第62話 サラダチキンと色

「おかえり」



奏太がお風呂から上がった数分後、一通り家中を探し回った。それでも見当たらなかったので、今になって自分の家に帰ったのかと思ったが、リビングに着替えは置きっぱなしにしていた。



もしそうだとするなら、どこかに出かけたのだろうと予想した。



案の定その予想は的中していて、奏太は玄関に仁王立ちで立ち構えていた。




「どこ行ってたんだ?」



説教よりも心配の気持ちの方が強く、玄関で靴を脱ぐ琴葉にそう尋ねた。




「ちょっとコンビニまで……」



琴葉の手を見てみると、近くのコンビニに行ったのであろうレジ袋を握っていた。中はよく見えないが、琴葉が自ら手を突っ込んで買ったであろう品を手渡ししてきた。




「これ、食べてください」



渡された物に目を移せば、コンビニに売っているサラダチキンだった。何故にサラダチキンなのかと疑うも、その答えはすぐに分かった。




「俺のために買ってきてくれたのか?」

「丈夫になりたいと言っていたので………。私にはまだ、これくらいしか出来ませんし、」



奏太が丈夫になりたいと言ってから、僅か数十分。その間に奏太のためになるものを買ってきてくれていた。



琴葉が筋肉を付けるための食べ物なんて知ってるはずもないので、恐らく奏太の入浴中にふと調べたのだろう。



それで買いに行くなんて、行動力が凄すぎる。




「私ばかりが甘えるわけにはいかないです。それに守ってもらうばかりでも………。出来る限りのサポートくらいはします。いえ、したいんです」

「琴葉、、、」



せっかくお風呂に入ったのに、雨でまた少し水滴がついた髪に触れる。レジ袋の逆の手には傘も握っていたので、過度に濡れたわけではなさそうだ。




「あ、すみません。傘、勝手にお借りしました」

「好きに使ってくれていいよ」



そう言い、もう一度洗面所に向かいタオルを手に取る。靴を脱ぎ玄関で待つ琴葉にそれを頭から被せた。



ついた水滴を一滴残らず拭き取り、服も一応拭いておく。




「シャツ、新しいのに変えるか」

「………そこまで濡れてないですし、私は気になりませんけど」

「別に遠慮しなくてもいいぞ。それはまた洗濯すればいいだけだし、」

「奏太くんがそういうのでしたら、また着替えます」



前みたいにまた風邪を引かれても困るので、最低でも服だけは変えてあげたい。



本当はもう一度お風呂に入るのがベストなのだろうが、奏太の家の傘を使っていたようで、体自体はそこまで冷えたわけではないようだった。




「今から新しい服持ってくるけど、他にも何か買ったのか?」

「あぁ、これですか……」

「これ?」



琴葉は、まだ何か入っているであろうレジ袋を自分の体の後ろに隠した。




「………備え、といいますか」

「備え?」

「いえ、なんでもないです」

「気になるんだけど」

「大したものではないですよ」



琴葉が隠そうとするのを無理矢理知ろうとはしないが、少し興味を持った。大したものではないというので、そうなのだろうが。



ひとまずは琴葉をリビングに行かせて、奏太はまた自室へと戻った。クローゼットをあさるも、やはり琴葉サイズのものはない。



今回は中学の頃に着ていたやつにも目立ったものが見当たらなかったので、適当なシャツを一枚用意した。



短パンは、まぁ変えなくても良いだろう。



先程のものよりも大きめのシャツを手に持ち、奏太もリビングへと向かった。




「ほい、これ新しいシャツな」

「どうもです」



用意したシャツを渡し、着替え終わるのを待つ。元々着ていたシャツを洗濯機の中に入れるためにも、脱衣所へと行った。




「奏太くんって全体的に黒とか白の服が多いですね……」



帰ってきた琴葉からは、まず初めにそんな言葉が出てきた。




「そうだな。俺もちょっと暗い時期があったし、俺っぽい色だろ?」



ここ最近、白や黒などの華美でない服を好むようになっている。元から目立つ性格ではないし、内面が現れた彩りを表現出来ていると思っているが、琴葉の言う通り、確かにそれらの色しかない。



あんまり服とかに興味を示すタイプでもないので、これといって気にもしていなかったが、新たな色などにも踏み込んでみるのもいいかもしれない。




「私は奏太くんを色で表すなら、夕暮れみたいな色ですかね」

「そんな色じゃないと思うぞ」



リビングの入り口に立つ琴葉は、奏太が座るソファの隣に腰を下ろす。




「私にとっては、ですよ?」

「……理由を聞いてもいいか?」

「夕暮れって、夕焼けに比べると暗いんです。それは夕暮れが太陽を隠しているからです」



夕暮れの事を太陽が隠れると言わずに、太陽を隠していると表現する人は中々に珍しい。




「それってつまりは、本当は太陽の様な暖かい心を持っているのに隠してしまう、奏太くんに似てると思うんです」

「俺に太陽のような服を着ろと?」

「あくまで本質の話です。客観的に見て夕暮れは明るくはないでしょう?でも…」

「琴葉の言いたい事は分かったよ」



結局のところ、琴葉にとって奏太は太陽のような存在という事なのだろう。それを隠しているのが奏太らしい、そう伝えたいのだ。




「俺は琴葉は、白だと思うな」

「私も理由を聞いていいですか?」

「白は何にでもなれるから、だな」

「ずるいです」

「ずるくていいだろ」



そう言って頭を撫でてみれば、満足そうな顔をした。




「………頭を撫でれば解決、とか思ってませんか?」

「嫌ならやめる」

「嫌じゃないです」



猫のように愛らしい表情を浮かべる琴葉と目を合わせる。このまま撫でておくのも悪くはないが、何か新しい事をしてみたい。



それこそ、もっと琴葉が大きなリアクションをするような。




「琴葉、映画でも見る?」

「映画ですか、どんなのです?」

「ホラー映画」



奏太のその発言の後、猫の様な表情をしていた琴葉の顔は、一瞬にして強張った。







-----あとがき-----



・書きたいことが多すぎて、お泊まりも話数が増えそう。



ゆっくりとイチャイチャするので、甘い目で2人を眺めてくださいな!



もう少しで100人を越えそうなTwitterも良ければ………。



@yutoo_1231

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