番外編 水着選び①

「琴〜!こっちだよー!」



 今日、琴葉は七瀬と2人で、夏休みに使うための水着を買いに来ていた。




「お待たせしました」

「いやいや、私も今来たとこー!」

「なら良かったです」



 水着を買うために、ショッピングモールの前に集合した。奏太と一緒に買いに行かなかったのは、本番までのお楽しみにするため。



 それに、女性同士で買った方が色々と相談しやすいからだ。




「じゃあ、早速行こっか!」

「はい!」



 日光が降り注ぐお昼ごろ、2人はショッピングモールの中へと入った。入口から少し歩けば物凄い人だかりが出来ていて、土日の人の多さを感じさせられる。



 店内に鳴り響くBGMと、行き交う会話声。琴葉と七瀬はそこを突っ切って中へと進んだ。




「………そういえばさ、琴と奏太ってスマホとカバー色違いだよね」



 水着売り場へと行く最中、以前奏太と2人で行ったスマホカバーの店の前を通る。それを見て、七瀬が思い出すようにして、琴葉に振った。



 琴葉も奏太もそれを隠す素振りは見せていなかったので、バレてしまうのも当たり前の事だった。




「まぁ、そうです」

「それはどっちから提案したの?」

「…………私です」



 提案だけでなく、購入したのも琴葉だ。それもサプライズで。




「付き合う前に、でしょ?」

「前からです」

「そんな前から仲良かったの?」

「仲が良かったというよりかは、奏太くんは恩人なので……」



当時は、公園で話を聞いてもらったり、看病やスマホの購入にも付き添わせてしまった。



 それがあったからこそ、琴葉はこうして元気な状態でいるし、人から自分を見てもらう事の嬉しさを知った。



 スマホカバーは、人として生きる意味を教えてへた奏太恩人への小さな感謝の一つだ。今でさえ返しきれない物を貰っている。




「照れてるの?もう〜、琴は可愛いなぁ」

「揶揄わないでください」



 恥じらうように言葉を発する琴葉に、七瀬はニヤけて話す。


 


「……でも琴は本当に可愛いよ。可愛くなった・・・の方が正しいかもだけど」

「はい?」



 七瀬は顔色一つ変えずに、琴葉の方を見る。首を傾げる琴葉を視界に入れれば、七瀬はほんの少しだけ口角を上げて、口を開いた。




「………今だからぶっちゃけると、奏太の家で琴と会うまではさ、琴って愛想よく接してるだけの、ちょっと寂しい人って印象だったんだ」

「そうかもですね……」

「もちろん今は全然そんな事思ってないよ?あくまで昔の話だからね?」

「分かってますよ」



 突然話し始めた、琴葉への印象。それは琴葉自身の成長などを確認するための、良い機会ともなった。




「多分そんな風に感じる人は少なくて、周りの人達は琴の容姿とかお淑やかさとかに惹かれてると思うの」



 七瀬の言う通り、それは今だって変わらずそうだ。本当の琴葉を見てくれる人なんて指で簡単に数えられる。



 あの日奏太に出会っていなければ、ただでさえ少ないその数字は、0だったのだ。




「同じクラスでもないし、接点もなかったからね。……もう一度言うけど、あくまでそういうイメージだったってだけだよ?」

「分かっています」



 七瀬はまだそう感じているだけも凄い方だろう。ほとんどの人が琴葉の本来の姿を見ようともしないし、知りもしようとしなかった。




「でもあの日に奏太の家で見てさ、あれ?この子ってこんなに明るい顔してたっけって思ったの」

「………\\」

「なんというか、明るい顔というよりかは、警戒心が緩んだ猫みたいな感じ……」



 琴葉も、奏太の事は家にご飯を食べに行くくらい信用していたし、信頼していた。



 自分を見つけてくれた唯一の1人なので、そうなってしまうのも無理はない。




「その時に、私の中のイメージはガラッと変わった」

「変わった?」

「あ、この子は自分を出した事がないんだ。……出した方を知らないんだって」



 七瀬の言う事は8割は合っている。ただ少し違うのは、先に奏太と出会って、自分の出し方を教えてもらった事だけだろう。




「元々綺麗だけど、本当はこんなに可愛い顔なんだ、私もこの子と友達になりたい。ずっと笑顔でいさせたい、そう思った」



 振り返ってみれば、七瀬は琴葉に色々と良く接してくれていた。ファミレスでも、人間なら秘密があるのは当たり前と言ってくれたり、琴葉にいつも明るく接してくれたりした。



 友達なら迷惑をかけてもいいし、悩みがあったら話も聞く。そう言って、いつも琴葉の事を思ってくれていた。



 琴葉に出来た初めての同性の友達。それが七瀬で良かったと心から思えた。




「私、七瀬さんと友達になれて嬉しいです。ありがとうです」

「私も〜!」


 

 琴葉の言葉に喜んだのか、七瀬は勢いよく抱きついた。




「……だから、琴は誰かのお陰で可愛くなったのかなぁ?」

「ん!……やっぱり七瀬さん嫌いです!」

「えー、でも私は好き〜」

「………私もですよ」



 話し終えると同時に、ちょうど水着売り場の場所に到着した。こんな所に来る機会なんてこれまではないので、琴葉は微かに緊張していた。



  

「琴、可愛いの買おうね!」

「はい!」



 緊張していた琴葉の腕を掴み、七瀬は大きく一歩を踏み出した。




 


-----あとがき-----


・本編はもう少し先になりそうです……。



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