19話 お楽しみ
「……」
キャンプ翌日、みんなで朝食を取っているときだった。
昨晩、メルルが来た影響でろくに眠れなかったこともあって、欠伸が何度も出そうになり、俺はそのたびに光魔法で神経をリラックスさせることで押し殺していた。
これぞ疑似白魔法ってやつで、黒魔導士でも技術さえあればこういうことができるんだ。ただ、それでもついウトウトしてしまうが。
ん、バルダーがにんまりと嫌らしい笑みを浮かべながら俺の肩を掴んできた。
「おうおう、モンド、寝不足気味かあ? おめーだけ早く寝たはずなのに、おかしいよなあ……。まさか、夜中までテントで何かやってたのか?」
「い、いや、俺は別に何も――」
「――しらばっくれるなって! おめー、昨日メルルとお楽しみだったんだろ!? いいなあっ」
「うっ……」
食べていたものが喉に引っ掛かりそうになり、俺は慌てて水筒を口に当てて流し込んだ。
そういや、朝になってメルルと一緒にテントから出るところをみんなに目撃されちゃってるし、弁解のしようがないんだよなあ……。
「もー、バルダーったら、下品なこと言うのやめてっ」
「うるせえ、俺はメルルじゃなくモンドに聞いてんだよ。なあ、どうだった!?」
「あ、あぁ、最高だったよ。な、メルル」
「う、うん……そうだねっ、モンドおにーちゃん、普段は大人しいのに夜はとっても激しかったぁ。うふふっ……」
俺はメルルとウィンクし合った。
実際にはバルダーの言う楽しいことなんて何も起きなかったんだが、正直に言ってしまうと夜の誘いを断ったみたいな流れになるかもしれないわけで、メルルが恥をかくと思ったので嘘をつくことにした。
「ったくよー、チッキショー、見せつけやがってえぇっ! さぞかし派手に燃え上がったんだろうなあ。あーあ、俺もモンドやキールみてえにモテモテの王子様になりてえなあ……」
「バ、バルダー、どうしてそこで僕の名前を出さないんだい……?」
ラダンがそう訝し気に訊ねると、バルダーが両手を横に広げて溜め息をついた。
「いやいや、さすがにラダンは論外だろ? なんか色んな意味で貧相すぎるんだよなあ……」
「ぐっ……バルダー、君には心底失望したから、僕のパーティーから追放しないといけないね。ちゃんと別れの歌も用意するよ……」
「お、おいおいっ、ラダン、冗談だって……!」
青い顔で釈明するバルダー。一番怒らせると怖いのはラダンかもしれない。
「お前たち……くだらない会話はそこで終わりだ。とっとと出発するぞ」
あ、キールが涼しい顔で食べ終わったと思ったら、立ち上がって歩き始めた。
みんなキールの顔色を窺って戦々恐々としてるみたいだし、ちょっと怒ってるっぽいな。シモネタが嫌いだとか言ってたから多分原因はそれだろう。それにしても彼は何をするのも速い……。
こうして、俺と【時の回廊】パーティーは再びバラモ森林の奥地を目指して歩き始めた。
昨日までは不可解なことばかりで俺の頭が混乱しまくってたが、今日はすっきりしてるので間違いなくパーティーに貢献できると思う。
彼らの目的が俺に対する快楽殺人などではなく、依頼の攻略だとはっきりわかったからだ。
ただ、昨日話題に出ていた呪いってのが少々気掛かりではある。
大きな依頼を失敗し続けてきたことで、焦りや苛立ちが雪だるま式に肥大化していった結果、呪いのように見えてしまってるだけなのかもしれないが。
「……」
いや、待てよ。これだけの実力者が揃ってるんだ。少々負の感情に揺さぶられたところで吹き飛ばせるはずなのに、できていないのはおかしいんじゃないか。
だとすると、このパーティーの中に味方の振りをした敵が潜伏していて、密かに依頼の邪魔をしている可能性のほうが高いように思える。内部にいるからこそ、正体を掴めずに呪いなんていわれてるんだ。
それなら、ラダン、バルダー、メルル、キールのいずれかが依頼を妨害している犯人ってことだ。こうなると俺は無能キャラを表向き継続して、味方を油断させ続けたほうがよさそうだな。
ちなみにこの依頼はB級なので、成功するにはスピードに加えてクオリティも要求される。
誰か一人でも治癒の難しい重傷を負えば、受付嬢によってクオリティの部分が減点され、それが高級の依頼であればあるほど失敗とみなされる可能性が高い。
そこで俺みたいな一見弱そうなやつがいればいつでも襲って怪我を負わせることができると思うだろうし、妨害行為も緩和されるかもしれない。
今後は俺が目立たないようにパーティーに貢献し、妨害行為があればこっそり跳ね返し、このパーティーを成功に導いてやればいい。
この四人の中で誰が犯人なのか、どうして依頼を失敗させようとしてるのか知りたいし、暴いてやろうと思う。その日が来るのが今から楽しみだ……。
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