A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
1話 追放劇
「モンド、ここから消えろ。てめえはもう金輪際俺のパーティーに必要ねえ!」
「……え?」
寝耳に水とはまさにこのことか。
俺はモンドっていう名の黒魔導士で、このベグリムの都で数年前から暮らしている男だ。
所属するA級パーティー、【風の紋章】の宿舎の自室で寝てたんだが、リーダーの剣士ゴートがずかずかと入ってきたかと思うと、いきなり追放処分を言い渡されてしまった。
「ちょ……ちょっと待ってくれ、ゴート。俺を追放……? 昨日Aランクに上がって祝勝会を開いたばっかりだっていうのに、一体何を言い出すんだ……?」
なんだこりゃ、わけがわからない。昨晩、これからS級を目指そうってみんなで誓い合ったのに……。
冗談だよ、悪かったなという台詞を期待したが、残念なことにゴートの目は血走っていて鼻息も荒く、演技をしている感じではなかった。
「冗談でもなさそうだな」
「あたりめえだろ、アホか!」
「……なあ、ゴート、理由だけでも聴かせてくれ。俺たちのパーティーは上手くいってたはずだったのに……」
俺の問いに、ゴートはこれでもかと顔をしかめてみせる。
「上手くいってたあ? そう思ってたのはモンド、てめえだけだろうが。追放する理由は、黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ! これだけでもクビになるのは必然なのに、さらに図々しく居座ろうとする精神が信じられねえってんだよ!」
「くっ……」
否定できない事実だった。確かに、魔力についてはカスといっても過言じゃない。
「いや、待ってくれ。それについては加入する前に話したし、了承済みのはずだ。俺は――」
「「――いい加減、黙って!」」
「あ……」
この声は……。部屋に入ってきたのは、パーティーメンバーの戦士ロナと白魔導士カリンだった。俺は彼女たちの姿を見て涙が出そうになる。
「ロ、ロナ、カリン、いいところに来てくれた……」
「あんたって本当に最低ね」
「最悪ですね」
「あぁ、いきなり追放を命じるなんて、ゴートはどうかしてる……」
「はあ? あんたのことよ、モンド!」
「ですです。モンドさん、あなたのことですよ?」
「え……?」
「へっ、バカが……」
二人の発言が自分に向けられたものだとわかって、俺は胸を抉られるような思いだった。
普段から言動が悪いゴートはともかく、ロナやカリンは自分のことを兄のように慕ってくれていると思っていたが、あれはただの幻想だったのか……?
「ロナ、カリン、こいつにとどめを刺してやれ」
「うん、ゴート様、あたしに任せてっ。そこの薄気味悪い男、今まで誰のおかげでここまでやれたと思ってるの? ゴート様やあたしたちのおかげでしょ!」
「そうですよ。リーダー様やロナさん、それに私が頑張ってあなたの魔力の低さをカバーしていたんですよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
実際、このパーティーは今まで何度も何度も窮地に陥っている。
剣士ゴート、戦士ロナ、白魔導士カリンの才能は俺よりもずっと上だと思うが、その分努力を怠ったのか動きに稚拙さ、大雑把さが目立っていて、モンスターとの交戦中に体の一部を失ってもおかしくなかった。
俺がいなかったら間違いなく無傷ではここまで来られなかったと思うし、物足りないかもしれないがそれでも貢献してきたっていう自負はあるんだ。
「まあ、まったく役に立ってねえとまでは言わねえけどよお、こんな石ころみてえなクソ黒魔導士の代わりなんていくらでもいるレベルだっての。なあ? ロナ、カリン」
「うんうん。てか、ここにいるのがモンドじゃなくてほかの黒魔導士だったら、120%もっと上まで行けてるよー」
「ですね。低レベルの黒魔導士だから追放するってだけの話なのに、それで不満を言われるなんて逆切れもいいところじゃないでしょうか? リーダー様が不憫でなりません。ぶっちゃけ、あなたと顔を合わせるのも気持ち悪かったです」
「……」
ダメだ、もう完全にいらない人扱いされてる。てか、まだ納得がいかないことがある。
「なんで、なんでいきなりこんなことを……」
「「「ププッ……」」」
俺の言葉に対し、三人が噴き出すように笑った。まさか、今までの暴言は冗談だったのか? 頼む、そうであってくれ……。
「そんなのよお、厚顔無恥なてめえを天国から地獄に突き落とすために決まってんだろうが!」
「そうよ。そのほうがたっぷりあんたにダメージを与えられるしね。てか、それ以外に理由なんてある?」
「本当に、がっかりする姿が惨めで面白かったです。気色の悪い勘違いさん、目障りですので早く消えてください……」
「わ、わかったよ……消えればいいんだろ、消えれば……!」
俺は立ち上がり、荷物を整理し始めた。畜生……怒りで手が震えて上手くいかなくて、それがツボだったらしくどっと笑い声が上がる。
「あ、そうそう。モンド、てめえのパーティー脱退の手続きはもうしておいたし、実力のない寄生虫で詐欺師だから追放したって噂も広めてやったから、あとのことはなーんにも心配しなくていいぜっ!」
「うんうん。モンド、ついでに才能ないから冒険者も辞めたほうがいいよー!」
「なんなら……モンドさん、人生をお辞めになってもかまいませんよ……?」
「「「アハハッ!」」」
「……」
物凄く惨めだし悔しいけど、俺はもう何も言い返さなかった。ここで顔を真っ赤にして喚いたら余計に面白い見世物みたいになるだろうしな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます