第68話 アトラクション

「何名様でしょうか」

「2名です」

「2名様、お好きな所に座ってお待ちください。スマホ等の電子機器や財布などは座って前方にある網の中に、それ以外のものは横に置いてあるカゴをお使いください」



2人で会話をしていると、ジェットコースターの順番なんてものはすぐに回ってきた。落としそうな荷物などは網に、鞄は横に置いてあるカゴの中に直し、安全性バーとベルトをしっかりととめる。



従業員の人が再チェックを行い、奏太は左側で日菜さんは右側という座り順で、開始のアナウンスを待つ。




「それでは、いってらっしゃーい!」



その合図と共に、ジェットコースターは前進し始めた。ゆっくりと進んでいき、いきなり登り道が視界に現れる。




「奏太、ドキドキするね」

「初っ端からこんなの選ぶからでしょ」

「もう!これくらいやらないと最近の高校生にはついていけないよ?」

「知りませんよ」



そうは言ったものの、七瀬や拓哉当たりなら真っ先に絶叫系のアトラクションに乗りそうだ。おそらくそれが高校生としてあるべき姿なのかもしれない。




「ほら、くるよくるよ」

「ですね。来ますね」



みるみるてっぺんまで上がっていき、気がつくと空を眺めていたはずなのに、下を向いていた。




「きゃーーーー!!」

「……………わ、」



すごい勢いで降下するアトラクションに、日菜さんは満点のリアクションを浮かべる。かたや奏太は一言漏らしただけだった。




「奏太、怖くないの?」

「別に怖くはないですね」

「声も出ないの?」

「逆になんで声が出るんですか?」



生まれてこのかた、ジェットコースターで声を上げた事はない。特別ジェットコースターに強いわけでもないし、好きというわけでもない。



ただどのタイミングで声を出せば良いのか分からないのだ。




「じゃあ、次はどこ行く?」



あぁ、今日は本当に遊ぶ尽くすつもりなんだなと理解しつつ、辺りを見渡す。一番近くにあるのはお化け屋敷だが、きっと琴葉が行ったら無言で怯えるのだろう。



そんな事を予想しながらも、視界に入ったお化け屋敷をずっと眺めた。




「お化け屋敷とかどうです?」

「おっ、いいねぇー」

「さっそく行きますか、」

「怖かったらお姉さんに掴まってもいいからね?」



歳の差は3年ほどで、高校生にもなった奏太にお姉さん面をしてもこれといって意味はないのだが、日菜さんらしさがあった。



奏太が中学の時からすると、これはだいぶ収まった方か。




「結構入り口に凝ってるねぇ〜」

「多分入り口だけですよ」

「奏太はお姉さんの後についてきなさい」

「………はいはい」



お化け屋敷の入り口を抜け、中へ入る。少しずつ外からの明かりは消え、それなりに作りの上手い装飾が目に入る。




(そろそろ出てくんのかな?)



なんて思っていると、前方に白いワンピース姿の女の人が姿を現した。




「ばぁ!!」



井戸の中から出てきたワンピースの女性はそんな大きな声を出した。



(…………この前のホラー映画の方がよっぽど怖かったな)



その映画はちょっとしか見てないが、それでもあのクオリティに比べるとやはり劣ってしまう。映画と比べるのは良くないが、今のはお化け屋敷感が満載だった。



こんなありきたりな展開に驚く人なんているのだろうか。




「日菜さん?先進まないんですか?」

「こ、腰抜けた」

「え?」



前言撤回だ。こんなありきたりな要素に驚く人は身近にいた。しかも謎のお姉さん面をしていた日菜さんだ。




「怖いの苦手なら言ってくださいよ」

「苦手じゃない。驚いただけ」



この強がる所は誰かに似ているな。そう感じるが、本人が驚いただけというなら信じるしかない。というか、初っ端から時間をかけるすぎるわけにはいかない。



他にもたくさん罠があるはずなので、ここで止まってると時間の無駄だ。




「進みましょ」

「……立てない」

「はぁ」

「おんぶして」

「えー、俺がするんですか?」

「奏太以外誰がいるのよ」



もう2度と日菜さんとはお化け屋敷に来ないと、心の中で決める。日菜さんが立てるようになるまで待っているわけにもいかないし、そのうち他の客も来るはずなので、選択を余儀なくされた。




「立てるようになったら降りてくださいね」

「………かたじけない」

「ふざけるんだったら降ろしますよ」

「乗せてくれてありがとうございます」

「いえいえこちらこそ」



日菜さんの前にしゃがんでみれば、奏太の後方へと近づいてくる足音が聞こえる。




「………ごめんね」

「いいですよ。日菜さんにはお世話になったので」

「………奏太・・は変わったね」

「はい?」

「何でもないよ」



声のトーンが一瞬落ちたような気がしたのだが、気のせいか。まさか彼女がいるのに他の女の人をおぶる日が来るとは思いもしなかった。



奏太の背中に体を密着させれば、柔らかいものがずしっとのし掛かる。後方部分に女性を乗せるのは初めてなので、ちょっとドキリとした。




「ちゃんと乗りましたか?」

「乗った」



そう確認して、しゃがんでいた状態から立ち上がる。琴葉よりは重さを感じるものの、それでもやはり女性らしい軽さだった。



落ちないように内腿に手を回せば、モデルのように細い。さらに立ち上がった時の振動で、背中に当たる二つの実も振動を跳ね返した。



(………やばい)



よく考えれば、美人で実っていてスタイルの良い女性を乗せているわけだ。普段琴葉で慣れているので耐性はついてきていると思うが、それでも同等に顔立ちの良い日菜さんには対処しようがない。




(これ以上は何も起こりませんように)



日菜さんを背中に乗せて歩きながら、そんな事を考えた。





-----あとがき-----


・奏太くんいいな。可愛い彼女に綺麗な自称お姉さん。しかもどっちも可愛い。



いいな。

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