第60話 星と雨と琴葉
「はい……」
泣き崩れた琴葉からは、奏太の提案に頷く声が聞こえた。落ちていたシャツを拾い、琴葉を遮るものなく対話する。
「お泊まり……」
「どうかしたか?」
「………そういうのには、憧れがあったので」
奏太の胸元で苦悩を吐き出し、泣いた琴葉は、奏太の言う通りに前を向いて、明るく表情を浮かべた。
それでもその内容は、過去に縛られて経験した事のないものだ。この他にも、未だに未経験の物は多そうだった。
「俺と一緒に、どんどん新しい事をして行こうな」
「どんどんします」
「ちゃんと自分のやりたい様にしろよ?」
「はい。………私の事を絶対に見逃さないんですもんね」
「当たり前だよ。俺は
琴葉は自身の母から言われた事を決して忘れたわけではない。それでもただ1人、これから先もずっと見守ってくれる人がいる。
それを再度実感出来たらしく、歓天喜地の表情を見せていた。
「あ、星だ」
「あんな雲ばかりなのに良く見えたな」
空を覆っている雲が、ほんの一瞬だけ光を通す。星達が琴葉にスポットライトを照らすかのように、奏太達の目に星が映った。
「以前雲を見た時は、1人でも2人でも変わらないって言いましたけど、やっぱり結構変わりますね」
「そうか、」
前回とは違い、何かしらの心境の変化があったらしく、こうして星を見た時に感じるものが違ったようだ。
以前漂わせていた哀愁も消え、今では純朴で可憐な少女が1人ポツンと空を眺めていた。
「………夏休み、星を見に行くか?」
天体観測でもしてみたいな、そう発言したのを思い出したので、琴葉に提案した。今こうして眺めるものよりも、はるかに綺麗で美しい星空を見せてあげたいのだ。
「星、見に行きます。奏太くんと」
「それ以外にも夏には楽しい事が沢山あるぞ」
「……楽しみです」
過去の人生よりも、これからの人生に意味に意味をつけようとする琴葉の頭をポンっと撫でる。
それを拒否する事なんてもちろんなく、快く受け入れてくれた。
「夏がこんなに楽しみなのは初めてです」
「楽しみなのは琴葉だけじゃない。俺も楽しみだよ」
「奏太くんも楽しみなのですか」
「楽しみに決まってるだろ」
去年とは違い、好きな人と2人で過ごす夏休み。その期間は、2人にとってきっとかけがいのないものになる。
想像するだけでも、薔薇色の夏休みを送っているのが安易に目に見える。
「奏太くんと出会ってから見える景色は変わりましたけど、これから見れるのはもっとキラキラしていて美しいものなんでしょうね」
「そうさせるのが、俺の役目だな」
「気負わないでくださいね」
「気負うに決まってるだろ」
琴葉にそう思ってもらえるように頑張るのが、隣に立つ者としての
琴葉が今以上に喜怒哀楽などが豊かになるように、そう取り組むべきだ。
「俺も頑張らないとな」
琴葉の隣に立つためにも、それに相応しい男にならないといけない。ほぼハイスペックの琴葉に並ぶなんて並大抵の努力ではどうにもならないが。
彼女が今まで頑張ってきたように、その経験に見合う男になるのは常識だ。『守る』という言葉に嘘がないように、『見続ける』という言葉にも責任を持てるように、これから自分磨きをしなければいけない。
隣に立って見劣りしないような、琴葉が奏太の事を誇れるような、そんな男になる。
「奏太くん、私もいますからね」
「知ってるよ。だって彼女だしな」
「……です」
引き続き頭を撫でれば、琴葉は顔を下に向けた。この子はどうやら、顔周辺を撫でられるのが好きみたいだ。
「あ、そうです。私着替え取ってこないと…」
ポツリ、、ザァァァァーーー
琴葉がそう言うと同時に、怪しかった雲行きが
雨を降らせる。奏太は手に持っていたシャツを、また琴葉に被せる。
「行こう」
そう手を差し伸ばす奏太。そしてそれを迷う事なく掴む琴葉。
「でも着替えは……」
「俺の服で良ければ貸すよ」
「借ります」
「じゃあ行くか」
「行きます」
どんどん強く降る雨と、それに打たれる2人。そこを笑いながら走っていく姿は、前回の公園の時とは大きく違っていた。
雨が降り終わった後でもなく、琴葉が1人泣き崩れる前でもない。今回は全て前回よりより良いものとなり、そして2人を前へと進ませた。
「ちゃんとついてこいよ」
「ついて来れなかったらどうします?」
「そりゃ待つに決まってるだろ」
「……しっかりと手を握って、離さないようにしていてください」
「言われなくても離さないよ」
雨に濡れて服はびしょびしょで、それに伴い体温も低下しているのだろうが、心だけはそれと反比例するかのように、温まっていった。
-----あとがき-----
・投稿遅れてすみません!!!!
ここはもう少し時間をかけて書きたかった。それでも必要最低限の事は書けたかな?
お泊まりまで焦らしましたけど、いよいよですのでお楽しみに〜!
レビューやコメントもぜひ!
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