、俺が空気を読んで一足先に休むことになった。


 以前よりもこのパーティーに貢献したことは事実とはいえ、それについてはバレないようにしてるし、自分の弱い立場は何一つ変わってないわけだから。


「――あ……」


 俺がテントに入ってから少し経ったタイミングで、誰かが近付いてくるのがわかった。


 これは、もしかして……。


「モンドおにーちゃん、まだ起きてるよね……?」


 やっぱりメルルだ……。


「あ、あぁ……」


 さすがに床に入ってすぐ寝るようだと不自然ってことで、俺は渋々反応せざるを得なかった。参ったな。今回も寝たふりで乗り切ろうと思ってただけに、当てが外れてしまった格好だ。


 とにかく、雰囲気的に流されないためにも黙ってちゃダメだと思うんだが、中々言葉が出てこない。戦闘は得意なんだが、こういうのはちょっと……。


「ふふっ……」


 俺を見上げるメルルの瞳に怪しい光が宿る。まさか、本当にやるつもりなのか……。


「ここまで来たら恥をかかせないでね……」


「っ!?」


 メルルがローブを勢いよく脱いでしまった。しかもこれ、暗くてよく見えないが多分何も身に着けてないぞ。おいおい、おいおい……。


「ね、楽しも……?」


「う、後ろ……」


「え……?」


「「「あ……!」」」


 ちょうどテント内を覗き込んできたラダン、バルダー、キールの三人と視線がぶつかることに。


「ちょ、ちょっとぉ! なんで覗きに来るの!?」


 メルルが慌てた様子でしゃがみ込む。


「あ、いや、メルル、違うんだ、これはだね、羨ましい……い、いや、そういう行為をすると無防備になるだろうから、守ってあげようと思って!」


「そ、そうそう! 守ってやろうと思っただけで、決して覗きに来たわけじゃねえんだっ!」


「……し、心配してやっただけだ……」


「「……」」


 俺はメルルと呆れたような顔を見合わせるが、正直なところほっとしていた。


 それにしても、キールってシモネタ嫌いなはずなのに、割と興味あったんだな。それだけは意外だった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る