17話 不可解
「……」
あれから、俺たちは道なき道を歩き続けた。
モンスターとの交戦、索敵等で【時の回廊】パーティーがその力をいかんなく発揮する中、臨時メンバーである俺は薄暗い森の中を照らす照明係くらいしかしていなかった。
それは自分が戦いに参加する必要がないと思えるほど周りが強かったからだが、ほかにも理由があった。
どうしても腑に落ちない点があって、それについての考え事を優先したかったんだ。
俺はこのパーティーにとって本当に必要だったのかという、根本的な疑問を解決しておきたかった。
自分たちは最速といっていいスピードで進んでると思う。
シーフのキールが黙々と先へ進むのは、索敵だけでなくマッピング能力によってパーティーを正解のルートへと誘うためだが、彼は見事にその役割を完璧にこなしている。
仮に俺がいなくても、彼らがこの依頼を成功させる確率は高いように思えるし、失敗する要素がまったく見当たらないんだ。
じゃあ、なんで臨時メンバーを募集したのかが疑問だし、今まで大きな依頼を失敗し続けたというのも納得がいかない。バラモ森林の陰鬱すぎる空気と相俟って、それがなんとも不気味だった。
「モ、モンドおにーちゃん、気にしないでっ。きっと出番は来るからぁ」
「あ、あぁ……」
こんな具合に白魔導士のメルルから気を遣われるという有様。やろうと思えばできるんだが、今は考えを整理しておきたい。
「おうおう、メルルにこれ以上調子に乗られても困るし、王子様のモンドの出番なんて一生来させなくしてやるからなっ!」
「お、王子様って……」
何故か戦士のバルダーからはそう見えるらしい。
「うん、そうだよっ。モンド様は私の王子様なんだからぁ」
「ちょっ……」
メルルに抱き付かれてしまった。
「こ、こいつら、いちゃつきやがって……。そのまま骨抜きにしてパーティーから追い出してやる! なあ、キールも協力してくれよ!?」
「……俺は自分の役割をこなしているだけだ。バルダー、お前が一人で勝手にやれ」
「お、おいっ!」
「ま、まあまあ、みんな、仲良く仲良く……」
吟遊詩人のラダンの声も虚しく、騒ぎは収まる気配がなかった。リーダーも大変だな。
俺たちはそれからしばらく進んだのち、周辺がいよいよ真っ暗になってきたこともあり、最初のキャンプをすることに。
今は頭が混乱してるから、考えを整理できるまたとないチャンスだ。
「それじゃ、俺は薪を集めてくるよ」
「モンドおにーちゃん、一人じゃ危ないから私もついてく!」
「い、いや、メルル、そこまで遠くまではいかないし、大丈夫だから……」
「うー、じゃあここで待ってるねっ」
「あ、あぁ。それじゃ、行ってくる――」
「――ちょっと待て、モンド。敵がいるかどうか、俺が調べてやる」
話しかけてきたのは意外にもキールで、神妙な様子で索敵している様子だった。モンスターが近くにいないのはもうわかってるんだけどな。
「よし、大丈夫だ」
「ど、どうもありがとう、キール」
「……」
キールはふんと鼻を鳴らして去ってしまった。意外と親切なのか? よくわからないやつだな……。
「ああ見えて、キールは仲間思いなの」
「そ、そっか」
「そうそう、俺たちは仲間思いだ! なあ、ラダン!」
「そうそう! 僕らは仲間だっ!」
今度はバルダーとラダンが肩を組んだ状態で話しかけてきた。なんだか二人とも顔が赤いな。
「バルダー、ラダン、お酒くさっ! 私たち仕事中なのわかってるの!?」
「ひっく……いいじゃねえか、メルル、少しくらいよ! なあモンド、もしモンスターがいたら、こっちに逃げ帰ってくりゃ俺がぶった切ってやるから、とっとと行ってこい、王子様!」
「そうそう、モンド君! 出番は必ず来るから、いじけて帰っちゃダメだよ! おえっぷ……」
「あ、あぁ、どうも……」
すっかり舐められちゃってるな。まあむしろこのほうが都合がいい。
「……」
俺はその辺で木の枝を拾いつつ、彼らのような強者たちが何故D級に留まってるのか、強さ的に必要もないのにメンバーを新たに募集したのか、その理由をあれこれと思案していた。
そういえば、彼らが募っていたのは正規メンバーではなく、あくまでも臨時メンバーなんだよな。
まさか……大きな依頼の達成を目指すとか言いつつ、上を目指す気なんてさらさらなくて、実は冒険者を殺すため、とか?
んー……確率としては低そうだが、まったくないわけじゃない。パーティーによる、快楽殺人や強盗殺人が目当ての冒険者殺しは特段珍しいことじゃないからだ。だからあえて正規メンバーを雇わないっていう見方もできるわけで。
それなら、正体を暴くためにもこのまま無能の振りをしていたほうがいいのかもしれない。警戒されたら尻尾を掴めない可能性も出てくるからな……。
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